杉田荘治
はじめに
アメリカの連邦教育省は各州の学力標準テストのチェックを強めている。
5年前のNCLB法の施行にともない、連邦教育省は公立学校生徒の学力、とくにリーディン
グと数学について、すべての生徒が2014年までに「良好」レベルに達することを目標にして、
躍起になっている。 そのため各州が実施している学力標準テストが全米的に比較できる
ようにすることが必要になり、拠るべき基準を示して、それによる点検を強めているのである。
大部分の州は大筋において合格≠オているが、しかし細部では例えば「英語に不自由な
生徒」や「身体不自由な生徒」のそれや、また技術的なことで一部、不合格とされるものが多い。
それに対して連邦資金の一部カットなどのペナルティを科して、その是正を図っているのである。
T 連邦教育省による州の学力標準テストの点検結果
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【註】 資料はUSTODAY,2006年7月7日号から要約した。 なお、ペナルティとは、 州の規模や違反の程度によって4万ドル〜100万ドルの連邦資金のカット。 MaineとNebraskaは最大のカット率となる。 これについては後述する。 |
通達の方法
連邦教育省は各州に対してWWWを利用して個別に改善すべき事項を通達している。
参考までにその一部を下記しておこう。
Consolidated
State Application Accountability Workbook for State Grants under Title IX, Part
C, Section 9302 of the Elementary and DUE:
JANUARY 31, 2003 |
U メイン州の場合
前述表のようにMaine州は連邦教育省によって[不合格]とされた。
その理由は、高校2年生(11年生)のテストについて、SATテスト、すなわちアメリカの大学
入試で必要とされるテストを利用し、これを評価に含めていることが違反とされたのである。
とくに数学について問題ありとされている。 連邦のNCLB法によるテストや評価基準は、こ
れまた前述したように全米的に比較できる単純な基準によらなければならない。
そのためMaine州は連邦資金10万ドル、正確には11万4,000ドルを失うことになる。
従って数学について別のテストを実施して整合性を図るか否かが問われることになるが、
Gendon州教育委員長は「SATテストはたんに大學受験の高校生のみならず、すべての
高校生には必要であり、また学力もつく」と反論しているが、しかし「将来、再工夫するこ
とも必要であろう」とも言っている。 【資料: The Lincoln Couty News,
2007年1月4日号】
なおSATテストについては第152編を見てください。 下記のことが述べられている。
アメリカ(U.S.A)では大學入試のさいにはSAT
T・Uを事前に受けてくることが必須要件である。
従って、わが国の『センター試験』に相当するが、両者には多少の相違も見られる。 そのうち
SATTテストとは正式にはStanford
Assessment Test Tのことであるが、正確にはSAT
Reasoning Testと呼ばれ、Verbal(ことばの、語の)という分野と数学についての基礎的な表現
力、理解力、論理的思考力を問うテストである。 内容的には人文科学、社会学、自然科学、人間
関係学なども含めて広範で基礎的なものである。
多分、メイン州の場合はこれを利用しているのであろう。
なお参考までにSATUは正しくはSubject Testといわれ、専門教科の能力を問うテストで各大学は
その一つ以上を受けてくることを義務づけている。 しかも例えばHarvard大學へ毎年約10名、高
校の成績証明書なしにSATT、SATUテストの高得点のほかエッセイ、面接、推薦書によっ
て入学し、その他多くの大學がこれに準じている。従って年齢制限もその点、緩やかである。
V ネブラスカ州の場合
これについては第191編を見てください。 すなわち、
連邦政府NCLB法が求める1回の“一発勝負的テスト”に依存する評定方式ではない。
517地方教委が独自に評定方式を作り、それに拠るのである。 また教員による平素
の観察と評価、地区ごとのテスト結果、州の標準テストの結果、また全米的に行なわれて
いるテストの結果などを総合して評定する。
そのあと、資料を州教育当局に提出して外部専門家によるチェックを受ける。
これはNebraska-led Peer Review of STARSと呼ばれているが、今年度は2006年
10月30日〜11月2日、2007年1月22日〜26日、3月5日〜9日、4月23日〜27日と分け
て実施されることが公表されている。
ONAHA WOWT.COM 6 News, 2007年1月6日号も同じようなことを記しているが、これで
は連邦の求める基準に大きくそれることになる。 そこで連邦資金12万5,000ドルを失うこ
とになろう。 これに対してChristenson教育委員長は反対理由を強調しているが、それに
ついては第191編を参照してください。
一方、連邦政府のほうはブッシュ大統領は2007年度予算でも、ネブラスカ州に対して他の
事項で熱く配慮していることを強調して、ネブラスカ州の態度を変更させようとしている。そ
の一部を下記しよう。
President Bush’s Continued Commitment to Education 2007 Budget Good
News for Nebraska's Children
How the President’s Budget Will Help Nebraska's Children and
Families
○ Increases Federal education funding in Nebraska to $765.1 million―54.4
percent more than when the President took office.
○ Provides $121.5 million to help Nebraska implement the reforms of No
Child Left Behind.
参考 Nebraska州に関する統計 2004-05年度 (資料: Nebraska Department of Education)
○ 地方教委の数 488、 私立学園の数 219、 州立運営 4、 合計 710
しかしこのなかには、小学校だけしかない地方教委やクラスが一つというところもある。
○ 公立学校の教育財政状況
・連邦からの資金 7%、 ・地方からの資金 53% ・郡からの資金 2%
・州からの資金 37% 合計100%
○ 地方教委は教育税として、固定資産税を家屋所有者に課すが、それは家の評価額
の100ドル単位で査定される。 ミル課税(mill levy)と呼ばれているが、毎年、教委は
必要経費から、その%を決定している。
おわりに
ご覧のとおり、連邦教育省は各州の学力標準テストのチェックを強化している。点検
結果は一覧のとおりで、大部分は連邦の求める基準に大きくそれてはいないが、メイン
州はSATテストを加えていること、またネブラスカ州は州独自の方式に固執していること
を問題視している。 今後も予算面における特別な配慮とともにペナルティもちらかせな
がらNCLB法の方式を進めていくものと思われる。
2007年1月17日記