191. 学校評価にはネブラスカ方式も参考になろう


杉田荘治


はじめに
   学校評価について今、わが国ではイギリスのOFSTEDを参考にしようとしていることは
   第190編
で述べたが、ネブラスカ方式も参考にしたほうがよいように思われる。
    ところで、このネブラスカ方式のことは第133編で述べたのであるが、今年7月、連邦教
   育相は、「この方式は承認しない」と同州に通知した。
 そこで、その新たな動きも含めて
   改めてこの問題を要約して参考に供することにする。

T 連邦政府はネブラスカ方式を不承認

   今年(2006年7月)、マグネット・スペリング教育相は一旦、承認していたネブラスカの学校
  評価方式を「承認しない」こととし、その旨を同州に通知した。
  その理由は連邦政府はNCLB法によって「3年生から8年生まで、高校生は1回、リーディン
  グと数学について連邦が承認した州の学力標準テストを実施すること」としているが、ネブラ
  スカ州だけは独自の方式によって、リーディング、ライティング、数学、理科、社会/歴史の標
  準テストを行ない、そのほか全国標準テストの結果も参考にして各地方教育委員会が独自の

  方法を採用することを許しているからである。

   連邦から「不承認」とされれば、連邦からくる資金、12万5,000ドルを失うことになる。 これ
  に対して同州のDoug Christensen教育委員長は立腹して「たんに銭だけの問題ではない。
  第一、連邦は昨年、われわれの方式に事実上、承認を与えていたではないか。 不誠実であ
  る。 またわが州の方式の良いことは各種の全米的な統一テストでも証明されている。」と反
  駁している。  なおそのテストの結果については後述しよう。
  【資料: KETV.com. 2006年7月6日号、 SIOUX CITY Journal.com 2006年11月2日号】

U ネブラスカ方式とは
   これについては既に第133編で述べたが関係個所を再掲しておこう。
    School-based, Teacher-led, Assessment Reporting System:STARSといえよう。
   ○ 連邦政府NCLB法が求める1回の標準テストの結果のような“一発勝負的テスト”に依存
     する評定方式ではない。 517地方教委が独自に評定方式を作り、それに拠るのである。
   ○ 教員による平素の観察と評価、地区ごとのテスト結果、次ぎに示す州の標準テストの結果、
     また全米的に行なわれているテストの結果などを総合して評定する。

   ○ そのあと、資料を州教育当局に提出して外部専門家によるチェックを受ける。そのさい生
      徒の点数のみならず、問題の質や程度などもチェックされる。 すなわち、
    ・ 州の標準や地方の標準についても反映されているか。
    ・ 先入観のない評定であるかどうか。
    ・ 習熟しているとされるレベルなど、レベルは適当か。
    ・ 得点が年度によって大きな違いがないか。

    これを補足すると、州独自の標準テストは次ぎのとおりである。

 

STAR Standards


Reading/Writing

 

Science

Social Studies/History

   このように数学、リーディング、ライティング、理科、社会/歴史について、幼稚園児
  から12年生まで、総てテストが実施される。 またSTARSといわれるリーディングと
  数学については、その結果を州に報告しなければならない。

   次ぎに全米的なテストを利用すること
    1. 全米学力統一テスト(NAEP)
       この成績についてはネブラスカ州は良好のように思われる。 というのは例えば4年生の
       リーディングでも全米の平均点が217.3点(500点満点)であるが、ネブラスカ州は221.38点
       である。 また2005年度の成績をみても8年生数学では、全米平均点が278点であるが、 
       この州のそれは284点である。 [良好:Proficient]の生徒も29%(全米では23%)と多い。
      【資料: Nebraska School Choice, CHICES IN EDUCATION, EVERY CHILD IS UNIQUE
            EVERY SCHOOL IS DIFFERENT】

    2. ACTテストの成績も2003年度、数学で第13位である。 平均点は21.7点(全米20.8点)
    3. SATテストについても同様である。 数学では第9位。 平均点は1151点(全米1026点)
     【資料: ALEC American Legislative Exchange Council, A State-by-State Analyisis】

V ネブラスカ州の評価区分
   連邦のNCLB法による評価区分は、優(Advanced)、良(Proficient)、可(Basic)、不可(Below
   Basic)であるが、この州では次ぎの5段階によっている。 すなわち、 
    模範的(Exemplary),   非常に良い(Very Good),   良い(Good),
    改善を要する(Needs Improvement),   不良(Unacceptable)

   その成績についても良いようである。 すなわち、ネブラスカ州教育省の発表によれば、2005-
   2006年度の成績は、

   ○ 4年生 リーディングについて「良い、非常に良い、模範的」を合計して97.91%あり、8年生は
      98.14%,  11年生は99.60%もあった。
   ○ 数学についても、4年生は97.91%,  8年生は96.89%、 11年生は97.96% と良好である。
      
W ネブラスカ方式の問題点
  ○ どの地方教委が優れているのか、また劣っているのか州内で比較することが難しい。
  ○ 教員のほうが標準テストより優れている、という概念によっており、時には彼らの手腕はい
    かなる人でもコントロールすることはできないとする危険性もある。
  ○ 従って、一部の生徒の参加ではあるが、全米統一テスト(NAEP)、ACT, SATなどのテスト
    の成績を十分、参考にする必要があろう。
  ○ この方式には時間と費用が多くかかる。

参考 ネブラスカ州の公立学校教育財政状況 2004-05年度
      ・連邦からの資金 7%、   ・地方からの資金 53%   ・郡からの資金 2% 
      ・州からの資金 37%     合計100% 

おわりに
   ご覧のとおり、連邦政府から「不承認」とされたが、評価について、わが国では十分参考
   なろう。 連邦政府のNCLB法の求める、たった一回の“一発勝負”的な州の標準テストで生
   徒の成績(点数)によって地方教委や学校を評価するよりは、ネブラスカ州方式のほうが優
   れている。  しかし何といっても客観的な他との比較が困難な点がある。

    従って、わが国でこれを利用するさいは、全国統一テスト、各都道府県や地域のテストの
   結果も参考にすることを避けてはならないであろう。 それとともにイギリスのOFSTED方式
   のような学力以外の領域についての評価も重要視して学校評価を進める必要がある。

    最後に、フインランドの教育が案外、わが国教育の原点に似ているように思われので、今
   一度、わが国教育の良き原点に立ち返って今の教育を考え、併せてフインランドの教育を参
   考にすることも必要であろう。 それについては第160編を参照してください。

 2006年11月20日記           無断転載禁止