杉田荘治
はじめに
数日前の5月26日、各種報道は「中央教育審議会のワーキンググループは、現職教員にも
教員免許更新制を適用する」案をまとめた。同審議会は今後、結論を出すが「適用する」公算
が大きいと報じた。 ところで教員免許制については2004年11月に載せた第150編のなか
で私観を述べたが、ここではアメリカの例も述べながら改めて論考したい。
T 第150編から(私観)
わが国の教員免許の更新
10年目研修を強化することが良いと考える。 研修委員会として教員、教委、研究所、
大学、民間人からなる機関を創り、その計画に基づき、該当教員が校長が承認した
それぞれの研修計画を履修するものとする。
また判定の程度も高齢者に対する運転免許の更新程度でよく、合格(適性)または不
合格の区分で十分である。大部分は合格(適性)でよい。 結構、再トレーニングになり、
その間、自主的に免許を返上する者もあらわれよう。 無理に点数によるランクづけは
しないほうが、わが国の実情に合っているし、またそのほうが自分の長所を伸ばし短所
を補う研修に取り組もうとするなど効果的である。
大学院による再教育の案もあるようであるが、受け入れ定員や理論的すぎる現状から
して更に検討される必要があろう。勿論、共通の一科目としたり、希望する教員に対す
る選択科目とすることはよいが、もっと幅広く英会話教室、IT関連の職場、デパート、
食堂、ジム、矯正施設、病院など、現職教員が前述したように、この機会を利用したいと
するような制度を望みたい。
基本的には今でも、そのように考えているが前述したようにアメリカの場合を見てみよう。
もっとも、それについても精査したわけではなく数州の例を調べただけであるが、そのなか
でイリノイ州とネブラスカ州の更新手続きが参考になると考えるので以下、それらについて
述べる。
U イリノイ州の現職教員免許更新制
【資料】Standard Teaching Certificate Renewal Process これはIEAが原案をつくり、
1998年11月に州法となったものである。 要点
1. 権限
5年ごとに州教員免許委員会から免許の更新を受けるものとする。 同委員会が基準を作
り、これに拠って各地方職能成長委員会(LPOC)が地方教委やチァータースクールをとおし
て更新手続きをさせる。 なお不服申し立ては州委員会が受けつけるものとする。
2. 更新基準
a. 8学期(毎週1時間)相当時間の認定講習を履修すること。
b. 20単位の教職単位、最低100時間は必要である。
しかし次ぎに示す教育的諸活動の合計が、それに相当しておればよい。
すなわち、
・実験や各種連携 ・同僚をコーチしたこと、又は同僚教員の結果を検証した実績
・教育実習生を指導したこと、又は採用合格者を指導した実績
・公認された教育相談やカウンセリングでの実績
・教育現場に基礎をおく管理、決定チームその他これに関連する委員会、ワーキング・
グループなどでの実績
・学校での調整共同活動、地区、地方での父母との連携活動
・教育と連携した事業、地域社会における活動 など
3. 留意点
a. 大學の認定講習はイリノイ州の教員免許基準に合致していること。
b. 前記の認定講習でなくても、更新に関係のある会議、ワークショップ、セミナー、研究所、
シンポジュ-ムなどで発表した実績でもよい。
c. 教育以外の経験でも次ぎに示すようなものは認める。 すなわち、
・調査プロジェクトへの参加経験 ・更新に関する事業で学校で教えた経験
・教育に関する旅行、また旅行の30日前に承認を受けていた旅行
・NBPTSといわれる教員免許のコースを終了した者
・教育以外のスタディグループ、インターンシップ、学習プランに参加した実績
d. 職能的なリーダーシップについては次ぎのようなものも認める。 すなわち、
・学校、地区、地方でカリキュラムや向上計画での実績
・州、アメリカ全体レベルでの実績 ・チームなどでの実績
・州内外で検証チームでの実績 ・教育評論、論文、コラム、本などの執筆
・教育協会、組合での実績やリ-ダーシップ
4. その他
@ 前述したLPDC: 職能成長委員会、Local Professional Developement
Committee
の構成は、授業担当教員 3名、 行政官 1名、 その他 1名 であるが、いつも
過半数は授業担当教員でなければならない。 なお、この委員会は勧告を出す権限
をもっている。
A 更新手続きは、その年度の申請期限までには、いつでも申請することができる。また
その結果は30日以内に通知される。
V ネブラスカ州の現職教員免許更新制
【資料】Teaching Certificate Renewal (For person who have EVER held
a Nebraska
Teaching Certification)
1. 標準教員免許状、上級教員免許状の双方とも有効期間は5年である。
2. 更新基準
a. 人間関係トレーニングを充足すること。 すなわち、最初、免許状を得たとき、『人間関係
トレーニング』の領域でなお不充分であった者は、これを充足すること。
b. 申請前の5年間で6学期相当時間(毎週1時間)の認定講習を修了すること。
c. 申請前の5年間で2年以上の教職経験があること。 非常勤の経験でも正規の1/2以上
のものであればよい。
d. 他の州の教職経験でもよいが、それを証するコピーを添付すること。
f. 更新手数料は返還しない。
人間関係トレーニング: Human Relation Training
ネブラスカ州の場合はHUMAN RELATIONS SKILLS REQUIRMENTに次ぎのように規定
されている。
a. 1985年以後、別紙で定める認定講習の中から選び履修すること。
b. それ以外でも、州が実施したトレーニングを受けた場合は、その履修証明書でよい。
c. 上記以外でも、民間における経験があり、そのなかで6個以上のトレーニングを履修
しておればよい。
d. それ以外でも学校で教職経験があり、上記の要件を充たしていると教育長が認めた
場合も含まれる。 【註】このように教育実践のなかで、職場や家庭、学校などでの人
間関係についてトレーニングを重ねていたと校長を通じて教育長が認めることもよいこ
とであろう。
HUMAN RELATIONS TRAINING APPROVED COURSES IF COMPLETED AFTER 1985 (Courses in parentheses must all be completed to meet the requirement) when titled “Human Relations ” Courses Offered On--Line Or Independent Study NEBRASKA INSTITUTIONS Chadron State College :EDUC 270 ,EDUC 415,EDCI 436 EDUC 470s,INS 500 or 501 EDCI 600 EDAD 631. College of St.Mary :EDU 475/575. Concordia University :(Some available) PSY 200;PSY 500;Education 570. その他省略するが、ネブラスカ州内の人間関係トレーニング認定大学などが示されている。 |
州外の大學などについても同様に一覧表で示されている。 |
わが国の免許更新制
アメリカでは教員免許の更新期間は5年が多いようであるが、わが国では10年または
7年ぐらいがよいように思われる。 また更新にさいしては今まで見てきたように、現職
教員の日常的な学習指導を中心にして、部活動・クラブ指導、地域やPTAとの連携協力
も含めて教育実践が、そのまま更新に評価されるような制度がよいと考える。
しかしそれと同時に現職教員自身が更新までの間、主として自主的な計画・申告によっ
て例えば英語検定、カウセリング認定、IT関係講習、健康・福祉関係講習、体験、理科
実験、商業実践・講習、教育論文発表など幅広く職能成長を計り、その実績も評価に加
えられる制度でありたい。
例示したアメリカの二つの州でも、そのような仕組みが積極的に取り入れられているこ
とも参考になろう。 『公共の要請による』との名のもとに善良な一般の教員を必要以上
に“追い込む”ことは避けなければならない。
これまた本文で述べたように、運転免許の更新は、運転する者、社会全体の交通安全
の双方に大いに役立っている。 ことに70才以上の高齢者に課せられる講習は本人に
力量をチェックさせ、「適性」とされた後でも、より慎重に運転させるものとなろう。
ましてや教員免許については取得、「適性」とされても実際には厳しい採用試験があり、
また現職教員には勤務評定が実施され、指導力不足の教員には特別な研修も実施さ
れ、時には退職に至る場合もあろう。 それらとの関連にも注目し、折角の免許更新制
の利益のためにも、現職教員自身が「更新手続きは少しうっとうしいが、考えてみれば
良い機会でもある」として捉えるものでありたい。
なお教員免許状を所有しながら、心ならず非常勤教員として勤務している者に対して、
更新のさいに厳密な教職経験年数を求めることは酷である。 例外的な措置や、例えば
採用した後、一定期間内にある程度、補充するなどの方法がとられることが望ましい。
アメリカの場合は、やや厳しすぎるように思われた。 却って“人”は得られまい。
また委員会のメンバーのなかには「ほとんど全員が適性とさる制度では余り意味がない。
彼らに緊張感をもたせるためにも、その点数(合計点)を本人と教委に通知する必要が
ある」と主張する人があるかもしれない。 しかし、それは害の極めて大きいものとなる。
アメリカでもそのような方法はとっていない。 ましてや、和をより重要視するわが国の
学校にあって職員間に無用の競争心や猜疑心を助長するものとなり、学校が乱れる
因となる。 絶対に避けなければならない。
最後に“時間の確保”と費用のことであるが、これも難しい問題であろう。 とりわけ、わ
が国では善良な教員ほど苦慮するように思われるが、それだけに教育実践を重視する
とともに、教委や管理職による配慮、教員から時々受ける職能成長・トレーニングなどの
報告などにより対処されるよう望みたい。
2006年5月30日記
追記(2007年7月) なお第204編を追加したので参照してください。次ぎのようなことを述べた。