170. イギリスで善行生徒に割り引きカード


杉田荘治


はじめに
   先に第167編で「ずる休みの生徒の親に罰金」を述べたが、今回は“良いニュース”である。
   すなわち、政府は善行やボランティア活動をした生徒に対して、割引キャッシュカードを与え
   ようとしている。 “飴と鞭”政策とも“信賞必罰”策ともいえよう。
   このことについて、Guardian Unlimitedが最近(2005年7月)、報じているが、ここでは、その
   原典である教育・技術相から国会に対してなされた提議を中心にして、その他前記の記事
   や巻末に記載する資料などから、この件を要約することにする。

要旨
  1. 政府は地方教委にチャンス・カード(Opportunity cards)を創ってもらって、善行やボランティ
    ア活動をした生徒に対して、スポーツ行事等の入場料やショッピングなどで割り引きが受けら
    れるようにする。 そのために2006年度から2年間、4,000万ポンド支出して基金を創る。また
    一つのカードの割引額は12ポンドになろう。

  2. 今、イギリス全土にわたって割り引きしてくれる組織や団体と交渉しているが、それはドラマ、
    ダンス、音楽、スポーツなどの屋外活動など広い範囲のものになろう。 すでに、リクリエーショ
    ン、健康その他いくつかの会社が十分関心を示している。 場合によっては大學や学校の上級
    コースの授業料にも使用することができよう。 勿論、反社会的行為をすれば、特典は取り消さ
    れ、また一時停止される。

  3. カードは本人の写真や生年月日、氏名、年齢などが記入される。 それはアルコールやタバコ
    その他、違法な物の売買を禁止するためである。

  4. 先導的に8ヶの地方教委を指定して、これに5,500ポンドを支出して試案を練ってもらう。 もし
    成功すれば2008年度からイギリス全土に亘って実施する。 またこの提議は2005年11月4日
    まで広く、地方教委、学校、大學、Commexionsパートナーシップ、コースサービス、公私のボ
    ランティア団体、地域、健康部門その他の意見を聞く。
    【註】Commexionsパートナーシップは2001年に設立され“危機に立つ生徒”や社会的に排除
      されている子供を支援する組織であるが、余り効果を挙げていないので、今回の提議にも
      なったと、教育・技術相は説明している。

  5. 中央政府自身も13才から16才の身体不自由児や学校給食費全額免除の貧困家庭の子供に
    対して「チャンスカード」を新設する。 月、10ポンド〜12ポンド   高い得点や出席率、学校
    での良い振る舞いもその対象になろう。

  6. その他
   ○ 上記の計画とは別に政府は主として中等学校の開放のために、2008年度までに8億3,500
     万ポンドを充当する。
   ○ また青少年の自由時間の過ごし方として、毎週2時間のスポーツ、その他のクラブ活動も同じ
     く2時間を充てるように計画している。
   ○ 政府や地方教委のみならず、Green PaperやYouth Motleesなどの組織も各地方教委に
     3万ポンドを支出して、若者カフェやスポーツリーグの新設なども考えている。

   ○ なおこの本文のプランは、実はWiltshire地方の警察署が善行のあった青少年に10ポンドの
     割引カードを与えているが、それからヒントを得たといわれる

   ○ 一部の批評家は、このプランはある種の賭けであるといっているが、先日のロンドンにおける
     テロリストによる爆破事件によって益々意義のあるものとみなされていくであろう。
   ○ なお、このプランに参加するか否かについては、地方議会に強制はしない。彼らの自主的
     判断に任される。 また十代の青少年が、その特典を受けるかどうかについても同様である。

  参考資料
    Guardian Unlimited (6/18/2005), 同じく(7/17/2005), THE INDPENDENT,London (7/19/
    2005), Politics.co.uk(7/17/2005), 同(7/18)

コメント
   ご覧のとおり、イギリスにおける最近の動きである。 “飴と鞭”との批判はあろうが、しかし試案
   が練られ実施されていくものと思われる。

 2005. 8. 5記         無断転載禁止


      付記     イギリスで幼児に無償で本を交付
   
   これも“良い”政策であるので、併せて紹介しておこう。 すなわち、イギリス政府は2,700万ポンド
   を支出して、4才児以下のすべての幼児に本のセットを与えようとしている。 このことについて
   BBC MNEWSか゜最近の号(2005年7月26日)で報じたが、Ruth Kelly教育相は、このプランで
   900万冊の本を与えると発表した。 内容は次ぎの3種類である。

   ○ 1才以下の幼児には、........ 『赤ちゃんのためのBookstart』というセット
            これには母親が育てるためのリズムと読んで聞かせるときのアドバイスが書かれ
            ている。
   ○ 1才〜2才の幼児には、...... 『Bookstart プラス』というセット
            これは肩掛けカバンのなかに、よちよち歩きの子供に参考になる本のリストと「な
            ぶり書き」用版とクレヨンが入っている。 また地方図書館の情報も含まれる。
   ○ 3才〜4才の子供には、...... 『Bookstart宝物箱』というセット
            これには初めて字を書くときのヒントが載ったものと、ステッカー、「なぶり書き」用
            版と色鉛筆が入っている。 また地方図書館の情報も含まれる。

   このように教育相は「これらを利用して親が本を読んでやることは非常に重要です。 読書の習慣
   のないままに小学生になると約17%の者が失敗しています」と語っている。 また「早い時期に順序
   よくリズムをつけて発音できるようにすることや音からくる語の構成を理解させることも効果があり
   ます」とも公の場で話している。

   【註】 このようなイギリス政府のプロジェクトチームによって創られる『Bookstart プログラム』は
       世界で初めてのものになろう。 なお3種類の本のセットについては、Highland Libraries-
       Bookstartで見ることができる(www.bookstart.co.uk)。

   左図は上述の3才から4才児に与えられる『Bookstart宝物箱』
 のセットである。