167. イギリスで「ずる休み」生徒の親に罰金


杉田荘治


はじめに
   イギリスで学校を、ずる休みする生徒の親に対して、罰金を課す動きが本格化してきている。
   このことについて最近、BBC NEWSなどが報じているので、最初にこれらを要約し、次いで、
   その背景その他の状況を巻末に記載した資料によって概観しよう。 最後にコメントする。

T BBC NEWS (6/24/2005)号から
   ずる休みが一向に改まらないことや、また特に家族旅行と称して学期中に子供を海外旅行
   などに連れ出す親に対して、50ポンドから200ポンドの範囲で罰金を課す策を政府は推進
   している。

   これは一昨年(2003年)11月、政府は地方議会に対して、その旨を決定する権限を与えたか 
   らであるが、これによって校長、警察官、教育福祉担当官などが、実際に即決罰金を課すこ
   とができるようになった。 そして28日以内に納めないと100ポンドにまで引き上げられ、さら
   に6ヶ月以内に納めないと告発され、200ポンドまたは留置されることになる。

   政府の統計によれば、11,500名の親が、そのリスト上にあり、実例は後述するが、既に
   2,200名の親は「子供の出席状況を改善します」との誓約書を提出しているし、地方によって
   は30%も欠席が減少したりしているが、なお不充分であった。


      親への警告の例

 " You should not expect your child's school
  to agree to a family holiday during term time" 
    Official advice to parents
 あなたは学期中に、子供を家族旅行に
 連れ出そうなどと期待してはいけませ
 んよ!
   親への忠告

     一般的な規則
   校長は生徒に特別な理由(忌引きなど)がある場合は、10日以内その欠席を許可することが
   できる。
   しかし一部の親は、これを自分に都合のよいように解釈して「ずる休み」させているのである。
     ○ 学期中しか休暇を取ることができない。
     ○ もっと異国情緒なことを子供に体験させたい。
     ○ 既に旅行予約金を支払っているし、そのキャンセル料金も高い、など。

   参考  生徒の欠席状況
     ○ ずる休みとされる欠席日数  中等学校では、15.5日   小学校では、8.5日
     ○ 全欠席の21%のものが「ずる休み」。  10年生が最も多く、11年生になると減少する。

     ○ 春の学期の欠席率は、7.2%    これは秋の6.17%より高い。
        内訳 (小学校 春は6.25%  秋は5.13%) (中等学校 春は8.08%  秋は7.38%)

     ○ このようにイギリス全土では毎日、5万人の生徒が、ずる休みし、そのうち半分は明か
       に親にも問題がある、といわれている

U ずる休み対策(罰金)の背景
   ずる休みする生徒の親に対して罰金を課す動きが前からあったわけではない。 その背景と
   しては前述したように、生徒の欠席率の上昇、とりわけ家族旅行による学期中の欠席などに
   ついて、労働党政府といえども、これを無視することができなくなってきたことがある。 それ
   では、その根拠法規とは何であろうか。

       ずる休み対策(罰金)の根拠法規
   ずる休み防止の法規が独立してあるわけではない。 「反社会的行為禁止法」: Anti-Social
   Behaviour Actのある条項を適用することを拡大したのである。 すなわち地方議会に対して、
   その権限を与え、具体的に校長、警察官、教育福祉官などによって行使できるようにした
ので
   ある。 その関係条項は次ぎのとおりである。
            記
   「反社会的行為禁止法」は実務者や関係機関に反社会的行為を組み伏せるための権限を与え
   ることを目的とする。
    学校や地域で反社会的な行為をする子供の親に対して、親の責任を問う新しいメカニズムを
   創る。 そして、この改正法は2003年11月20日に裁可され、新しい法律として次第に適用が
   拡大され、2004年2月には、そのガイドラインも作られた。 As of 27 February 2004: Penalty
   Notice for parents in case of truancy.

     その後
   それでも当時の世論調査によれば、回答した18%の親たちは「この罰則を無視する」といっている。
   その理由として「海外旅行のピークを避けて費用の安い学期中を選ぶ」などであるが、なかには
   子供をスキー旅行に連れていくが「50ポンドの罰金は問題でない。 しかし100ポンドになったら
   考える」というものもあった。

   また、その頃の校長の意見でも、100ポンドになるような罰金を課すことについては消極的であっ
   た。 すなわち10分の1の校長しか、そのような即決罰金の権限を行使しないといっていた。
   そこで政府は本格的に対策を強化してきているのである。

V 賛成論と反対論

      罰金に賛成       罰金に反対 
 ・子供は教室で学ぶべき者であるが、その基
  本的
権利を損なっているから。
 ・家族旅行に連れ出す親に効果があるから。
 ・クラスに戻ってきたとき、学習についていけ
  なく
なり、それがまた「ずる休み」の原因に
  なる。

 ・街をうろつき好き勝ってのことをやるのは親
  に
原因があるから。
 ・麻薬や犯罪と「ずる休み」は相関している。

 ・ホームスクールの生徒は対象にしない。
 ・僅かな親に対する、このような措置
  は問題の本質からかけ離れている。
 ・親との信頼関係を損ないたくない。
 ・親に罰金を課すことによって、子供を
  激励することが却って難しくなる。
 ・校長ではなく、警察官や教育福祉官
  から行使してほしい。
 ・教員組合は「警察が介入する」ことに
  反対する。
 ・「反社会行為禁止法」の現行のままで
  よい。
 
 問題点 親から“助け”を求める電話の5分の1は子供の「ずる休み」の件である。
      従って親も苦しんでいる。 離婚や家庭的問題のために学校へ行かないケース
      も多い。 このような親に一旦、罰金を課してしもうと、より惨めな気持ちにさせる。
      罰金より、もっと親の側に立った策を構ずべきである。

      また、子供か゛クラスに戻ってきたとき、宿題を出してやったり、放課後の補習や
      学校と一緒に課題に取り組ませることが重要である。

      また、学校が良い教育をやっていないところに問題がある。

W その他
   スコットランドも同じような策を取ろうとしている。
   それについて、iCYC NETは既に2003年10月7日号で次ぎのとおり報じている。 すなわち、
    校長、警察官、地方議会の担当官は「ずる休み」する生徒の親に対して罰金を課すことが
    できる。その額も何回もずる休みするさいは、2,500ポンドにまで引き上げたり、または3ヶ
    月間、留置場に入れることもできる。

   ところで、Wales地方であるが、今、検討している。 議会が特別法をつくれば実施されること
   になるが、それは「最後の手段」として考えられている。

   なおBBC NEWSは最近の6月24号で親の意見(14名)を載せているが、その1人として横浜
   在住のイギリス人、A.Milnerさんの分も含まれている。「次ぎは喫煙する生徒の親を、また汚
   い車に乗っている生徒の親へと及んでいくのでは、、、、、」と述べて反対している。


参考資料
   ・UK Criminal Justice Weblog (2005.6.24)
    ・BBC NEWS (2004.2.7)、 (2004.2.12)、
    (2204.6.17)、(2004.3.29)   ・Guardian Unlimited (2003.10.4)   ・ic Croydon.co.uk
    (2005.3.11)   ・ic Newscastle.co.uk (2004.9.6)


コメント
   本文中の問題点で述べたように、貧困や離婚その他の家庭的問題による「ずる休み」と家族
   旅行に連れ出す親への対応は自ずから異なるはずである。 現実にはその区別は難しい面が
   あるかもしれないが、そこは教育、それなくしては悪い政策になろう。 わが国では、このような
   ことは非現実的なことであり続けたい。

 2005.7.12記              無断転載禁止