杉田荘治
はじめに
全米では44万台のスクールバスが毎日、1,800万人の生徒を学校に運んでいるが、親たちは、
スクールバスのなかでの性的暴力や嫌がらせについて心配している。
このことについて最近(2005年6月)、Washington Postが報じているので先ず、その記事を要約
し、次いでスクールバスの規則を例示し、またこのケースに関連した地方教委の教員給料や最
近、アメリカで重要視されている生徒の成績の『年次報告書』:Yearly Report
Cardの具体的な
例についても参考までに述べることにする。
T Washingto Post (6/14/2005)号から
例 1
昨年5月、メリーランド州Montgomery郡で11才の少女がスクールバスで帰宅する途中、6名の
年長の少年たちによってバスの後方部に押し倒され、胸や臀部を弄ばれ性行為のようなことを
された。 翌日、再びバスに乗ったさいに“なかっことにせよ”と脅迫され、帰宅してベッドのなか
で泣いていたので、母親から尋ねられて、この事件が発覚したのである。
そこで母親は、その出来事を副校長に告げ、警察が関与した。 6名のうち2名の生徒は転校さ
せられ、他の2名は停学になった。 州の検事局も関与したが、そのファイルは置き忘れられ、
再び問題視されたときには既に時効になっていた。
例 2
昨年12月、クリスマス休暇の前であったが、バージニァ州Frederick郡で6才の少女が学校の上
級補習コースへ通うために1年生の友達と一緒にスクールバスに乗っていたところ、1人の中等
学校の生徒が近づいてきて彼女の私的なところまで触るような性的嫌がらせを受けた。
このことをバスの運転手が5月になって、母親に知らせるまで母親は知らなかったし、学校も記録
していなかった。 先週になって郡警察署が捜査したが、本人の申し立てでは性的暴力にはなら
ないとしている。 しかし家族は争っていくと弁護士が語っている。
例 3
バージニァ州南Richmon地区で2ヶ月前、11才の少女がスクールバスで帰宅するとき、2名の少
女と3名の少年によって、バスの後ろのほうで押し倒され、弄ばれ、ある目的をもって貫通するよう
なことをされた。 運転手は直ちにこれを管理職と学校に通知したので加害者たちは家庭謹慎と
なり、また電波による探知機にもかけられ、誘拐から攻撃的な性的暴行の範囲内で告発される
予定である。
教育長は「最大限の懲戒にする」とメディアに説明しているが、事実、2名は既に退学となり他の
3名についても近く処分されることになっている。 また大人によるパトロールも開始された。
以上の例は「氷山の一角」のようなもので、親たちは交通事故やシートベルトの装置がないこ
との心配や信号のない交叉点を子供たちが渡るときの事故とともにスクールバス中の性的暴行
を心配している。 これが新たな校内暴力の形になってきているのであるが、しかし安全の問題
として取り上げられることが少ないことも問題である。
このように、多くの学校や教委はスクールバス暴行事件を取り上げない傾向が強いが、現実に
は増えてきており、しかも低年齢化している。 その立証が難しいこともあるが、新教育改革法
:NCLBの下では自分たちの学校が安全でない、とされると、生徒も少なくなるし、州や連邦から
の資金も減らされることも影響していよう。
従って、スクールバスに大人のパトロールが同乗するなどして、もっと管理し、生徒に対しては良
い行動をするように教え、事故に遭った場合はすぐ報告するように勇気づける必要がある。時に
は犯罪になるケースもあるのであるから、速やかに断固とした措置がなされることが重要なので
ある。 子供たちは、その結果を知るからである。
ところで2001年度分の調査結果であるが、全米大学女子協会は「10人のうち8名は8年生から
11年生の間に学校で性的嫌がらせや暴行を受けているが、その相手の多くはクラスメートであ
り、しもか3分の1は小学校ではじめて被害にあっている」、「しかも多くは学校が管理し難いス
クールバスやバスルームで起きている」とレポートしている。
【参考】 Poynteronlineも2005年6月15日号で、このスクールバスの件を取り上げている。 内
容的には殆ど上記Washington Post紙と同じであるが、特に新たな校内暴力ともいえるこ
と、またこの種のことを公表したがらない教委側の態度を批判している。
またGazetle.Notも3月15日号で前述のメリーランド州Montgomery郡の件を取り上げて、
この問題を報じるなど、少しづつ強く問題視されてきているように思われる。
参考 スクールバス通学規則 (例)
テキサス州のPerryton独立教委の規則ではあるが、参考までに下記しておこう。
Perryton Independent School District: Discipline Management Plan
and Student Code
of Conduct 2004-2005 School Year
スクールバスは教室の延長である。従ってそのことを よく考えて行動しなければならない。 次ぎの行為は 禁止される。 ・ 運転手に従わないこと、尊敬しないこと。 ・ バスが動いている間、立ったり動いたりすること。 ・ 窓から手や頭を突き出すこと、物を投げること。 ・ 大声を立てたり、嘲笑すること。 ・ タバコを使用すること。 ・ 掴み合いや喧嘩をすること。 ・ みだらな言葉を使うこと。 ・ バスの中を散らかすこと。 ・ 他人の邪魔をすること。 ・ バスの中で飲食すること。 ・ バスの器具をいじくること。 ・ マリファナ、アルコール、法で禁止されている薬物、 危険な薬、また一見そのようなものを所有するこ と。 |
1回目の違反 校長またはその代理との面談、 親への報告。 2回目の違反 同じ学期またはすぐ直後であれ ば、5日間、バスに乗せない。 3回目の違反 残りの学期中、バスに乗せない。 解除された直後であれば、その 学年中、乗せない。 |
【註】他の教育区でも同じような内容であろう。 例えばAnderson第5教委規則も下記の
のとおりである。
違反の程度によってLevel 1, Level 2, Level 3, Level 4に区分されている。例えは゛
注意されたにも拘わらず騒いでいた場合はLevel 1、しかしそれも4回目であれば、学年
の残り期間、バスに乗せない。 物を投げたり、ののしり合うような行為はLevel
3で3回
目で5日間の乗車禁止と親との面談である。 犯罪にからむような行為はLevel
4とされ
1回目といえども乗車禁止であり、またそのような手続きが取られる。
【コメント】 このようにバス通学規則が遵守されれば問題はない筈であるが、何せスクール
バスは大型であり、時には運転手しか大人がいないことなどで、違反行為が起こり
勝ちなのであろう。
参考 教員給料表の例
テキサス州Perryton 独立教委の教員給料表であるが、アメリカの普通の例と考えて
よいであろうから、前述のスクーバス規則に関連して同教委分を参考までに付記して
おこう。
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○左図のように年額という ものの10ヶ月分の給料 である。 ○教職経験年数は25年が 最大である。 もっとも給 料の最高は45,280ドル (約543万円)とされてい る。 ○学部卒の初任給が年額 28,000ドル、しかし教職 25年の者の給料が 43,200ト゛ルと、その差は 小さい。 約1.5倍程度 である。 わが国の場合は約3倍 で、その差が大きい。 後述する。 ○教員、司書、学校看護 士の給料表が同じなの も参考になろう。 ○学士と修士号所有に よって適用される表が 異なる。 |
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【註】わが国の場合については第71編(英文)を参照してくだ さい。そこには、教諭(小・中)2001-2002年度について述 べてある。 初任給(1号俸)月給 156,500円、 36号俸 455,900円 その差は約3倍である。 約4.7ヶ月分のボーナスもあるし、た毎月、4%の教職調整額 が全員に支給されている。 |
アメリカとわが国の給料について 比較されるとよい。 |
参考 年次報告書:Yearly Report Cardとは
新教育改革法:NCLBの実施にともなって、『年次報告書』:Yearly Report
Cardということが、よく
出てくる。 それについては第149編、第162編、第164編などを参照してほしいが、前述本文に
あるメリーランド州Montgomery中等学校のそれを具体的に例示しておこう。
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左図のように、 数学 6年生の 成績 2005年度には、 上級(Advanced) は12.5%,と増え ている。 また良(Proficient) も42.2%となり増えている。 |
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【註】このようにして、7年生、8年生などについても、数学、リーディング(読解力)別に 総ての学校分を取ることができる。 |
州教育長の説明(公式)
学校評価
○ 3年生から8年生まで全員 リーディング(読解力)と数学
○ 10年生(高校) リーディングのみ
【註】 これは全米的に連邦政府が新教育改革法で共通に求めていることである。
その評価区分は上述図のように、基礎、良好、上級(優)の3区分である。
身体不自由な生徒については別の基準によるが、学年、科目、評価区分は
同じである。
○ その他、高校で地理を履修している生徒はその地理の単位を修得すること。
○ 2008年度から3年生、5年生、8年生に理科を追加する。
【コメント】 これはメリーランド州独自のものであるが、しかし国際テストでアメリカが下位にあること
から、理科を追加する動きは全米的に広まるであろう。
高校評価
2009年度までに高校生は、英語U、代数、生物を履修し合格しなければ卒業証書を手にする
ことはできない。
【コメント】この種の卒業認定試験ともいうべき動きも、今後、全米的に広まることが予想される。
コメント
ご覧のとおり、アメリカのスクーバスの実情の一端をその規則とともに述べた。 併せて教員給料
表も例示し、その初任給と最高額の差が1.5倍と小さいこと(わが国は3倍)や生徒の年次報告書
の具体例も参考になろう。
2005. 6. 28記