165. アメリカの2006年度教育予算の概要


杉田荘治


はじめに
   アメリカの2006年度教育予算のうち、高校教育関係分については、先に第158編で述べ
   たが、ここではその全般について概要を述べることにする。
   資料としては巻末に記載したように連邦政府の教育省関係分、既にこの一月に発表され
   ていた教育省の説明およびDublin政策事務所の発表資料を総合して利用したが、やや
   複雑な内容であるから、筆者において、これらを整理し、一般に理解し易いようにコメント
   も付けながら進めることにした。

T予算概要の表

 
Program
2004年度

2005年度

2006年度予算

Work Study

 $998.5 million

 $990.3 million

 $990.3 million

Teacher Quality

 $88.9 million

 $68.3 million

   0

Pell Grant Program/
Maximum Grant Amount

 $12 billion/
 $4,050

 $12.4 billion/
 $4,050

 $13.2 billion/
 $4,050

Perkins Loans
(capital contributions and loan cancellations)

 $98.7/ $66.7
million

 0/$66.1 million

  0/0

GAANN/ Javits

 $30.6/$9.9million

 $30.4/ $9.8
 million

 $30.4/$9.8
  million

TRIO/GEAR UP

 $832.6/$298.2
 million

 $836.5 /$306.5
 million

 $369.4 million/0

IES

 $496.7 million

 $523.2 million

 $479.1million

 ・egional Labs

  $66.7 million

  $66.1 million

   0

 ・esearch

  $165.5 million

  $164.2 million

  $164.2 million

 ・esearch in Special Ed

  $78.1 million

  $83.1 million

  $72.6 million

Elementary and Secondary School Counseling

 $33.8 million

 $34.7 million

   0

Gifted and Talented

 $11.1 million

 $11 million

   0

Safe and Drug Free State/National

 $440.9/$233.3
 million

 $437.4/$234.6
 million

 0/$317.3 million

・Alcohol Abuse Reduction Program

  $29.8 million

  $32.7 million

   0

Title I

 $12.3 billion

 $12.7 billion

 $13.3 billion

IDEA

 $11.2 billion

 $11.7 billion

 $12.1 billion

・Personnel Prep 

  $91.4 million

  $90.6 million

  $90.6 million

Reading First/ Early Reading First Program

 $1 billion /$94.4
 million

 $1 billion/$104.2
  million

 $1billion/$104.2
 million

21 st Century

 $999.1 million

 $991.1 million

 $991.1 million

Even Start

 $246.9 million

 $225.1 million

   0


【コメント】特徴的なこと

   ・ Teacher Qualityプログラムは2006年度では0になっている。
   ・ Pell Grant助成金が、132億ドルにまで増額され、1人当たりの支給額も
     4,050ドルにまで引き上げられている。
   ・ Perkins貸付金も0となっている。
   ・ 小学校・中等学校カウンセリング予算も0である。
   ・ Title T予算は133億ドル、充てられている。
   ・ IDEA予算にも121億ドル、充てられている。
   ・ Even Startプログラムも0である。

【註】 Teacher Quality, Pell Grant, Perkins Loans, Title T, IDEAなどについては、
    それぞれ後述で説明する。 なお、0になったものについても他に統合された
    ものが多いが、整理統合についても後述する。
   

U 教育予算の総額
 

  
   年度    2004年度    2005年度    2006年度 
 教育省の裁量額     557億ドル    566億ドル    560億ドル 
 教育省からの委託額    116億ドル   149億ドル   134億ドル
    合計   672億ドル   715億ドル   69.4億ドル
 左の表のように
 教育省の裁量に
 よる予算(Discretionary)
 の2006年度予算は
 560億ドルで、これは
 昨年度より6億ドル減で 
 ある。 

   【註】上の表にある「教育省からの委託額」とは教育省の裁量によるものではない予算であるが、
      Mandatory Outlayとされる。   内容としては連邦政府から直接、学生・生徒へ低利
      で貸し付けるもの、また低所得層の家庭への貸付金、さらに5年間、指導困難校で勤務
      した教員に対する過去の奨学金の免除資金(Teacher Loan Forgiveness)などが含まれ
      ている。 これを数学、理科、特殊教員にまで拡大しようとしている。

   左のグラフのように2006年度、
 連邦教育省の裁量による予算
 額は560億ドルである。

 また年度別の推移は理解で
 きよう。


 【資料】連邦教育省ED. govから
 なお参考までに、連邦政府全体
 の2006年度予算総額は、
 2兆5700億ドルである。

V 主なる教育予算項目と額
  a. 多額のもの
   ○ Pell Grant  132億ドル

     受給者は現在500万人であるが、2006年度には550万人になろう。 1人当たりの支給
    額も4,000ドルから2006年度は4,150ドルに、さらに10年後には後5,150ドルにまで引き上
    げられる予定である。
    大學学部の2年生までが対象者であるが、しかし医学、歯学、法律を学ぶ者および教員免
    許を取得しようとする者については学部卒であっても適用される。 本人に直接支給される
    が、高校生の時、上級カリキュラムを履修しておくことが必要である。 今後、社会人で再び
    大學で勉強したいとする者にも拡大される。 またこれは貸付金ではなく、返済の必要はな
    い交付金であり、また他の助成金を受けていても構わない。(第158編参照)

   ○ Title T  133億ドル
    低所得者が多い教育区に与えられ、学力的に遅れている生徒に余分の教育サービスを受
    けられるようにする。 使用方法は、 ・学校の授業後、週末、夏休み中の計画のために。  
      ・教育実習生や教材利用   ・親が参加するための費用   ・リーディング、言語、数学
       について家庭教師や特別な援助を受けるための費用   ・以上のための政策立案費用
       などである。(第45編参照)

   ○ IDEA  121億ドル
    身体不自由児に対する交付金で、1975年から実施されている。 Individual with Disabilities
    Education Actであるが、法そのものを改正して、今後NCLBと連携して結果責任を重視し、また
    報告書などの書類などを少なくし、親の役割重視、研究調査に基づく指導法によることが必要
    とされている。 従って新たに特殊教育センターを設ける。

  b. 比較的小額のもの
   ○ GAAN/Javits  3,040万ドル/980万ドル

    先例のないような背景出身の優秀な学生に与えられる奨学金である。会員制度になっている。

   ○ TRIO/GEAR UP  3億6,940万ドル
    Student Support Service, Ronald E McNair Post baccalaureate プログラム、教育機会セン
    ターの三つのもので、いずれも優秀な学生に付与される。

   ○ IES  4億7900万ドル
    理科教育振興のための調査、発展、普及のための研究所(Institute of Education Science)
    に対する助成金である。

   ○ Reading First/Early Reading First   10億ドル/1億420万ドル
    幼稚園児から3年生までに読み書き能力をつけさせるための予算とそれ以前の子供の能力を
    育てるものである。 いずれもモデルを創って推進する。

   ○ 21st Century   9億9,110万ドル
    危機に立つ高校生に対して数学、理科の力をつけさせたり、二年制の地域大學への入学援助
    を計る予算である。

   ○ Work Study   9億9,030万ドル
    以上のための諸経費や諸研究の費用である。

                 整理統合

   大統領の行政管理機構はPART(Program Assessment Rating Tool)基準を使って、今までの
   プログラムを大幅に見直し、その結果をeffective(効果あり), moderately effective(かなり効果
   あり), adequate(まずまず), ineffective(効果なし), その他に分類した。 その結果、前述表に
   示すようにOとなるものができたのである。

    例えば、Even StartもOとなり、TitleTやReading Firstに統合されたし、Safe and Drug Free
   Schoolsについても他の予算にそれぞれ統合整理された。 Teacher Quality やPerkins Loans
   についても同様である。


                新規分その他
   ○ Choice Incentive Fund   5,000万ドル
     低学力校の親が学力の高い公立学校や私立、チァーター・スクールへ転校するさいの費用
     を補助するための基金を創る。 この基金は州、地方教委、または地域に根拠を置くNPO
     も利用することができる。
      その他、首都ワシントンへは特別に1億4,600万ドル交付する。

   ○ State Assessment Grants   4億1,200万ドル
     州の標準テストを連邦が求めるような基準にするための補助金である。

   ○ Teacher Quality State Grants   29億2,000万ドル
     これは州が「指導力十分な教員」と認定するための補助金である。
      また新たにcmpetitive grantsとして、優秀な教員に対する特別報酬、問題校へ赴任する
     教員に対する補助、また学力向上に基づいた報酬の補助金を創設する。 5億ドルを予定。

   ○ English Language Acquisition   1億6,400万ドル
     移民の%をよく調べて英語に不自由な生徒に対する英語教育補助費である。

   ○ Community College Access   1億2,500万ドル
     新規に地域大學(Community College)のコースを履修しようとする低所得層やマイノリティ
     の高校生を対象にしたプログラムを創る。

   ○ HEA (Aid for Institutional Development) Title V  4億1,800万ドル
     これはマイノリティ生徒とそれ以外の生徒との学力差を縮めるたの研究所への支出金で
     ある。 このなかにはヒスパニック系黒人大學およびその卒業生研究機関への支出も含める。

   ○ IEFLS   1億680万ドル
     International Education and Foreign Language Studiesであるが、とくに9月11日テロリスト
     攻撃、その他の戦争を考慮し関係外国語教育や国際理解のために専門家を育成する。

   ○ Loan for Short Term Training   1,100万ドル
     新規に労働省と連携して短期職業訓練の貸し付金を創る。 37万7000人を予定する。

               高校教育関係分
   第158編で述べてあるので、それを参照してほしいが、High School Interventon Initiative
   として総額12億4000万ドル、充てられている。 原典名はそれぞれ、High School Assessment,
   Striving Readers, Secondary Education Mathematics, Advanced Placementなどとなって
   いる。

 【参考資料】 ・Department of Education: The Executive Office of the Presidet : Office of
          Management and Budget (6/5/2005)
         ・ED.gov PRESS RELEASES, February 7, 2005 & Fiscal Year 2006 Budget Summary
         ・APA ONLINE : public policy office: The President's FY 2006 Education Budget
         ・AAAS REPORT XXX:Research and Developmetn FY 2006

コメント
   ご覧のとおり関係資料を整理し要約した。 アメリカは何としてでも低所得層やマイノリティの学力
   を引き上げようとし、また理科・数学を重視して教育改革を成し遂げていこうとすることが、予算項
   目の数字からも理解されよう。 データ-による基礎資料を中心にしたので、それなりに、わが国教
   育関係者には役立とう。

 2005. 6. 9記              無断転載禁止