杉田荘治
はじめに
アメリカの首都ワシントンでは低学力校を教委が直接、管理したり、スタッフを大幅に入れ
替えたりするプランが動き出している。
このことについてWashington Postが報じているが、まず、これを要約し、その選定の基準
になっている「適当な年次向上」とはどんなものか、また首都の「教育介入」とか「直接管理」
とは具体的にどんなことかについて、再度まとめてみることにする。
Washington Post(4/5/2005)号から
首都ワシントンでは半分以上の公立学校について、教委が教育計画に介入したり、直接管
理するプランが、この秋から始まることになる。 それらの学校は新教育改革法による標準
テストで「適当な年次向上」基準に照らして失敗した学校であるが、テストの最終チェックに
よっては更に増えるかもしれない。
大部分の学校は、大學教授や成功している学校から派遣される教員によって大々的に援助
を受けるグループであるが、特に3年以上、または4年以上も成績不振が続いている16校に
ついては学校の管理権を大幅に削減したり、また教職員を総入れ替えしたり、外部の会社に
管理を委託する方法も採られるが、詳細は今後さらに詰められよう。 しかしその準備はほと
んど整っているが、改善プランは今後5年間にわたって進められる。
2,900万ドルをこれに充当
教委はこの改善プランのために2,960万ドルを特別に支出する。 もっともこの予算には前述
の改善プランのための費用の他に、優秀な学校への報奨金も含まれている。 それは70%以
上の生徒が“良好以上”の成績を取った学校であるが、少なくとも20校はあろう。 彼らはそ
の報奨金で特別に設備や備品を買うこともできるし、補習授業・補充授業の費用や教員が上
級免を取得するさいの助成金として使うこともできる。
低学力校の改善プラン
@ ベンチマーク方式によってテストの成績が悪い部分がある学校
これは“Receiving”校とされ、外部からのチームによってカリキュラムや教授法の指導を
受ける。 21校
A 「改善を要する学校」:“in need of improvement”とされる、これらの学校は2年間、成績
不振が続いた学校であるが、51校ある。 その改善のために“介入コーチ”が校長や教員を
指導したり援助したりする。
B 3年続けて成績不振が続いている学校は「矯正を要する学校」:“need corrective action”
とされ、強制的に授業日数を増やしたり、一部の教員を入れ替えたり、また学校の管理権
を削減したりする。 8校
C 4年続けて成績不振の学校は「再構築する学校」: “need reconstructing”とされ、大部分
の教職員を入れ替えたり、または外部の民間会社に経営を委託する。
【参考】これらの学校については首都教委によって、総て公表されている。 そのうちBとCの
学校は下記の通り。
Bruce-Monroe小学校、 Stanton小学校、 Wilkison小学校(k-3)、 Fletcher-Johnson
教育センター(k-8)、 Evans中等学校、 Sousa中等学校、 Johnson中学校、 R.H.
Terrel中学校、 Anacostia高校、 Ballou高校、 Coolidge高校、 Eastern高校、
Rosevelt高校、 M.M. Washington Career高校、 Woodson高校
なおWashington Post紙では前述のように16校と書かれているが、この発表では、ご覧
のとおり15校である。
なお、どのようなアドバイスや指導をうけるかについても、具体的に述べられ、しかも公表
されている。 例えば前述@の分類に入っているAdams小学校は、“Yes,
I Can Reading”
プログラムを読むこと、Statellite Learningプログラムを読むこと、Hiltonホテルと連携する
こと、と指示されている。 高校についても例えば、Dunbar高校は、健康科学アカデミイと
提携すること、上級書き取り、上級就職斡旋CISCOとのネットワークなどと詳細に指示され
ている。 【資料】D.C. Public Schools "No Child Left Behind"
『適当な年次向上』:Adequate Yearly Progress: AYPとは
新教育改革法で求めている、これについては、各編でそれぞれ述べてあるが、首都ワシントン
教委が定めている要件が当を得ているので、それによって纏めておこう。
@ 各州はTitleT(後述)で規定されている要件によって、『適当な年次向上』を定める。
A そのため、人口統計上のグループこどに、スタートラインを決めること。(starting
point)
従って、例えば、その州の黒人グループが低ければ、低いなりに、それから出発する
ことになり、それぞれ出発点が異なることになる。
B そして3年ごとに、グループごとに敷居(thresholds)を設けること。それは次ぎの向上へと
なるものでなければならない。
C 12年後には、どのグループも良好レベルに達すること。
従って本文で述べたように、3年続けて失敗した学校は「矯正を要する学校」に指定され、また
4年続けた場合は「再構築する学校」になるのである。
【註】TitleTについては第45編、第158編を見てください。一部下記しておこう。
【連邦Title
T補助金とは】
小学校、中学校、高校のための連邦の補助金で低所得者が多い教育区に与えられ、学力的に遅れている
生徒に余分の教育サービスを受けられるようにする。
使用方法
・学校の授業後、週末、夏休み中の補充授業のために。 ・教育実習生や教材利用のために。
・親が参加するための費用について。 ・リーディング、言語、数学について家庭教師や特別な援助を受け
るための費用について。 ・以上のための政策立案費用について。
なお参考までに、この補助金は1996年のクリントン大統領の時、画期的に修正されて、その
額も70億ドルになったが、その後さらに増額されて2006年度予算には133億ドル計上されて
いる。 【第158編参照】
【参考】 首都ワシントンの公立学校関係資料 District of Columbia Public Schools公表
2003-04年度
|
生徒数 68,449人 1校平均 415名 学校給減免者 60.9% 英語不自由者 12.0% その他不自由 18.4% 人種 アフリカ系 84.4% ヒスバニック 9.4% 白人 4.6% その他 1.7% |
なお、首都ワシントンはどの州にも属さない連邦政府直轄の特別区で、コロンブスの名に因んで
District of Columbia : D.C.といわれる。 面積179平方キロメートル(東京23区の約30%)
人口 約57万
州による直接管理 2
このことについては、第156編で述べたので、それを参照してほしいが、首都ワシントンの状況を
述べるに当たり、Terrence Curran氏がその個人のページで要約されているので、それから一部
引用して下記することにする。 http://www.terrencecurran.com/takeover.htm
○ 1989年、アメリカでは初めて、New Jersey州がJersey市教委を直接管理することになった。
このように地方教委を管理するほかに、個々の学校を直接管理するケースもある(15州で)。
○ 賛成論と反対論
賛成論としては、低い学力や劣悪な管理、財政状態が劇的に変化すると説明するが、反対
する人たちは、州と地方教委との間に深い亀裂を残す、また人種問題が付随していると主
張し、さらに深く根を降ろした社会問題を解決しなければ効果はないとしている。
五つの形態
@ 州教育局または州教委が地方教委や教育長を辞めさせて、新たな教育長や教育委員を
指名して管理する方法。
A 地方教委や教育長をそのまま残しておいて、州が指名した者に対するアドバイザーとして
の役割に限定する方法。
B 州が市長に権限を委任して、市長が管理者などを指名する方法。
C 州が民間会社と契約して、それに管理を委託する方法。
D 完全に教職員を入れ替えて、新しい教育方針、カリキュラムなどで再出発させる方法。
なおEDUCATION LEADERSHIP 2005年1月号によれば、現在30州で特別法が制定され、
直接管理が行なわれている地方教委や学校がある。
コメント
ご覧のとおりの荒療法である。 果たして成果が挙がるのか、それとも反対論に見られるように
亀裂を残し、また深く根を降ろした社会問題の解決なくしては効果がないのか、今後の動きに注
目したい。
2005. 5. 13記