杉田荘治
はじめに
アメリカの州知事が最近(2005年2月)26日と27日、首都ワシントンに集まって教育サミット
を開いた。 実際に出席したのは13州の知事であるが、しかしこれは全米知事会が主催した
ものであり、また45州から教育関係代表者や事業主のリーダー達も参加した会であった。
しかもNPOの法人Achieveという団体との共催であり、またBill Gate財団など6財団が高校
教育改善のために資金を提供することを表明するなど積極的にこれに参与していることが
特徴的である。
このサミットについて、New York Times紙などが報じているが、そのなかでEducation
Week
が最も要を得ていると考えるので先ず、それを要約し、次いで補足的にNew
York Timesなど
から引用することにする。 そして最後に共催した法人Achieveについて述べる。
T Education Week (2005年2月28日)号から
全米の州知事が、この2月26日と27日に高校改革についてサミットを開いた。 これにMicrosoft
財団などが、まず手始めに4,200万ドルの資金提供を申し出ている。 なお13州の公立学校生徒
数は全米の3分の1に相当する。 またはじめにも述べたように、このサミットには全米から教育
関係者や連邦の教育相、事業界の代表などが参加している。
ところで教育サミットは1989年から行なわれていて今回が5回目であるが、前述のとおり今回、
始めて高校教育改革を主題として実施され、NPOの法人Achieveのプランを活用していこうとす
るものであった。
Gate財団のBill Gateも開会式で演説したが、高校を経済的にも道徳的にも再構成すべきである
と強調し「私は諸外国を旅行して、つくづくアメリカの現状や将来を憂いている。 3分の1の高校
生しか高校卒業に値するレベルに達していないが、これでは大學や職場で十分にはやっていけ
ない。 インドでは2001年に100万人の学生が実力を付けて大學を卒業しているし、中国でも学
士号をとる学生はアメリカの2倍である。しかも技術系の卒業生は6倍にもなっている」と語った。
四つのプロジェクト・チーム
法人AchieveがつくったADPN(American Diploma Project Network)、すなわち実質的な高校
卒業資格のためのプロジェクト・ネットワークを活用して知事会と共同して行動を開始する。
@ 大學や職場へ十分な力をつけて入っていけるように高校のレベルを引き上げる。
A 生徒にもっと厳しい(rigorous)カリキュラムを取らせる。
B テストを改善する。
C 高校教育の結果責任を問う仕組みを築きあげる。
参加した知事の州
Arkansas, Georgia, Indiana, Kentucky, Louisiana, Massachusetts,
Michigan, New Jersey,
Ohio(議長), Oregon, Pennsylvania, Rode Island, Texas
協力した財団
Gate Foundation, Michael & Susan Dell Foundation, Carnegie
Corporation of New York,
Wallace Foundation, Prudential Foundation, State Farm Foundation
なお資金提供は手始めとして、前述のとおりBill Gate財団の1,500ドルを含めて4,200万ドルで
ある。
U New York Times (2/23/2005)同(2/28)号から
内容的には前述Tとほぼ同じであるが、若干違っている事項があるので、それを中心にして
述べる。
○ 既に高校改革に着手した地方がある。 例えばロスアンゼルス市では5,000名も擁する
高校では個性はなく、失敗してしまう生徒も多いことから、これを小さな高校に再編成して
いる。
○ 州知事会長のVirginia州Mark Warner知事も「連邦政府の政策に従うだけではなく、各州
は独自にもっと高い標準をつくる必要がある」といっといるが、現に今月、ユタ州の下院に
「連邦の方式に沿ったものには予算をつけない」という議案が提出された。
○ このように連邦の官僚制から離れて、もっと自由に独自の方法を探る動きは高校教育に
ついて試みられていくものと考えられる。 すなわち余りにもテストだけを重視するのでは
なく、もっと広く考えさせる力を養おうとするのである。 test-heavy changesといえよう。
NPO 法人Achieveとは
州知事と事業主のリーダーたちによって、中等教育後、彼らが真に社会に役立つ人になるため
の力をつけさせる目的で創られた非営利団体である。 本部は首都ワシントン。Achieve
Inc.
その説明資料によって下記しよう。
1 ADPN(American Diploma Project Network)をつくり、これを適用していく。
本文で述べたように実質的な高校卒の力をつけさせるためのプロジェクト・ネットワーク
であるが読書力、作文能力、数学に中心を置く。 すなわち21世紀を生きる力となって
いるかどうかを検証し改善させる。 そのために数学と英語(国語)について評価基準:
benchmarksを創り次のような具体例もつくっている。 2005年2月、出版もした。
2 評価基準: Benchmarks
幾つかの質問にも答えている。すなわち「あなたの州の力量は本当に社会や大学の
求めに合ったものでしょうか」、「あなたの州の学力は世界で通用するものですか」、
「どの学年についてもチャレンジする内容やレベルになっていますか」、そして「あなた
の州の合格レベルは果たして適当なものですか」などについて具体的に答えている。
3. 数学向上に協力する。
前述の趣旨により幼稚園児から8年生までの数学到達目標を定めるためにMAPという
基準を創り、これを利用してもらう。
4. 全米教育サミットの共催
全米州知事会のうち1999年、2001年、2005年の教育サミットについて共催してきた。
これは州知事、トップの教育関係者、事業主のリーダーたちとともに学力レベルを高め、
成績を評価し、学校の責任を問うことについての協議と実践である。 各州はこれを利
用して道筋を作っておられる。
5. データ-を提供する。
Bil & Melinda Gate財団からの寄付を受け、各州教委や貧困対策団体などの協力を
得て適当な教育関係データ-を提供している。
その他、今回の2005年教育サミットについては本文記載のとおりであるが参考までに、
その新聞発表分から一部引用しておこう。
Arkansas, Georgia, Indiana, Kentucky, Louisiana, Massachusetts, Michigan, New Jersey, Ohio(議長), Oregon, Pennsylvania, Rode Island, Texas |
Achieve, Inc. Announces 13-State Coalition To Improve High Schools !
States Will Move Aggressively To Raise Graduation Requirements, Measure Progress
& Hold Schools and Colleges Accountable ! ADP Network States Include: Arkansas,
Georgia, Indiana, Kentucky, Louisiana, Massachusetts, Michigan, New
Jersey, Ohio,
Oregon, Pennsylvania, Rhode Island, Texas
Raise high school standards to the level of what is actually required to
succeed in
college or in the workforce. !
・ Require all students to take rigorous college and work-ready
curriculum.
・ Develop tests of college and work readiness that all students
will take in high school. !
・ Hold high schools accountable for graduating all students ready
for college and work,
and hold colleges accountable for the success of the students
they admit.
その他
コネチカット州のJodi Rell知事は1,500万ドルかけて州の総ての9年生と10年生が英語(国語)
の授業でラップトップ(膝の上で操作できるコンピューター)を使用して勉強できるように議会に
求めている。 議会もこの予算を承認するであろう。 最初の2005-06年度には300クラス、残り
は次年度であるが、このような具体的な高校改革の動きは少しづつ強まってきている。
(この項: Newsday/Associated Press, 2/7/2005)
コメント
ご覧のとおりアメリカの州知事会も高校教育の改革に本腰を入れようとしている。 これにNPO
の法人Achieveが共催している点も参考になるので、これについて比較的、詳しく記述した。ま
たゲイト財団等も資金面から協力している。 資料やデータ-を中心にして記したので、その即時
性とともにわが国関係者には参考になろう。
2005. 3. 7記