杉田荘治
はじめに
2004年末に発表されたOECDテスト、すなわちPISAでアメリカも低い得点に苦慮している。
このことについて、New York Timesなどが報じているが、それらの記事からその要点を
述べ、その後そこでも述べられているフィンランド方法についても記すことにする。
T 新聞記事から
New York Times (2004. 12. 7)号、Washington Post 同日号、USATODAY
同日号から
要約する。
○ 数学では40ヶ国のなかで香港、フィンランド、韓国がベストであるが、わがアメリカ(U.S.A)
は28位である。 これは先進産業国29ヶ国のなかでは24位と貧弱な成績である。
リーディング(読解力)も18位であった。
○ 平均点だけではなく、7区分によるレべルでも低いレベルであるレベル1に入る生徒の率
が高い。 香港はトップの二つのレベルに入る生徒が30.7%もいるし、またフィンランドは最
下位のレベルの者は6.8%しかいない。
○ また数学に興味をもたない生徒が、アメリカでは36%もいる。
U 理由 なぜアメリカはそんなに悪いのか
○ 指導力十分な教員が不足している。
○ 標準テストそのものが余りにも易しすぎる。 挑戦的なコースに十分対応していない。
○ 高校3年になるまで挑戦的なコースに取り組まない生徒が多い、卒業認定テストでも
そのような問題から避けている。
○ 分数計算はできても、十進法そのものができない。
○ 多民族、人種、マイノリティなどを多く擁している。
○ アメリカでは国としての統一したカリキュラムがない。 シンガポールや他のアジア諸国は
そうではない。
○ 繰り返し暗唱させたり、ドリルをさせる力が弱い。
○ シンガポールなどのように学校での平素の躾がしっかりしていない。
V IEAテスト: TIMSSの成績 Education Week 2004.12.14号から
マイノリティの成績を含めて、ここではアメリカの生徒の成績が少し良いことには勇気づけら
れる。 すなわち、中学2年数学は504点 (参加国全体の平均点は467点)、 また小学4年
理科では518点 (参加国全体では495点)。 しかし前回と比べると下がっている。
したがってやはり、全米のテストをチェックする必要がある。
フィンランド方法
Washington Post <フィンランドは国際数学テストでトップを行く>
標準テスト対策の授業ではなく、じっくり腰を落ち着けた日常的な授業が重要ではないか。
フィンランドでは学校選択はない。Single school systemという考えかたに拠っている。
アメリカ各紙の記事は上記のとおりであるが、ここでわが国の新聞などに載ったものを紹介
しておくと、朝日新聞(2004年:平成16年12月19日朝刊)を参照されるとよい。 そこには、
○学習で遅れた子供に対して特別授業が制度化され、義務教育の小中一貫化も明確にされた。
○また、担当教師や子供自身の判断で、理解度にあわせた特別授業を選択できる。
○教師の質の向上に財源を向けた。教職をいかに魅力的な仕事にするかが重要である。
○企業やメデイアを巻き込んで、数学、科学への関心を高め、小学校教師でも数学を専門に
教える資格をとれば特別給が加算される制度ができた。 .......等が載っている。
またベネッセ教育ニュース 2004年12月20日 OECD、IEAによる学力に関する国際調査結
果に関して〜入試で求める力も変わりはじめた〜 も参照されるとよい。 そこには、「知
識活用力」の問題として大学入試でも、図表・資料を読み取らせ、複数の文章を比較読解して、
自分の意見を書かせるような問題が増えてきました。このような問題は国語だけでなく「地歴、
公民、理科、英語、小論文」などの教科でも出題されています。......等が載せられています。
このように反復練習、じっくり時間を掛けた平素の授業を大切にするという基本に立ち、教員を
大切にし、また教員はそのことを自覚して習熟度別の授業も積極的に取り入れ、自分たちの
専門職性を高めるための努力を続けていくことが、結局、国際テストの成績向上に結びつくと
いうのである。 わが国にあっても忘れかけていたこの長所を再認識すべきであろう。
アメリカでもネブラスカ州方式を採用したほうがよいと考える。 それは、“一発勝負的テスト”に
依存するような評定方式ではなく、教員による平素の観察と評価、地区ごとのテスト結果、州の
書き取りテストの結果、全米的に行われているテストの結果などを総合して評定する方式である
が、このような方法が結果として如何なる国内テスト、国際テストにも対応することになると考
えるからである。 勿論、このことはアメリカ自身の問題である。
わが国にあっては逆に現今、あまりにも国や県、市などが実施する統一テストそのものが少な
過ぎることが今後の課題であろう。伝え聞くところによれば教員組合のなかでも統一テストの
必要性を認めるものがかなりある、ということである。
また次のサイトも参考にしてください。 http://www.kaigo-web.info/kouza/hokuou/no4
そこには次のようなことが述べられています。 すなわち、
フィンランドの家族政策と教育制度 によれば、小学校は7歳から始まります。労働力不足
が見込まれている今日、6歳から開始すべきだという意見もあるのですが、7歳から始まる
のは、できるだけ長く子供の時間を過ごすほうが、子供の発育を促すとの研究結果が出さ
れているからと言われています。フィンランドでは小学校から大学まで、すべて教育費は無
料で、このことがすべての子供に均等な教育を受ける機会を保障しています。また、9年間
の義務教育期間は、給食も無料、教科書も支給されます。中学卒業後は高校進学するか、
職業学校に進学するか進路が分かれます。高校卒業後は進学検定試験を受験しなければ
ならず、その成績と入試の成績で、大学または職業大学校へ進学する事ができます。
大学はすべて国立で20校あります。職業大学校は公立です。学生は同じ自治体に住んで
いても親から独立して離れて暮らすのが一般的で、住居手当、勉学手当てを国から受ける
ことができます。また奨学金制度もあります。どの大学を出たかというよりも、どのような資格
を取得したかで職業が決まります。
参考1 アメリカの教員の意見 - ASCD SmartBrief 年末レポート
ASCD SmartBriefは2004年の年末に会員からインターネットによって集約したアンケートの
結果を発表した。参考となるものが多いと思われるので下記しておこう。
質問1 | あなたが仕事をしていくのに何が最も影響を与えると考えますか。 |
回答 | 今のカリキュラムが狭過ぎることです............... 10.6% |
学力差が大き過ぎることです............................31.6% | |
親が教育に無関心なことです...........................16.9% | |
教育予算が不足していることです.......................7.3% | |
その他..............................................................14.2% |
【コメント】学力差に苦慮していることがわかる。 わが国でも二極化が進んでいる。
質問2 | あなたは教育政策を決めるのに何が最も重要だと考えますか。 |
回答 | 親の学校選択をもっと進めるべきです.............................2.7% |
低学力の生徒にもっと留意する必要があります............34.5% | |
生徒の学力の結果責任をもっと明確にすべきです........32.3% | |
教員の資質・能力をもっと問題にする必要があります.. 20.9% | |
もっと授業日数などを増やす必要があります.................3.2% | |
その他............................................................................6.5% |
質問3 | あなた自身の職能成長を図るために何が有益ですか。 |
回答 | 校外のコンサルタントによるインターネット上の知識や技法........65.1% |
実際の会合や作業.................................................................50.8% | |
ネット上にある諸コースを利用すること.....................................18.9% | |
大學における研修..................................................................23.8% | |
その他...................................................................................19.4% |
【コメント】大學での研修が24%と意外にすくない。 わが国の研修でも考慮すべき点であろう。
質問4は、ASCDに期待することについての質問であったが、それに対して「データ-がほしい」と
する回答が最も多かった。
参考2 わが国の文部科学省発表の各種統計情報 も参照してください。
OECD生徒の学習到達度調査(PISA)《2000年調査国際結果の要約
そのうち、読解力に関するものである下記しておこう。
総合読解力 | 得点 | 情報の取出し | 得点 | 解 釈 | 得点 | 熟考・評価 | 得点 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | フィンランド | 546 | フィンランド | 556 | フィンランド | 555 | カナダ | 542 |
2 | カナダ | 534 | オーストラリア | 536 | カナダ | 532 | イギリス | 539 |
3 | ニュージーランド | 529 | ニュージーランド | 535 | オーストラリア | 527 | アイルランド | 533 |
4 | オーストラリア | 528 | カナダ | 530 | アイルランド | 526 | フィンランド | 533 |
5 | アイルランド | 527 | 韓国 | 530 | ニュージーランド | 526 | 日本 | 530 |
6 | 韓国 | 525 | 日本 | 526 | 韓国 | 525 | ニュージーランド | 529 |
7 | イギリス | 523 | アイルランド | 524 | スウェーデン | 522 | オーストラリア | 526 |
8 | 日本 | 522 | イギリス | 523 | 日本 | 518 | 韓国 | 526 |
9 | スウェーデン | 516 | スウェーデン | 516 | アイスランド | 514 | オーストリア | 512 |
10 | オーストリア | 507 | フランス | 515 | イギリス | 514 | スウェーデン | 510 |
11 | ベルギー | 507 | ベルギー | 515 | ベルギー | 512 | アメリカ | 507 |
12 | アイスランド | 507 | ノルウェー | 505 | オーストリア | 508 | ノルウェー | 506 |
13 | ノルウェー | 505 | オーストリア | 502 | フランス | 506 | スペイン | 506 |
14 | フランス | 505 | アイスランド | 500 | ノルウェー | 505 | アイスランド | 501 |
15 | アメリカ | 504 | アメリカ | 499 | アメリカ | 505 | デンマーク | 500 |
16 | デンマーク | 497 | スイス | 498 | チェコ | 500 | ベルギー | 497 |
17 | スイス | 494 | デンマーク | 498 | スイス | 496 | フランス | 496 |
18 | スペイン | 493 | リヒテンシュタイン | 492 | デンマーク | 494 | ギリシャ | 495 |
19 | チェコ | 492 | イタリア | 488 | スペイン | 491 | スイス | 488 |
20 | イタリア | 487 | ポルトガル | 483 | イタリア | 489 | チェコ | 485 |
21 | ドイツ | 484 | ドイツ | 483 | ドイツ | 488 | イタリア | 483 |
22 | リヒテンシュタイン | 483 | チェコ | 481 | リヒテンシュタイン | 484 | ハンガリー | 481 |
23 | ハンガリー | 480 | ハンガリー | 478 | ポーランド | 482 | ポルトガル | 480 |
24 | ポーランド | 479 | ポーランド | 475 | ハンガリー | 480 | ドイツ | 478 |
25 | ギリシャ | 474 | ポルトガル | 455 | ギリシャ | 475 | ポーランド | 477 |
26 | ポルトガル | 470 | ロシア | 451 | ポルトガル | 473 | リヒテンシュタイン | 468 |
27 | ロシア | 462 | ラトビア | 451 | ロシア | 468 | ラトビア | 458 |
28 | ラトビア | 458 | ギリシャ | 450 | ラトビア | 459 | ロシア | 455 |
29 | ルクセンブルグ゛ | 441 | ルクセンブルグ゛ | 433 | ルクセンブルグ | 446 | メキシコ | 446 |
30 | メキシコ | 422 | メキシコ | 402 | メキシコ | 419 | ルクセンブルグ | 442 |
31 | ブラジル | 396 | ブラジル | 365 | ブラジル | 400 | ブラジル | 417 |
(日本は2位グループ) |
(日本は2位グループ) |
(日本は2位グループ) |
(日本は1位グループ) |
【コメント】先回のテスト結果であるが、フィンランドの位置もわかるであろうし、またわが国についても
2000年度の位置はかなり上位であったことが理解されよう。
参考3 Margaret Spellings女史が次の連邦教育長官に任命されよう
このことについてGlobe/Associated Pressが2005年1月6日号で報じているが、彼女に対する
連邦議会の承認手続きが今、進められている。8代目教育長官として超党派で承認されることは
確実である。 彼女は47才。 既にBush州知事の教育アドバイザーとしての経験もある。 中学
生と高校生の二人の母親でもある。 前任のPaige長官よりさらに強力に新教育改革を推進する
ものと考えられている。しかし同時にそれを修正していくであろう。
というのはWashingto Postが翌日の1月7日号でそのことを報じ、すぐ学校閉鎖や再編成につな
がるような現行の“ホラー物語”になっている教育改革法の問題点を改善し、これを補強していく
であろう、としているからである。 また彼女は中高年齢者や不利益を蒙っている人たちにも金銭
的な補助をし大學教育を受け易いようにすることも意図していると伝えている。
コメント
前編153で述べたわが国の場合と同様に、アメリカでも国際テストの低い得点に苦慮している。
このことについてデータ-や資料を中心にしてまとめたので、関係者にはそれなりに役立とう。
2005.1.8 記