153. OECDテストからみたわが国生徒の学力ー統計・資料を
中心にして ー付記: IEAテスト
はじめに
経済協力開発機構(OECD)が昨年実施した学力統一テストの結果が最近(平成16年12月7日)
に発表された。 それによれば日本の生徒の平均点は前回よりも低下し、また学力のばらつき
も大きくなってきている。 このことについて各新聞社は7日夕刊で報じたが、識者は一斉に危
機感を強めている。 次いで発表されたIEAによる中学2年生、小学4年生の理科の学力低下も
深刻な問題になってきている。巻末に付記する。
その対応策の一つとして学力標準テストの必要性が高まることは当然に予想されるところである
が、ここではOECDの結果を統計を中心にして概観することにする。なおこの研究にはイオンド
大學の亘 明彦氏と片山周子氏の協力を得た。
T OECDテストの国際比較
まず朝日、日本経済、読売の各新聞の記事からその要点を要約する。
昨年実施されたものが、最近英文で発表されたのである。
PISA:Program for International Student Assessment
順位 | 国 | 数学平均点 | 国 | 読解力平 均点 |
|
1 | 香港 | 550 | フィンランド | 543 | |
2 | フィンランド | 544 | 韓国 | 534 | |
3 | 韓国 | 542 | カナダ | 528 | |
4 | オランダ | 538 | オーストラリア | 526 | |
5 | リヒテンシュタイン | 536 | リヒテンシュタイン | 525 | |
6 | 日本 | 534 | ニュージーランド | 522 | |
7 | カナダ | 532 | アイルランド | 515 | |
8 | ベルギー | 529 | スウェーデン | 514 | |
9 | マカオ | 527 | オランダ | 513 | |
10 | スイス | 527 | 香港 | 510 | |
11 | オーストラリア | 524 | ベルギー | 507 | |
12 | ニュージーランド | 523 | ノルウェー | 500 | |
13 | チェコ | 516 | スイス | 499 | |
14 | アイスランド | 515 | 日本 | 498 | |
15 | デンマーク | 514 | マカオ | 498 | |
以下省略 | 以下省略 | ||||
参加国全体 | 500 | 参加国全体 | 500 |
註 ○ 参加国41、しかしイギリスは報告していないので成績結果は40ヶ国分である。
○ 15才男女 約27万6,000名 前回は2000年に実施された。 したがって3年ごと。
○ 40ヶ国全体分については原典(英文)から後述する。 資料2を参照してください。
○ わが国からは高校1年生 約4,700名が参加した。
数学は上述表のように534点、 前回は1位であったが、6位に下がっている。
読解力は498点、 前回は8位であったが、これも14位になっている。
参加国全体のデータ-については英文原典によって後述する。
問題例
後述の問題例は日本経済新聞、2004年(平成16年)12月7日夕刊の記事である。
このような問題例を記載したものは他にはなかったので、良い参考になろう。
左の問題例は日本経済新聞、2004年 (平成16年)12月7日夕刊の記事である。 なおこのような問題例を記載された新聞 は他社にはなかったので、良い参考例に なろう。 |
左の問題例も日本経済新聞の 当日の資料からである。 |
U 原典英文から
全体のレポートについては次を参照してください。
http://www.pisa.oecd.org/dataoecd/59/21/33917683.pdf
Learning for Tomorrow ’s World First Results from PISA 2003
○ 参加国 次のように3区分している。
OECD countries Australia Austria Belgium Canada Czech Republic Denmark Finland France Germany Greece Hungary Iceland Ireland Italy Japan Korea Luxembourg Mexico Netherlands New Zealand Norway Poland Portugal Slovak Republic Spain Sweden Switzerland Turkey United Kingdom United States Partner countries in PISA 2003 Brazil Hong Kong-China Indonesia Latvia Liechtenstein Macao-China Russian Federation Serbia and Montenegro Thailand Tunisia Uruguay Partner countries in other PISA assesments Albania Argentina Azerbaijan Bulgaria Chile Colombia Croatia Estonia Israel Jordan Kazakhstan Kyrgyz Republic Lithuania Macedonia Peru Qatar Romania Slovenia Chinese Taipei |
テストの意図 http://www.pisa.oecd.org/dataoecd/59/21/33917683.pdf
数学については次の力を調べる “The capacity to identify and understand the role that mathematics plays in the world,to make well-founded judgements and to use and engage with mathematics in ways that meet the needs of that individual ’s life as a constructive, concerned and re ective citizen ” (OECD,2003e). Related to wider,functional use of mathematics,engagement requires the ability to recognise and formulate mathematical problems in various situations. ・ and |
理科の力は次の力を調べる “The capacity to use scienti c knowledge,to identify scienti c questions and to draw evidence- based conclusions in order to understand and help make decisions about the natural world and the changes made to it through human activity ” (OECD,2003e). Requires understanding of scienti c concepts,an ability to apply a scienti c perspective and to think scienti cally about evidence. |
読解力は次のとおりである “The capacity to understand, use and re ect on written texts in order to achieve one ’s goals, to develop one ’s knowledge and potential,and to participate in society ” (OECD,2003e). Much more than decoding and literal comprehension,reading involves understanding and re ection,and the ability to use reading to ful l one ’s goals in life. |
OECD PISA数学結果 (英文原典から) 日本の生徒の勉強時間
正規加盟国 30ヶ国 数学平均点
|
左の一覧のように 正規の加盟国に ついては諸統計 で別扱いになって いる。 順位はつけられて いない。 イギリスは報告し ていない。 加盟国でない国 の平均点は下記 の通りである。 Brazil 356 香港 550 Indonesia 360 Latvia 483 リヒテンシュタイン 536 マカオ 527 ロシア 468 セルビア 437 タイ 417 チュニジァ 359 |
Annexes Table 5.14や第5章 Figure 5.14 Student learning timeを見てください。 生徒の授業時間や家庭での 勉強時間について 日本の場合 (1週につき) ・Instructional time 23.8時間 Remedial Classes 1.1時間 Enrichment Classes 0.8時間 ・Homework 3.8時間 Working with tuor 0.1時間 ・Attending out-of-school Classes 0.5時間 ・Others 2.0時間 以上のように述べられている。 そのなかでHomeworkの3.8 時間はOECD全体の平均5.9 時間と較べて少ないことも注 意すべきであろう。 |
数学7区分(Below Level 1を含む)の分布状況を参加国全部については、次を見てください。
この分類では、わが国はフィンランド、香港についで第3位に位置します。次いで韓国など。
:Figure 2.6a ・ Percentage of students at each level of proficiency
on the
mathematics/space and shape scale
読解力の7区分について、わが国の状況はFigure 6.2 ・ Percentage of students at each
level of proficiency on the reading scaleをみてください。 15番目あたりに位置します。
したがって、この下降も問題視されています。
なお次の表も参照してください。
一番左の表が 総合して数学の 平均点と考えて よかろう。 |
付記 IEAのテスト結果から
なお最近(2004年12月15日)、国際教育到達度評価委員会(IEA: International Economic
Association)が中学2年生、小学4年生の数学、理科についての国際学力標準テストの結果を
発表した。 TIM ss 2003(正式にはTrend in International Mathematics
and Science
Study)といわれているが参加国は45。この結果も日本にとっては厳しいものになっている。
これについて各新聞社は次のようなコメントを載せているので紹介しておこう。
○ 朝日新聞(2004. 12. 15)朝刊
学力低下 理科も深刻 中2 4位から6位に、 小4 2位から3位に
そして理科の問題例も載せて、低下の理由として“授業削減”、“基礎 弱まる”としている。
【参考】Education Week 12/14/2004号によれば、参加国全体の数学の平均点は、小4
で495点、中2では467点(しかしこれはミスであろう。なぜならば下記のように原典では
466点であるから)である。 また理科は小4で489点、中2で473点である。
○ 日経新聞 同日号
小4理科・中2数学 平均点下がる。 すなわち前回に比べ、小学4年の理科の平均点が
553点から543点に下がり、中学2年の数学も平均点が579点から570点に低下した、と
報じている。また平均点上位5カ国・地域なども載せているので参照してください。参加国
全体の平均点は記されていないが、それは前述【参考】によってください。
○ 読売新聞 同日号
小4理科、日本の平均点10点低下、 中2数学も9点下がる
【参考】Charlotle Observer 12/19/2004号が読売新聞の記事として「Gakko図書出版が来年
から全部英語で書かれた小学校算数教科書を出版する。 これは一つの石を投げて2羽
の鳥を取るようなもの」と書いている。 面白いので紹介しておこう。
次は英文原典にによる中2数学の得点一覧である。
次は英文原典にによる中2数学の得点一覧 である。Table 5. Average mathematics scalescores of eighth-grade students, by country: 2003 このようにTable 1は4年数学の一覧表、 Table 2は4年理科、 Table 6は中2理科 の一覧を見ることができる。 |
従って論議は一段と高揚してきているが、例えば12月18日の日経新聞もOECDが実施したPISA
とIEAが実施したTime ss 2003の結果を取り上げ、文科学省、「脱ゆとり」加速、国の義務教育国
庫負担問題にも影響を与えるとしたコメントを述べているし、朝日新聞も同日号で中山文科大臣
が「学校週5日制を弾力的にとらえ、学校や市町村の裁量に委せる形で、土曜日の授業を容認す
る」との考えを示したと報じている。
なお1999年実施の中2数学と小4理科の結果を、その原典資料によって紹介しておくので、
これとも比較されるとよい。
Table 1: National Average Scores for 1999
Country | Math | Science | Country | Math | Science | |||
1 | Singapore | 604 | 568 | 21 | New Zealand | 491 | 510 | |
2 | Korea | 587 | 549 | 22 | Lithuania | 482 | 488 | |
3 | Taipei | 585 | 569 | 23 | Italy | 479 | 493 | |
4 | Hong Kong | 582 | 530 | 24 | Cyprus | 476 | 460 | |
5 | Japan | 579 | 550 | 25 | Romania | 472 | 472 | |
6 | Belgium | 558 | 535 | 26 | Moldova | 469 | 459 | |
7 | Netherlands | 540 | 545 | 27 | Thailand | 467 | 482 | |
8 | Slovak | 534 | 535 | 28 | Israel | 466 | 468 | |
9 | Hungary | 532 | 552 | 29 | Tunisia | 448 | 430 | |
10 | Canada | 531 | 533 | 30 | Macedonia | 447 | 458 | |
11 | Slovenia | 530 | 533 | 31 | Turkey | 429 | 433 | |
12 | Russian | 526 | 529 | 32 | Jordan | 428 | 450 | |
13 | Australia | 525 | 540 | 33 | Iran | 422 | 448 | |
14 | Finland | 520 | 535 | 34 | Indonesia | 403 | 435 | |
15 | Czech | 520 | 539 | 35 | Chile | 392 | 420 | |
16 | Malaysia | 519 | 492 | 36 | Philippines | 345 | 345 | |
17 | Bulgaria | 511 | 518 | 37 | Morocco | 337 | 323 | |
18 | Latvia | 505 | 503 | 38 | South Africa | 275 | 245 | |
19 | United States | 502 | 515 | |||||
20 | England | 496 | 538 |
【註】 IEAの一覧には順位はつけられていないが、筆者において数学の得点順にランクした。
なお参加国全体の平均点が述べられている。
このように1999年には、日本は数学では、579点で第5位であった。 また理科でも550点で4位
であったことがわかる。
原典資料 http://fmwww.bc.edu/repec/nasug2003/shen.pdf#search='IEA%20and%20USA%20
なお本文に記載したOECD(本部パリ-)のテストは知識や技能を実際の生活で活用する力
調べるテストで(15才、すなわち高校1年生)、このIEAのテストは上述のように中2、小4年生を
対象にして、基礎的な知識に重点が置かれるていることが多少、異なる。 本部オランダ
コメント
ご覧のとおり今日的な問題を、データ-、資料を主にして記したので、速報性とともにそれな
りに役立とう。
2004. 12. 19記