杉田荘治
はじめに
最近(2004年7月)、アメリカNew Hampshire州で6ヶの地方教委が生徒にID番号をつけて
学力標準テストの成績を集約したり、また追跡したりするシステムを採用することにした。
このことについてBoston Globe(7/25)号が報じているので先ず、この要旨を記し、次いで
その根拠となったNew Hampshire州の関係州法法案の要点を述べることにする。
T Boston Globe(7/25/2004)号から
今年の秋からNashura市教委、Oyster River教委など六個の教委管内の総ての生徒は、社
会で広く普及しているIDカード番号と同じような仕組みのID番号を受け取ることになろう。
これはその教委のみならず州政府が生徒の標準テストの成績を追跡し、また転校のさいに
も利用できるし、教委に生徒の学力を向上させ卒業率を高めるために、もっと責任をもたせる
ことにも役立つものとなる。
実は州政府が4年前に40万ドルかけて計画し、案を練ってきたものであるが、今回これに
よって州は生徒の人種、性別、小グループ別などの得点や出席率などの情報を容易に把握
することができるようになる。 しかもそのデータ-は従来の地方教委からの報告と較べて
ずっと正確なものとなろう。
Nicholas Donohue州教育長官は「これは久しく待望されていたもので、21世紀の教育その
ものです」と語っているし、連邦政府の教育改革にも合致し、人種や民族などの小グループ
ごとの年次向上計画を計る上でも役立つであろう。また教育財政の公式づくりにも役立てる
ことができる」と説明している。
Nashura市教委の担当教育部長も「州全体のシステムになれば転校のさいも役立つし、落
第した生徒のその跡を追跡するさいにも有用である。 わが教委でも14,000名の生徒のうち
約1%、すなわち140名ぐらいの落第した生徒について毎年、追跡調査を年度はじめにしてい
るが、約1ヶ月それに費やし大変である。今後は大いに助かるだろう」と語っている。
またOyster River連合教委の担当官も「学力標準テストの生徒の傾向を分析することが極
めて容易になり、3年生から8年生までのリーディングと数学の連邦政府の求める資料につ
いても分析やその報告が容易になる。 今までは手書きのような方法でやっていたので、
2,217名の生徒全員については大変であった」といっている。
【註】Nashura市はこの州の第2の都市で人口は約175,000名である。 またOyster River
連合教委には小学校2校、中等学校1校、高校1校がある。
配慮される点
生徒の氏名は知ることができないようになっている。また個人の生育記録を含めてプライバ
シーを侵すことがないように設定されている。 教委も生徒のID番号に接続し必要な情報を
とることができるが、すぐそれを消すことになっている。 また統計情報は州のデータ-ベース
へ送られるが勿論、これを取り扱う者は生徒の氏名を知ることはできない。
U New Hampshired州の生徒ID番号法案
SENATE BILL 333-FN 『ユニークな生徒IDシステム』法案と名づけられているが、その要点
は次ぎのとおりである。
○ 目的
・生徒の学校間の転校に対応するため ・生徒の標準テストの得点を分析するため
・生徒の落第率を最小限にするため ・健全な教育政策に資するため
・現在の統計データ-の正確度を高めるため ・州の市民に信頼できるデータ-を提供する
・地方教委にデータ-集計の負担を軽くするため
○ 分類
・身体不自由な生徒 ・英語に不自由な生徒 ・成績上位の生徒
・経済的に貧しい生徒 ・人種または複合人種グループ別
○ データ-保管庫は電子システムによる。 しかし生徒の氏名、住所、電話番号、e-mail
アドレス
社会一般のID番号その他、生徒を特定できるものは含まないものとする。
ランダムアクセス式番号発生器について
○教育委員会名は載っている。 ○州政府は財政上のことについて利用できる。
○生徒の小学校から中等学校までの学力経過をファイルし保存する。
○総合的な会計監査についても利用できる。
○このラムダムアクセス番号発生器にアクセスできる者は教育長またはその代理人と学校の
担当管理職だけである。 これに違反する者は[Bクラス重罪]として罰せられ、懲戒免職に
なる。 【註: Bクラス 重罪: Class B felony については参考で後述する】
○事業やサービスに提供したりその他いかなる利益目的のために使用してはならない。 また
New Hampshire州以外の者に対しても提供してはならない。 違反者に対する罰則は前記
のとおりである。
参考 Bクラス重罪 (Class B felony)とは
州によって多少の違いがあるが、New Hampshire州の州法(State of
New Hampshire Laws)
によれば次ぎのとおりである。
○ [Bクラス重罪]は懲役1年〜7年または25,000ドルの罰金が科せられ、時には両方である。
なお参考までに[法規違反: Violation]は罰金、 [軽犯罪:Misdemeanor]は懲役1年まで、
または罰金、[Aクラス重罪:Class A felony]は7年以上の懲役または50,000ドルの罰金、時に
はその両方である。
○ [Bクラス重罪]関係分をみてみると、
a. 法によって規制されるドラッグ(Controlled Drugs)は、知っていたりまたは意図的に所有す
ること、購入、移したりした場合、1回目の違反で[Bクラス重罪]になる。 そのドラッグはコカ
イン、LSD、PCP、ヘロイン、メンタフェタミン、マリファナ、ハシーシであり、特にマリファナ、
ハシーシは3年以下の懲役と15,000ドル以下の罰金が科せられる。 2回目の違反は、
[Aクラス重罪]となる。
b. ステロイド この筋肉増強合成ホルモン罪についても同様
c.アルコール 21才以下の者については[Bクラス重罪]ではなく、[法規違反]または[軽犯
罪]となる。 しかし年少者や酔っている者に売った者は[Bクラス重罪]になる。
コメント ご覧のとおり生徒にID番号をつけ、州の学力標準テストの得点分析や比較、政策づくりなど
に利用しようとするものであるが、善用されれば、その効果は大であろう。 わが国では県など
の統一した学力テストそのものがないのであるから、今のところ、それほどまでの必要性はな
かろう。
2004. 8. 3記