杉田荘治
Shoji Sugita
はじめに
アメリカでは、アメリカ国民でありながら英語を自由に話せない生徒も多い。
しかし新教育改革法は、すべての生徒または、人種などの小グループごとの成績を連邦政府
へ報告することを義務付けている。 そのため一つでも、そのグループの成績か゛不良であれば
「改善を要する学校」に指定されて、ペナルティを受けたり、その他、生徒を他校へ転校させた
り、公費で個人教授を受けさせるなど、いろいろと面倒なことが派生してくるので、このような
生徒を多く抱えているような地域や教委からの不満が高まっていた。
そこで政府はテスト結果の報告を少し緩和して、「英語を自由に話せない生徒」については、1年間
これを猶予することにしたのである。 このことについて最近(2004. 2月)、Washington
Post紙など
が報じているので、先ずその概要を述べ、その後、連邦へ報告すべき小グループの分類について、
また参考事項について順次、述べていこう。
T Washington Post紙(2/20/2004)号から
Bush政府は昨日、新教育改革法:No Child Left Behind lawに対する批判を緩和するための一つと
として[英語を自由に話せない生徒]のテスト結果の報告を1年間、猶予すると発表した。
ある独立した研究によれば、全米で昨年、いろいろな理由で「改善を要する学校」に指定された学校
は28%にもなるといわれる。 そうなれば公費で個人教授を受けるようにしてやるとか、他の学校に
余裕があれば、そこの生徒を受け入れてやるなど、教委や学校にとっては何かと面倒なことが起こっ
てくる。
R.Paige教育長官は昨日の会議で「新教育改革法の求める要件をもっと柔軟に解釈できるようにする」
と語り、身体的精神的に不自由な生徒に対するものもその対象にしたが、今回の「英語を自由に話せ
ない生徒」の猶予もその一つである。 これらによって約550万人の生徒、またそれは全米の12%
の生徒がこれに該当するといわれる。
【註】新教育改革法のことについては既報のとおり、2002年1月、Bush大統領によって署名された法で
あるが、それは1960年代以来の大改革であった。 しかも前述のように小グループの一つでも成績
不振であるならば学校全体が「改善を要する学校」に指定されので不満が強く、ここ数ヶ月でも、
民主党大統領候補や州、地方教委は「予算は少ししか来ないし、他方、連邦政府の権限が
やたらに増えて、しかも正当とは考えられない事項にまで広がってきている」と激しく非難し
ている。
反応
新教育改革を支持する人もこれに反対する人も、今回の改正を歓迎している。 というのは地方教委の
負担が軽くなるからである。 全米州議会会議のロビストを勤めるDavid
Shreveさんも「これは正しい方
向への第一歩である。 さらに残り15事項についても改善させるように努める」と言っている。
ワシントンに本部のある教育信託の政策部長のRoss Wienerさんも、厳格な基準を保っていく連邦政府
の方針には賛成ではあるが、しかし今回の改正は新教育改革法の要点を明確にする上で良いことで
あるといっている。 ただ猶予期間を1年とはいわず2年以上必要であるとコメントしている。
U New York Times紙(2/20/2004)号からの補足
新教育改革法に対する反対が高まるなか、連邦政府の高官は、この木曜日、[英語が十分でない生徒]
のテストの得点は年次的に学習がどの程度、進歩したかを知る「年次向上プログラム」へ1年間カウントし
ないことに決定したと告げた。
この改訂は移民の多い公立学校のプレッシャを和らげることになろう。 今までは、これらの学校でもリー
ディングと数学の連邦の標準テストの得点は1年目から報告しなければならなかったので、教育関係者は
一様に「失敗することがわかっていながら無理やりに報告を義務付けている」と強く不満を表明していた。
今回の改正によって20%-25%、「改善を要する学校」が少なくなるだろうと予想される。 しかし非
営利団体である教育信託の政策担当部長Ross Weinerさんは、2年の猶予期間が必要であると言ってい
る。ところで今回の改正はCalifornia州とGeogia州からの請願によるもであるが、両州に対して既に連邦
政府から改正した旨が伝えられている。
V グループ別とは
連邦教育省へ報告するにさいして、どのようなグループ別の分類があるか見てみよう。
資料: 連邦教育省統計局: National Report Card, 2003年度 によれば、
インターネット上のデータ‐は全米13,000校から約34,3000名の生徒の成績集計で、連邦関係分
は公立と私立であるが、州(州に準ずるものを含む)関係分は公立のみの成績である。
4年生と8年生、 数学とリーディング
1. 男女の別(Gender)
2. 人種/民族(Race/Ethnicity) これには学校からの分と生徒自身の報告分の2通りあり。
白人、 黒人、 ヒスパニック、 アジア/太平洋諸島、 アメリカン・インディアン(アラスカ原住民を含む)、
その他
3. 学校の地域
○ 大都市部(Central city) MSA(Metropolitan Statiscal Area)とCS(Consolidated
Metropolitan
Statistical Area)との分類方法による。 人口100万人以上など
○ 大都市周辺部/大きな町(Urban fringe/large town)
国勢調査で大都市周辺部とされる地域 人口25,000名以上
○ 田舎/小さな町(Rural/small town)
25,000万人以下はすべて田舎であるが、そのなかで25,000名前後のところは小さな
町にいれる。
4. 学校のタイプ 公立と私立に分ける。 また私立はCathoricとその他に分ける。
5. Title Tを受けている学校
【連邦Title T補助金とは】小学校、中学校、高校のための連邦の補助金で低所得者が多い教育
区に与えられ、学力的に遅れている生徒に余分の教育サービスを受けられるようにする。
なお次ぎにもTitle Tについて述べてあるので参照してください。
45. アメリカの包括的教育改革法案ー提言とともにー追記: 教育改革法成立
6. スクールランチの減免を受けている学校・生徒
農林省全米スクールランチ計画の基準によって、
○ 全額免除......家庭が貧困とされるレベルの130%以下のもの(students
whose family income is at or
below
130% of the poverty level)
○ 減額................家庭が貧困とされるレベルの130% - 185% のもの(
... income is between 130% and
185%
of the poverty level)
7. 特別に成績報告を免除するもの
特に身体不自由な生徒(SD : students with disabilities)
特に英語に不自由な生徒(LEP: limited -English-proficient)
【註】今回、この点をはっきりさせたのであろう。
8. その他 親の学歴(Parent's education level)
○高校以下(Less than high school) ○高校卒(Graduated high
school)
○高校卒の後なんらかの教育を履修した者(Some education after hgh
school)
○大學卒(Graduated college)
参考T 英語に不自由な生徒の多い州や地方教委
資料: 連邦教育省統計局:NCES(2000-2001) 発表より上位10位 抽出
地域 | 州 | LEP プログラムを 受けている生徒数 |
その地区全生徒に対する 率 % |
Santa Ana 連合教委 |
カリフォルニア | 39,392 | 65.0 |
Garden Grove 連合教委 |
カリフォルニア | 23,991 | 49.2 |
Oakland; 連合教委 |
カリフォルニア | 19,344 | 34.5 |
San Francisco 連合教委 |
カリフォルニア | 18,626 | 31.1 |
Sacramento 連合教委 |
カリフォルニア | 14,945 | 26.3 |
Aldina 独立教委 | テキサス | 11,681 | 22.2 |
Yslets独立教委 | テキサス | 10,276 | 22.1 |
Minneapolis教委 | ミネソタ | 10,612 | 21.7 |
Elk Grove 連合教委 |
カリフォルニア | 8,660 | 18.1 |
San Antono 独立教委 |
テキサス | 10,288 | 18.0 |
註 LEP: Limited -English Proficient またNCES資料によれば40位まで公表されている。
その合計生徒数は252,589名である。 なお「英語に不自由な生徒」とはアメリカ以外の国か
ら移住し母国語が英語以外の者、英語以外の言語が支配的である環境にある者、アメリカン・
インディアンやアラスカ原住民で英語以外の言語が通常である者などがある。
参考U スクール・ランチの減免をうけている生徒の成績
資料: 全米学力標準テスト 数学 The Nation School Card 2003年度
次の表のように4年生、8年生ともに、一般生徒より少し劣る程度である。 いずれも500点満点
人種 | 減免を受けている生徒の得点 | 一般生徒の得点 |
白人 | 231(4年生) 272(8年生) |
247(4年生) 291(8年生) |
黒人 | 212(4年生) 247(8年生) |
226(4年生) 262(8年生) |
ヒスパニック | 219(4年生) 254(8年生) |
232(4年生) 269(8年生) |
アジア系/太平洋諸島 | 234(4年生) 274(8年生) |
254(4年生) 300(8年生) |
アメリカン・インディア ン アラスカ原住民 |
218(4年生) 255(8年生) |
237(4年生) 276(8年生) |
参考V 連邦の定める方式
次ぎを参照されるとよいが関係個所を下記する。
70-2. アメリカの教育改革法のその後ー各州は悪戦苦闘している
連邦教育省は各州や教委に対して『適当な進歩の年次計画』: "adequate
yearly progress" として
の基準を定めているが、これがかなり難しい。 すなわち、
○ 州の標準テストで向上したことを%
で示すこと。 そして12年後、すなわち2013-14年には、総て
の学校で総ての生徒が数学とリーディングで『良』レベル: proficient
に達すること。
○ 学校全体、教委内全体でもそうでなければならないが、その内訳としての小グループでもそう
であること。すなわち、人種、貧しいなどの経済的背景、英語が不自由なグループ、身体的不自
由な生徒などの小グ‐プを指すが、それらの結果も公表すべきこととする。
○ その年次毎の内容は、基礎である(basic)、良好である(proficient)、上級である(advanced)として
卒業(進級)の%、教員の資質・資格、テストを受けなかった生徒の%、『改善を要する』学校の確認
である。
2年間続けて『改善を要する』学校:needing improvement という学校になると、生徒を他校に転
校させることも認めなければならず、またその学校に残っている生徒に教委の費用で家庭教をつけ、
さらに次ぎの年も同じような状態であれば州の直轄に取って替わられることにもなるからである。
コメント
ご覧のとおり、新教育改革法はテストの得点を人種などの小グループも含めて連邦政府に報告させ、
そのために「改善を要する」学校に指定されることが多くなった。 最近、大統領選ともからんで
特にその不満が強くなったので今回、「英語を十分に話せない生徒」の分の報告を1年間、猶予
することにしたものである。 いずれ1年といわず延長すべしとの意見も強くなろう。
2004. 2. 28記