126. イギリスは中等学校のデザインを一大刷新
   しようとしている


杉田荘治
Shoji Sugita


はじめに
   イギリスではBlair首相が率先して、イギリス全土にわたって中等学校のデザインを一新しようと
   している。 勿論、デザインとはいっても校舎の外観や内装などのデザインだけではなく、機能的
   な校舎、施設・設備など学校全般のデザインのことであるが、これを一大刷新しようというのであ
   る。
   このことについて最近(2004年2月)、ロンドンにあるGuardian紙が報じているので、先ず、それを
   概観し、その後、モデルデザインその他について述べることにする。

T The Guardian (London) (2/13/2004)号から
     50億ポンドを投資してイギリスの中等学校を抜本的に刷新する

   ビクトリア王朝時代以後、最大規模の野心的な学校改革プランが昨日、政府から発表さ
   れた。それに一流建築家たちが率先して強力に協力している。 従って、大きな国家的事
   業といえよう。政府は今後15年かけて、51億ポンドを投資してイギリス全土のすべての中
   等学校を刷新、再建しようとしているが、その基礎プランも出来あがり、最初の段階として
   2005年度までに180校について実施されることになった。

   首相も北ロンドンBrentにある首都アカデミーの開所式で、「わが国の将来を託する巨大な投資
   を行なう。今まて゜幾世代にわたって学校はあまり効果的でなかったが、これを刷新して歴史
   的なもにのする」と語った。
   これを受けて、学校標準担当大臣(次官級)David Milibandも「ビクトリア時代以来、はじめての本
   格的な改革であり全土にわたって中等学校を変革する。 そのため、いろいろな投資を総合して利
   用する」、「“未来のための学校建設”は資金を包括的に使い、魅力があって教員が教えることを
   悦び、生徒が学ぶことを喜ぶような魅力ある学校環境を整える。 ビクトリア風の堂々とした高層
   の学校は、その時代に適していたが今や不適当である。 また7校のうち6校は25年前に建てられ
   たもので、しかもその60%は40年前のもので旧くなっている」と説明した。

   ところで、Will Alsopさんは南ロンドンにある未来図書館の設計コンクールで最優秀賞を得
   た建築家であるが、教育省教育・技術局の求めに応じて、21世紀学校のモデルを創って、
   この計画に貢献している。 その建物は今後、30年ないし60年間、十分に教育的機能を果
   たすであろう。 コンピューター技術も大幅に取り入れられている。

  補足
   今の建物は1836年に設計されたものが基本になっているので、ひだ飾りの多い、窮屈なズボンの
   ような建物で夏には暑く、冬は寒い。 今度の11のモデルは、いずれも、日光を十分取り入れ、オー
   プン・エア式の教室、天候の悪い時には室内で楽しく集うこともできる場所もあり、また、いじめを思
   い留まらせるよな健全な環境づくりにも気が配られている。 また11のモデルはそれぞれ、特徴が
   あり例えば、Wilkson Eyre案はスロープを使って自然に校舎へ引きづり込まれるようなデザインになっ
   ている。

  地教委の動き
   この計画に応えて、昨日、次ぎの教委がモデル校を創ることに着手した。 すなわち、
   Bradford, Bristol, Knowsley, Leads, Manchester, Newcastle, Newham, Sheffield, Solihill, Stoke-on-
   Trust, Sunderland, Waltham である。 それに次ぎも協力教委となって参加するであろう。
   Gateshead, South Tyneside, Southwark, Greenwich, Lewisham
   これらの教委は政府から予算を貰うためには、過去の旧いタイプから脱却して、上述の11のモデルから、
   それぞれの地方の特徴や要求を加味して、機能的に斬新な設計でなければならない。 もちろん、あち
   こちの破れた窓を修繕するようなものでは問題にならない。

  各界の動き
   ○ 建築・環境委員会
     われわれの学校建設プロジェクトは優れた資質、能力を備えた建築家を配置した。 彼らは
     教育省教育・基準局と十分、連携を保ちながら、良いデザインと良い教育的成果との関連について
     考慮して進めている。
   ○ 全英教員組合
     この計画を歓迎する。 首相は地方教委を激励し、またデザインを各教委が変更するさいは、教員
     を参画させるべきである。 確かにこの計画は学習指導を有効に支えるものとなろうし、また生徒
     の躾の問題についても効果的であろう。学校の安全にも役立つと期待している。

   ○ 全英校長協会
     この変化を歓迎する。 しかし政府は小学校や特殊学校のことも忘れないように望む。
   ○ 中等学校校長協会
     今まで長い間、中等学校のデザインには注意が払われなかったために、多くの地方の学校は“あざ
     けり”の対象になっていた。 今ようやく、このように改革されることは悦ばしい。

U モデル・デザイン          資料: Teachernet, Examplan Designs

   政府の方針に応じて、11名の著名な建築家によって、小学校については5例、中等学校につい
   ても5例、初等・中等一貫校については1例、モデル・デザインが創られた。 そして具体的に小学
   校分としてはWalter and Cohen建築グループのものなどが示されているし、中等学校分としては、Mace
   (RTKL)建築グループの例などが提示されている。 【註 改革案は中等学校のそれであるが、モデル・プラ
   ンには、このように小学校のものも含まれている】
  目的
   ○ 「未来の学校とは」の夢を発展させる。  ○ 優れたデザインを学校の基準にする。
   ○ このような学校を多く創るように促す。  ○ 新しい学校を創る方法について産業界を激励する。
  そのために、
   ○ 概要を印刷・出版する。     ○ インターネットでも詳細に見れるようにする。
   ○ コンピューターを活用する。   ○ 皆さんに、広く討議するフォーラムを設ける。
    
V 教育省教育・技術局ページからの補足

   今週、首相は14の地方教委が180校について、中等学校を刷新しようとしていることに言及し、
   これに対して220億ポンドを支出することを発表しました。 イギリス史上、画期的なことといえましょ
   う。
   これを受けて、教育省の学校標準担当大臣(次官級)は“未来学校建設”は革新的なモデル・デザイン
   を提供すること、スペシャリストたちが総合ICチームと一体になって学習に必要なポイントを抑え、すべ
   ての生徒が興味と関心をいだくようなものにするよう、努力しています。

   そうです。皆さんの地域の学校の建物や機能は、どうあるべきか。生徒が学ぶ教室は、どうあるべきか
   が改革のポイントです。本当に21世紀の学校とは、について広く皆さんからの提言を期待します。
   その他、上述したTeacherNetモデル・プランやGuardian紙の記事が付記されている。

コメント ご覧のとおり、政府、業界、一流建築家、地方教委が一体となって、ビクトリア時代以来
     始めて中等学校について刷新を図ろうとし、既に着手された。 一大国家的事業である。成
     果が注目されよう。

 2004. 2. 20記         無断転載禁止