LM外伝Part2:寒すぎのクリスマス




 寒空の下、今日も破壊の大帝と私の旅は続いていた。機械の身とは言っても潤滑油の調子や 電気効率その他の影響により私でも寒さを感じる。破壊の大帝は南の出身だそうで寒さだけは どうにもこうにも出来ない大敵らしく、ブルムベアとコアモウルフの毛皮で編んだ(自作) マントや帽子、手袋長靴等の耐寒具をこれでもかというように着込んでいた。

 「…暑い…」

 「だったら脱ぎなさい(^^;」

 「持ち運ぶのめんどいんだよぉ〜くっそぉ〜宅配サービスやってねーかなぁ。」

 「この御時勢にそんなものありませんよ。旅の召喚師に安息はありません。」

 「むぅ〜、やっぱり民百姓が安心して暮らせるように、私が天下を盗るべきかのぉ〜。」

 「“破壊の大帝”がなにを言ってますか(^^;」

 破壊の大帝が次のボケを噛まそうとしたが、おりしもホワイトバイアのブレスのような 北風が彼の口を凍えさせた。まるでゼンマイの切れたおもちゃのように彼の動きが止まる。

 「…………もしもーし(^^;」

 「あぅ〜寒いよぉ〜(;;)。でーい!今日はやめやめ!聖地に帰って鍋でも囲むぞ! もしくは某観光国家にれっつごーだ!」

 変わり身の早い人だ…と思ったその時、一条の光が空から舞い下りた。虹色の光は 私たちの前に像を結ぼうとしている。

 「え!私のレーダーに反応してない?」

 「おお!ゆーふぉーだゆーふぉーだ☆すてれす機能付きのゆーふぉーだ☆」

 「…相変わらずだな…」

 そこに居たのは…誰であろう。緑炎の使い手、ウィルザード聖壁の守護天使のアークエンジェル!? 持ち場を離れて、しかも私たちの元に現われるとは何が起きたというのだろうか? 私は戦慄を覚えた…そして、破壊の大帝氏がこの神の代理人ともいえる存在に対して 何か失礼なことを言い出さないかとひやひやした。

 「おお!そこに行くは人造系最高傑作ともいえるサイアン・ゲーブの有り難〜い拳で無事極楽往生した アークエンジェル君ではないか!」

 「…神を神とも思っておらぬ…その傲慢にして不遜なる態度はいつの日か我らが軍勢によって打ち砕かれるだろう。」

 「ってか、さすがにミルプエンジェル喚べたらありがたみがわかない。どったの?営業?」

 「…あの…どうしてタメで話しているんですか?破壊の大帝さん…」

 「神族系の大いなる祭日が近い。故に我々大天使がこうして地上を見渡し御神の栄光を広めているのだ。」

 「わし、人造系だもん☆」

 「不埒な…」

 「何でもいいけど、ミルプ以外は人間に干渉しちゃならんのじゃ無かったっけ?」

 「実の所、どこぞの馬鹿がミルプエンジェルを大量に召喚してしまって天使手が足りぬのだ。 フェザーナイトもウィルアークも別の所で仕事をしておる。」

 「あ〜クリスマスだからねぇ〜女っ気の無い連中が寂しさを紛らわすためにエルフとかグラムとか いっぱい喚んで、はべらせてるんだよねぇ〜。しかも天使となるとやっぱり気分出るしね。」

 「そういう馬鹿者を滅ぼすのも我らの仕事の一つだ。」

 「あ〜心配要りやせんぜ、旦那ぁ〜。わし、触手じゃないと燃えない。」

 「それはそれで問題だと思われるが…。」

 「…あの…どうしてタメで話しているんですか?アークエンジェルさんも…(^^;」

 「ふっ、甘いな、男と男の勝負の後には強敵(とも)の記憶が残るのだ。わしの完勝だったけど。」

 先程からの質問に破壊の大帝が答える。…何が強敵(とも)だ…と思ったが黙っていた。

 「単に我を倒せし者として寄っておいただけだ。神はお前のような傍若無人にして人畜有害な者にも愛を分け与えていると思え。」

 「あう〜もっとぉ〜愛〜っ〜☆」

 破壊の大帝はのけぞってよがる。アークエンジェルは二三歩後ろによろめいた。

 「……この男の行動…私の智を凌駕している…」

 「この人は特別ですぅ(;;)…私、この人とずっと一緒なんですよ(;;)」

 まさかこの人が普通の人間だと思われたら… 危うく世界が粛正されるような気がしたので私は慌ててフォローを入れた。 彼の様な人間のみの世界…思うだけでぞっとする。

 「人造のものか…しかし、お前の魂は救われるであろう。その肉体が滅びても復活の日には 再び神より与えられた姿に戻れるであろう。」

 ……え?魂??肉体?神より与えられた姿??私は人の手によって作られた機械…。 魂なんてそんなものはないはず…自分が死んだらあとはスクラップしか残らないはず… まさか、以前に見た夢は本当なのだろうか?私の過去…しかし…

 「しかし…この男は…」

 アークエンジェルはまだ倒れている破壊の大帝を見やる。破壊の大帝は? かれは地獄へ落ちるのだろうか?いや…彼の魂は救われないというのか? 破壊の大帝はようやくアークエンジェルの視線に気づき、立ち上がる。

 「ちっちっち、私はカダスに逃避するからあんたらの世話にはならんよーだ☆」

 「…邪神を祭り、人の生み出すものにて自然と神をないがしろにするもの… “破壊の大帝”とは良く言ったものだな。しかし、喩え表向きはそのように振る舞っても 償おうとしているのでないか?本当は?」

 …何を知ってるというのだ?アークエンジェル、破壊の大帝の過去、私の過去…

 「だーれも居ないと思っていても、どこかでどこかでエンジェルは〜ってとこか? 駄目だぜ、こいつは俺のことバラしてないんだ。あまり喋ってほしくないね。」

 ………沈黙、暫く時間が止まってしまったような錯覚を覚えた。もしかして破壊の大帝と アークエンジェルが言葉を交わすのはこれが始めてではないのかもしれない… 強敵…それはウィルアード聖壁での闘い以前から彼らはそうだったのかも…そう思うと 妙に背筋が寒くなった…機械の私が言うのもなんだが。

 「一つだけ…願いを叶えると言ったら…何を願う?」

 ぽつりとアークエンジェルが問うた。

 「ん?今年のクリスマスも雪が降ったら良いな…なんてね☆」

 「あいかわらずだな…」

 ふわりと天に舞うと、アークエンジェルは来たときと同じように一条の光と化して天空に舞い戻る。 そしてその翼の羽毛の代りに、ひらひらと雪が舞った。

 「破壊の大帝さん…」

 いろんな事を聞きたかった。しかし、彼はさっきまでのシリアスな顔から一転して 大きなくしゃみをした。

 「…寒ぃぃぃ…(;;) あ〜暖房の方が良かったかなぁ…。 あ!“アグリッパの倒し方”教えてもらった方が良かったぁ(;;)」

 「…破壊の大帝さぁ〜ん…(^^;」

 鼻をすする彼を横目に見ながら、先程の問答が嘘のような感じを受けた。二人して怪しい会話を 交わしていただけなのだろうか?

 「天を見なくても、自分の役割くらい分かってるぜ。」

 「?何か言いました?」

 …いや、聖地どっちだっけ?彼は笑いながらそう語った。


破壊の大帝ぐれねーどへ