マッチ売りの少女
- (高英男)
- ゆーきの降る町をー
- (コーラス)
- わわわわー
-
- ゆーきの降る町をー
-
- わわわわー
- (ナレーター)
- 思い出だけが通り過ぎて行く、とある年の瀬の、とある街頭で、一人の少女がマッチを売っておりました。
- (少女)
- マッチ、マッチはいりませんか?
-
- 可愛そうに、足は裸足。 靴は死んだお母さんのお下がりを持っていましたが、
大きすぎたのです、先ほど脱げて、無くしてしまいました。
-
- マッチ、マッチはいりませんか?
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- かじかむ指に息を吹きかけながら、道行く人に声をかけます。
マッチが売れないと、お父さんからこっ酷く殴られるのです。
- (客1)
- トシちゃんは!? トシちゃんは売ってないの!?
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- ええと……… ごめんなさい、マッチしかないんです……
-
- トシちゃんじゃないとダメなのよっ! クキェェーーーーーーー!!!
-
- そこの角のお店ならあるかも………
-
- 少女がそう言うと、お客は大急ぎでお店に駆け込むと、タケチャンマンを買っていきました。
笑い声が似ているから、間違えたのでしょう。
- (客2)
- おおおおおおお嬢ちゃん? かかかかかか体は売ってないのかい?
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- 体、ですか?
-
- 少女は思いました。ホルマリンの瓶に浮かぶ、自分の臓器を。
真っ赤な心臓、褐色の肝臓、灰色の肺臓、黄色の脾臓に暗い色の腎臓。
これで五行だと思うと、自然と頬に笑みが涌き、血湧き肉踊るのです。
-
- おお、こんな子はキチガイか病気に違いない。
危うくチンコを腐らせるところだった。くわばら、くわばら。
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- 暫くトリップしていましたが、その間に客は逃げてしまいました。
少女は溜息をついて、マッチを売りつづけます。
-
- マッチ、マッチはいりませんか?
- (客3)
- や、私は靴下がないと萌えないのだよ。
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- ああ………靴下………
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- 軽くあしらわれて、少女は俯いてしまいます。
紅白が無い時代ですが、それは大晦日。 ふと気が付くと、あたりに人影はありません。
みな、家に帰って温かな家族の団欒を楽しんでいるのでしょう。 北風が容赦なく、少女から熱を奪います。
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- 商売モノだけど、少し使っても良いよね。
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- 指先が凍えるように冷たくなっています。
焼け石に水である事は彼女自身が良く判っていましたが、
少しでも暖を取ろうと、マッチを一本擦りました。
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- ああ、なんと暖かいのでしょう。
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- マッチの灯火に、少女は温かそうな暖炉を見ました。
脳がそうだと判断すれば、体もそう判断します。南国だと思えば、すぐさま少女は衣服を脱ぎ捨てた事でしょう。
しかし、マッチの炎はすぐに、燃え尽きてしまいます。
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- ………もう一本、いっとく?
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- シュボッ。少女は先ほどの恍惚感が忘られず、再びマッチに火を灯します。
- (魚料理)
- やぁ、女の子だ。
- (鳥料理)
- 僕は鳥の丸焼きだよ。 さぁ、さっさと食べるんだ。 丸齧るんだよこの雌豚がぁッ!
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- あ、お料理だ。お料理だ。 食べ物、うま、たべもの、たべもの。
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- 19世紀末に用いられていた黄燐マッチは毒性が強く(黄燐は「猫いらず」の材料となる)、
うっかりしていると、直に死に至ります。ただでさえ疲労の極限に達していた少女は、
揺れる炎を凝視する事で催眠状態となり、あらぬ幻覚を見始めていました。
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- わたしのお口ここだよぉ。 早く入ってきてよぉ。
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- 少女は下のお口をパクパクさせていましたが、火が消えるのと同時に、幻覚も消えました。
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- はぁはぁ、次の、次の………
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- 少女は麻薬中毒者の様に、立て続けに商売物のマッチに手をつけます。
こんなイカした使い方があることを知っていれば、マッチも、飛ぶように売れたことでしょうに。
少女は、大きなクリスマスツリーの幻覚を見ていました。
- (クリスマスツリー)
- このー木なんの木 木になる気になるき〜う〜あーあーあー
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- いやぁんっ、触手がっ! 外宇宙の種子が、私のおなかにっ、イーーーーンサーーーートォォォォ!!!
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- 少女の頭は、完全に壊れ始めていました。もっと尻がプリプリしていれば、
『ベルセルク』のキャスカを凌駕するかもしれません。
クリスマスツリーが消えると、そのてっぺんに飾られた星が落ちたように見えました。
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- 強敵(とも)が………逝ったか………
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- 流れ星は誰か亡くなった時に落ちるといいます。少女は、死んだお婆さんのことを思い出してました。
しかし、理性が戻る間もなく、少女はマッチに手を出していました。もう後戻りは出来ません。
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- いらっしゃぁ〜い。
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- オ羽あSAN!
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- 少女は死んだお婆さんとの再会に歓喜に咽び泣き、屎尿を垂れ流しました。
そして、折角なのでお婆さんに何かしてあげようと考えました。
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- ワ太し、お良リ 酢ル。 鬼く、ヤ苦。
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- 少女は、ありったけのマッチを壁にこすり付け、自らの体に火をつけました。生ける灯明は、大晦日の夜を照らします。
少女は不思議と、皮膚を焦がす痛みを感じませんでした。もうそこまで、脳がアレしてしまっていたのです。
しかし、強烈なイメージは、少女の肉体をも崩壊させていきました。
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- あーあーあー………うっ、おっおっおっ! ほぉーーーーーーーーっ!!!
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- 先ほどから吸い込んでいた有毒の蒸気と幻覚による脳内物質、多幸感、体液や汚物、
雪に混ざったダイオキシンや高熱や星の位置等々、様々な理由がスパークし、
少女はあらぬ存在、星の精へと変貌したのです。 そしてしずしずと、ゆっくりと、天に昇って行きました。
- (魚勝)
- やぁ、今年も星の精が昇っていくじゃねぇか。
- (おかみさん)
- あら、ほんとだねぇ。こりゃ、今年も良い年になるよ。
ところで、お前さん。本当に一杯もやらないのかい?
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- ああ、また夢になるといけねぇ。
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- 星の精は一年の罪穢れを引き受けて、旧き神の元に旅立つと云われています。
そして、いつの日か、溜まりに溜まった穢れと引き換えに復活を果たした旧神が、
古の如く地球の支配者となるまで、愚かしくも畏怖すべき踊りを舞い続けるそうです。
めでたしめでたし。
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教訓、『雪の降る町を』=『エスパー魔美』なのはどうよ?
小ネタ衆の時間へ
破壊の大帝ぐれねーどへ