LM外伝Part1:全天候型突っ込み装置




 なんだろう?今見ている世界が本物のような気がしない。ガラス越しに 二人の白衣の男が様々な装置に囲まれている。モーハスの神殿にはいまだに 彼らの様な男女が神官として崇められ、新たなる機械の創造に 勤しんでいるという事を小耳に挟んだことがあるが、いつのまにこんなところに 来てしまったのだろうか?

 手を動かしてみると、どうやらガラスは自分を取り囲み、瓶のように 成っている。手?触覚?そうか…仮想現実装置が入れっぱなしだったか。 立体映像として結ばれる像の立体的な位地にセンサーが探知する対象の材質を“感触”として シンクロさせれば“触覚”を感じることは可能だ。同様に視覚、聴覚、嗅覚なども センサーと同期させることにより“本物に近い”感覚が得られるように成っている。 “身体”全体の感触から、何かしらの液体が瓶を満たされているらしかった。

 修理工場だろうか?とうとう自分は壊れてしまったのか? しかし自分の“本体”が見当たらなかった。立体映像は遠くには投影できない。 しかも、今の自分は明らかに“人間”の姿を取っている。どうしてしまったのだろうか? 何かしらのノイズにより記録装置に異常が発生しているのだろうか?それとも 読心装置が誤作動を起こして彼の記憶を読み取ってしまっているのだろうか? いや…自分は“女性”である。“彼”ではない…しかし何かおかしい。 目の位地座標から可視範囲を割り出せる程自分の仮想現実装置は優秀では無いはずだ。

 「今度の被験体には当たりが多かったな。」

 「ああ、霊子エネルギーのヴォルテージが著しく高い。神経組織に特殊な酵素が 存在するらしいな。おかげで有魂装置にも応用が利く。」

 男達が話をしている。やはり神官達なのだろう、“科学”という名の神に 身を捧げし者達。モーハスには違いない。良く観察すると、自分の周りにも 同じような瓶がいくつもあり、前に見せられた蛇の標本のように 生気無く液体の中を浮かんでいた。生きているのは自分だけの様な気がした。 皮肉なことだ…自分は人間ではないというのに…。

 「科学の進歩のために身を呈して頂いているんだ。ありがたく使ってやらね。」

 男達は何を言っているだろうか?捕虜を犠牲に?そんな事はモーハスが“研究所”と呼ばれていた 悠久の昔の事の話だ。彼はどこに修理を頼んだのだ?…いや!彼が修理なんかするはずが無い。 機械は殴って治すもの…それが彼の口癖であるし、良く実行されている。現に直るから、恐い。

 「死体はブレインチップの開発に回したんだったな。今こっちに有るのは生体だけか?」

 「ああ、少々傷物もあるが。例によって眠らせている。」

 「上玉だと脳を簡単なMPUと入れ替えて、肉奴隷として献上すれば開発費を工面してくれるらしいがな。 まぁ、脳さえ手に入れば大体は良いんだから。」男が自分の方を見やった。思わず身がすくむ。 何故?自分は既に機械だというのに…

 「ああ、そいつは駄目だ。アウドムラ細胞に拒絶反応を起こさなかったんだ。バイオノイドの試作品にする。」

 …アウドムラ…あのおぞましい巨体の生物…どうしてあんなものが存在するのだろうか? 幾多の勇士をそれこそ向きを変えるだけで消滅させてしまう化け物…しかし、倒したところに居合わせてしまった。 いや、そうではない。細胞をどうするというのだ?バイオノイド?私に手を加えるというのか?

 「下手をすれば、こいつが最強の化け物になもな、LastMonsterってところか?」

 「いいな、LM計画。じゃぁ、こいつの名前は“LM仮面”とでも付けるか。」

 いや!モンスターなんかにしないで!私はそんな名前じゃない!勝手に 人を…え?違う…私?私は人?…私は……




 「でーい!目を覚まさんくわぁーい!」

 ごちっ……衝撃を感じる、いつものように本体から投影される立体映像の自分が 既に朝食(昼と兼ねているが)を済ませたらしい“破壊の大帝”が向き合った。

 「だいたいやねぇ〜、機械の分際で睡眠を取ると言うのがおこがましい(びししっ)。」

 「ええ〜っ、だってそういう風に出来ているんですよぉ〜。何故だか分かりませんけどぉ(;;)」

 「何故全天候型突っ込み装置に睡眠が必要なんだ…設計者出てきやがれ! もう、さっきなんてうなされてて煩かったんだからな!なんか夢でも見てたか?」

 …夢?そういえば…そうだったのかも知れない。現に私は機械なのだから。本体は 破壊の大帝に背負われている小さなプロジェクター…。でも、機械も夢を見るの?

 「その様子だと、いやらしくていやらしくてとてもじゃ無いけど恥ずかしくて言えないような奴だな。」

 「ち・が・い・ま・すっ!」

 悔しそうな顔をする破壊の大帝…この人、何を根拠に生きているんだろ…しかし…どうして私は突っ込み装置なんだろ…。 いや、それは覚えている、初めてあった時、私は記憶を無くしていた。それでこの人がいろいろ質問をした挙げ句、 半強制的に“突っ込み装置”にされてしまったんだ…でも、全天候型って何…

 「さてと、今日も清く正しく美しく、ダンジョン攻略に行くぞ!」

 「堅気になりましょうよ…」

 「うっせーっ!」

 …いつものような会話…いや、彼のボケと私の突っ込み…このままこの関係が続くのだろうか? もしかして私は…本当は他のものではないのだろうか?でも…今は…

 「なんでやねーっん!」

 「ちっ…」

 この人について行くしかないようだ…この人がダンジョンマスターになるまでに 私の記憶を取り戻す多くのことが起こりそうだから。


破壊の大帝ぐれねーどへ