LM外伝Part4:破壊の剣
「ん?真っ昼間からエッチでもしたくなった?いやぁん☆」
「だれがじゃ…(--;;;;;;」
今日もまた聖地からダンジョンへの移動。草原を抜け、立ち並ぶドラゴンタワーを見上げながら 水上すらも厭わず進み続ける。spとgp、そして時間の無駄遣いとも思える破壊の大帝のダンジョンへの執着に 毎度の事ながら私は付き合わされていた。破壊の大帝は普段は無口で旅の途中はほとんど一言も喋らない。 もちろん、私が話し掛ければそれなりの応えは帰っては来るが見当違い甚だしいボケぶりを発揮してくれている。 私はため息を吐きながら、それでも長い沈黙に耐え兼ねていた所だったので話を続けた。
「いえ、その剣ですよ。それも何処かで拾ってこられたのですか?」
剣とは、彼の持つ“破壊の剣”、刃渡り120cm、柄が50cm、鍔に当たるのは刃の終わりの部分であり 長さ30cmほど、刃の形状はかなり歪曲した二等辺三角形であり、禍禍しいばかりの文様が一面に記されている。 彼はいつも“じゃまくせ〜”と言いつつ、この剣を片身放さず身につけている。 しかし、彼は召喚士。剣を召喚の小道具にした事もついぞ無い。
「これか…そう言えばまだ話してなかったなぁ…」
彼は二時の方向上に15度の角度に目を向ける。彼なりの“遠い目”である。彼は一呼吸間を置くと、 BGM発生装置をONにし、少々物悲しい音楽を奏で始めた。
「昔々のことじゃったぁ〜。尾張のぉ〜国のぉ〜ある村に、 墓猪戴貞というそれはそれは働き者の若者がおったそうな。」
「………何処ですか?尾張って(^^;)」
彼が“遠い目”をした後の発言がまともだった試しはない。到底理解しがたいナンセンスな物語を 延々語りはじめる。若い頃に何か悪い薬でもやっていたのだろうか?彼は私の質問にはかまわず先を進める。
「ある時、かれが夜なべで裏帳簿の編纂に取り掛かっていると…」
「堅気じゃないんですかぁーっ(^^;」
「…うっせーなぁ…突っ込み入れ過ぎると喋ってやんねーぞ〜。
さてだ、突然扉を叩く音がする。一瞬幽霊かと思ったが、異界の物に極端な
恐れを抱く彼は、すでに白衣観音経と旧神の印を扉に書き込んでいたのを
思い出し、その考えを否定した。それならば追っ手か?
もしや先日ちょろまかした人間力士化ガスの製造法を取り戻しに来やがったか?
彼は押し入れから最新型アームストロング砲を取出すと、扉に向けたのであった…
…おい、何つまらなさそうにしてるんだ?」
「……いえ、つまらない話ですから……」
「おーい、まだ導入部分だぜ。ここから血沸き肉踊る淫虐興奮なハードボイドドの 世界が繰り広げられるというのに…」
もういいです…、私はため息を吐いた。今日の話は不調のようだ。
実は、彼のシュールな物語は私好みであるのだが、どうも今回は固有名詞を並べ立てるだけで
余り無いようのある物だと思えなかった。こんなに突っ込みがいの無い話だったら
黙っていてくれた方が頭が悪くならなくて済む。
「この後だなぁ、アンガー教の教徒と戦い、巨大ロボットダイコングを操ってだなぁ…。」
「…第一次警戒態勢…対象複数、距離約5百米…はぐれ召喚士と思われます。」
レーダーにおぼろげながら反応があったので警報をかける。私としては条件反射であるが、 話の腰を折られた破壊の大帝はかなり悔しそうな顔をする。
「ちっ…またgp取られちゃうよぉ(;;)、sp減るのヤだから召喚してないのにぃ(;;)」
「………緊急事態です!対象はモンスターリストに該当しません!」
しかし、予期しない出来事ではなかった。聖地で聞いた噂… 徘徊する謎のモンスター群、未だ知られざるダンジョンが存在すると…。
「空軍三体、前衛三体、後衛九体。時空間に異常が見られます。 生体反応は無し。機械系だと思われます!」
「クリスタルパレスの追撃者か?…まぁ、派手にぶっ壊したからなぁ〜」
にやりと笑う彼の横顔から今だ見ぬ敵への闘志を伺う事が出来た。 腐ってもダンジョンハンター、知られざる相手に立ち向かう事が 楽しみなのであろう。敵軍は時空に変異を起しながら急速に接近する。
「ヤツハ...ドコダ...」
「!! サーチだ!こいつら普通じゃないぞ!」
彼の顔色は焦りの色が濃くなった。彼の直感は意外と正しい。 ブルーバイアとキメラ…そしてニッキラビットとサイアンを喚ぶ…が…
「なにぃ!!人造系を操るか?そーか??」
人造系以外の物はウイルスによってバタバタと倒れ、 人造系は怪電波によって敵側に付いてしまう。 それでも前衛は何とか倒したが…相手のコアらしき物が暴走後… 超強力な攻撃を繰り出され一掃されてしまった…。
「ヤツハ...ドコダ...」
「ちぃ…っ撤退だ!」
不気味に呟く敵にあっさりと全滅されてしまった。 仕方なく一時撤退となる…破壊の大帝… 彼のプライドは痛く傷ついたようだった。
「………少なくとも…現在の技術では無いですね。」
一息ついた所で、戦況を報告する。しかし…凄まじいまでの強さだ…
「機械系で耐電の技術はかつて存在しません。しかもあのウイルスとも 成ると全く持って解析不能です。」
「って事は…未来からの使者って訳かな…」
?…彼の急な憶測に私は戸惑った。未来??なぜに急にそんな発想が 出てくるのだろうか?…余りにも安易だと思った。
「………………行くぞ、多分他のダンジョンハンターも奴の噂は 嗅ぎ付けてるだろう…でも…多分俺にしか倒せないはずだ…。」
「…それって、自信過剰って言いません?(^^;」
急にシリアスになった彼に私は当然の如く突っ込んだ。それが私の 使命…しかし、彼は一笑に付した。
「ん〜?見てりゃ分かるぜ☆」
結局、1度は失敗したものの、ロンプハイエによる後衛コアへの攻撃が効いた。
前衛を倒せば暴走するならば、暴走する前に後ろを倒せばいいのだ。
作戦は見事成功し、かなりのダメージを食らいながらも後衛の…問題の
コアを倒す事が出来た。
しかし…巨大なコアが活動を停止し、その扉が開いたときに 私は声を失った…そこにあったのはコアに収まるくらいの脳みそと目玉だった。
「オオ......まざーゆにっとヲ破壊スルトハ...シカシ... ワタシヲ倒スコトハデキマイ...過去ノ人間ヨ...」
「無様なもんだ、時間旅行の為には元の身体は捨てざる得なかったのかな? それとも、未来の連中はみんなそうだっけか?」
不気味な目玉が訴える気味の悪い台詞を大帝は遮る。 だが、私は破壊されたユニット…その目玉以外の機械たちが見る見る 再生している事に肝を潰していた…何と言う再生能力だろうか。 以前に見た、クリスタルパレスでの復旧作業が子供の遊びに感じられた。
大帝は近くの石ころを蹴飛ばす…しかし…目玉には当たらず、すんでの所で 消滅してしまった…
「ワタシノさいきっくえねるぎーニ反応シテイルノダ... 無駄ナ抵抗ハ辞メヨ... ヤツハ...ドコダ...」
「ん?ココさ♪」
背中に隠していた破壊の剣を一閃させる。強力なバリアーに守られている はずの脳みそはいとも簡単に削ぎ落とされてしまった…と、同時に 他のユニットの再生も止まる…。
「ソウカ... キサマガ...」
恨めしそうに目玉が破壊の大帝…いや、破壊の剣を睨み付けた。 地に倒れた目玉に、何故か哀れみを称えながら彼は語り掛ける。
「形は少々変えさせてもらったが…やっぱりコイツをお探しのようだったな… 探す訳も分かるが、まぁ、杞憂だったね。俺が持っている限り問題無いと思うから、 安らかに眠ってくれっ。」
…何が問題無いだ…爆弾を爆発魔に持たせるような物では無いのか? しかし、目玉は安心したかのように見えて…そしてノイズが入ったかのように 空間と同調してゆき…次第に消えていった。
「………破壊の大帝さぁん…やっぱりその剣アブナイですよぉ…(^^;」
戦いの後、余りの出来事で言葉を失ってしまったが、聖地まで帰って 安心すると私もいつものように彼に話し掛けた。 いや、警告だったのかもしれないし、彼自身の秘密を探したいと思った。 当然のことながら、はぐらかすに決まっているだろう… しかし聞かざる得なかった。
「ん〜でもほら、俺が手放すと余計危ないはずだぞ。コイツ捕まえるの 無茶苦茶苦労したし、そのせいで幾つ研究所が飛んだ事やら。」
「研究所飛んだって…何ですか、その剣の元はぁーっ!!」
意外にマトモな返答だったが…しかし少々信じられなかった。 彼は少々懐かしそうな目をしながら、こう呟いた。
「愛と憎しみの結晶かな? ほんとに知りたければ後五千年我慢しな♪」