夜行零番線
「はーい! 乗ります乗ります!」ぷわん…とくぐもった音を立てながら、ローカル線の古い車両が動き出す。間一髪で閉まりかけた扉に滑り込んだ新里響子は揺れるシートに身を沈めて一息ついていた。久々の全力疾走で、すこし息は上がり気味だ。
高校の友人達と安いカラオケ屋があるというのでワザワザ遠征して騒いでいたのだが、ふと気がつくと彼女一人残されていた。みんな彼氏もちなので、お泊りだったりホテルにしけこんだらしい。行きずりのアバンチュールを決め込むほどフシダラでもない彼女は万一の場合はファミレスか漫画喫茶で時間を潰す覚悟で駅に乗り込んだのだった。滑り込めたのはラッキーだと言える。
がたん、がたん、と電車の揺れる心地よい振動が、彼女の眠気を誘っていた。薄目で回りを見渡すと、OL風のお姉さんやら、お水系のおねーさんやら、暇そうな女子大生たちやらが各シートに二人ずつぐらい座っている。隣にも響子と同年代の女の子が座っている。端整な顔立ちで、スタイルもよく、良い所のお嬢さんだと響子は思った。だが、男の姿は一つも無い。
女性車両ってわけじゃないよね、そう思いながら携帯の時刻表示を見つめる。そんなに変な時間ではない。そういえば、先ほども“どこどこ行きの最終”というアナウンスは聞こえなかったから、最終電車ではないのだろう。
…あれ?…
時計を確認した。もう次の駅についても良いころだが、電車のスピードは落ちようとしない。むしろ、ガタンガタンと揺れる速度は速くなりつつある。アナウンスと言えば、次の駅へのアナウンスも無かった気がする。
…変な線に乗っちゃったかな?
響子は少し不安になる。知らない路線を乗った時に誰しも心を過ぎるあの不安感である。向こう側の窓の外を、来る時に見た駅が通り過ぎた。急行か快速か、降りられないとどうしようと響子は少し焦り始めた。ぎゅっと手を握ってみる。と、車内にチャイムが鳴り響いた、車内アナウンスだと思って響子は緊張した。
「お待たせしました、本線は特別夜行列車『百合畑』。これから夜間ノンストップ運行を開始致します」
マジか!? ノンストップ運行と言う所だけ聞き取った響子はショックを受ける。
「なお、本線は禁禁欲と成っております。ご着衣の方は随時、衣服をお脱ぎ下さい」
なっ? と思う間もなく前に座っていた女性二人がいきなり抱き合った。ん…ん…というくぐもった声が車内のアチラこちらから聞こえ始めた。
隣に座っていた少女が、身を摺り寄せて来た。ジワジワと少しずつ、シートの端に追い詰められる響子。こう言うことは嫌いじゃないが、心の準備が出来ていない。
「初めてなの?」
少女が、瞳を輝かせながら小首を傾げた。そんな風に迫られると…と響子のガードは緩くなった。シートに置いた響子の手に、彼女はそっと自分の指を絡めてきた。
「えーっと…どーなってるの?」
響子の少し引きつった顔にそそられたのか、彼女は響子の頬のほんの数センチの所まで顔を寄せてきた。甘い匂いが漂ってくる。女子高では頻繁に嗅ぐ匂いであるが、こう言う状況では別の意味を持ってくる。響子は別にレズと言うわけでもないが、気持いいことには抵抗が無い。
「コレはね、月に一度のイベント車両なの。お金持ちの道楽なんだけどね」
そういえば、回りのお姉さんたちも何気なく良い服や時計を身につけている。とは言っても回りは既に絡み始めているし、折角のブランド物も皺くちゃになっている。いや、高価な服を使い捨てられるほどの金持ちなのだろう。普通のOLだったら、絶対に畳んでおくはずだ。
「お名前、聞かせてくださるかしら?」
「あ…えーっと…新里響子…」
「私は黒葉さなえ。サナエって呼んで良いわよ」
ちゅっ、一瞬の隙を突いてサナエは響子の唇を奪った。響子は目を白黒させる。
「あ、大丈夫なんだ。良かった。そうじゃないと調教しちゃうところだったんだから」
微笑みながら怖い事を言うサナエ。
「ねぇ…もしかして男用とかもあるの?」
「そうよ。男用は薔薇なんとかって言ったけど。他にも乱交用やSM用なら…あ、SM用は鞭の先が定まらないから、ドキドキ感が違うんだって」
ふーん…という顔を響子はして見せるが、乱交用ってお座敷列車なのかな、SM用ってつり革にずらりと奴隷さんが並んでたりするのかな、などと勝手な妄想が広がっていた。
「あら? 何コレ?」
「きゃっ!」
サナエは響子の脚の間にするりと白い指を忍び込ませていた。ふくよかな部分は少し湿っている。
がたん。急に車両が揺れて、響子はサナエに抱きつく形になった。もうこうなると逃げようがない。車両が揺られる振動だけで、響子は変な気持になっていく。
「いいでしょ、列車の揺れって」
うん。響子は制服を脱がされながら頷いていた。確かにコレはイイ。アダルトビデオで電車の痴漢モノがある理由が少しわかった気がする。響子は座席に寝転ぶ形でサナエに身を任せた。サナエは響子の脚をいとおしそうに撫でている。
「貴女、可愛いいよ」
靴を脱がせながら、サナエは響子の足首を持ち上げる。電車の天井を見つめる形になって、響子は初めてのアングルに少し戸惑い気味だ。
電車のシートに横たえられると、眠気が急に激しくなった。だが、サナエは響子のスカートを捲くる。外気が篭った熱気を取りさらって、響子の目を覚まさせる。
「美味しそうな匂い」
ん…と響子は声を上げた。啄ばむように、サナエは彼女の中心に顔をうずめていた。
上手い、と響子は素直に思った。女だから女の喜びを知っている、なんてレベルではない。自分も知らない快の掘り出し方をサナエは知っている。要するに、女の喜ばせ方を良く知った愛撫なのだ。
パンティをするりと脱がされる。
「貴女の匂いよ」
意地悪なサナエは、それを響子の顔に近づける。どれだけ濡れているか自分で判っているので、響子は恥ずかしくなった。だが、自分の匂いを嗅ぐ事で響子の興奮はより高まった。定期的なリズムを刻む列車の揺れが、彼女の頭も揺らしつづけていた。
「いい顔ね。良いわ、凄く可愛い」
サナエは響子の耳たぶに唇をあてて囁いた。言葉は響子の頭の中にしっかりと刷り込まれる。照れは羞恥に少し似て、響子のココロを気持ちよくする。ココロが気持良いと、肉体も気持よくなりやすい。
「私も気持ちよくして」
サナエの中心が響子の顔に近づいてきた。パンティは履いたままだが、湿り気で透けている。ぺちゃと少し音がして、響子はソコを口に含む。パンティの材質はシルクだった。柔らかな肌触りの、柔らかな秘丘。汚いとは思わなかった。むしろ高貴なものに感じられた。
「んっ…あん……うんっ…」
サナエの腹は響子の胸を押しつぶしていた。ただ潰すだけでなく、自分の腰の動きとあわせ、彼女の乳首をくりくりと愛撫している。本当に器用な娘だ。響子の発達途中の花びらは満開で、サナエの良く伸びる舌を受け入れていた。
じゅる、じゅる、それはまさにピストン運動だった。深くは入らないので、響子の処女は守られていたが、それでも届く範囲の襞々へと彼女の攻撃は続いている。
いつのまにかサナエのパンティを響子は脱がしていた。もっとサナエの事を知りたい。響子はむっとする彼女の匂いにも構わず、下の口とディープなキスを続けていた。
もっとも、彼女もいつのまにか脱がされていた。サナエのものとはランクは落ちるブラも床に転げ落ちていた。プルプルとプリンのように胸が揺れる。
「見ない娘ね。新顔さん?」
二人の女性が近づいてきた。全裸のまま、服は脇に引っ掛けて恋人のように寄り添っている。響子はちらりと彼女らを見ただけだが、堂々としていて彼女らも一般庶民ではないことが伺えた。
「可愛いでしょ。久々の闖入者よ」
サナエの答えを聴き終わらず、二人は響子の身体を弄り始める。乳房への刺激に餓えていた響子はむんずと掴まれだけで声を荒げた。
「良かったわね、女の子で。この前は男の子で、散々犯っちゃった後に窓から捨てたんだよね」
「ほんと、一度乗ったが最後、2度とシャバには出られない便だってあるのに」
「幾ら揉み消しが利くからって、アレはやりすぎよね」
一般ピープルにはほど遠い、権力者達の話題が耳を掠めるが、響子の心には届かない。今はただ彼女らの玩具にされていると言う事実だけで充分満足だった。
気だるい快感が響子を包んでいた。イクとかイカナイとかではなく、だらだらと続く快感の海に漂っている感じだった。列車と言う環境がそうさせているのか、サナエの性癖がそうなのか判らない。だが、新たな二人は違っていた。
「ああ…そこは…」
響子の尻に指が入っていた。両方の乳房は後ろから抱きかかえられ、人差し指で乳首が断続的に弾かれていた。 響子は唇を噛んだ。耳元でキーンっと音がした。
脚を大きく広げられた。太ももと言わず足首と言わず、キスの嵐が舞い降りた。二人三人、いつのまにか響子の周りは人だかりになっていた。
弄ばれる。
響子の体は宙に浮かされた。いつのまにか車両は女達で溢れ、満員電車のようだった。違う所は彼女らが全裸である事。磨きぬかれた身体と身体が、勿体無いほど並んでいる。
「ひっ!?」
幾多の腕が、指先が響子の体中を舐めまわす。彼女の背中は現に三人の女から舐られていた。痴漢というには余りにも酷い。周りの全員が恥女だという現実。
髪の毛が顔にべっとりと張り付いた。汗や涙や唾液が混ざって、響子の体はべとべとだった。脚から下はなお酷い。誰かがローションをぶちまけたのかもしれない。足元が滑りそうなぐらいだ。
誰が何をしているなんて、とてもじゃないが響子には把握できない。うなじには常に誰かが息を吹きかけて、両腕はかってに、誰かの胸をもまされていた。肉の壁に埋め込まれたかのように、息苦しい。
「あ…死んじゃう…」
やっとの事で響子はうめいた。ぬくもりというには激しすぎた。絡み合う女達の熱気が車両に渦巻いていた。まるで命の灯火を無理矢理燃やしているかのようだ。そうなのかもしれない。金持ちで暇な連中はSEXぐらいしか楽しみが無いのかもしれない。
オージーの只中で もう誰も響子のことは気にしていない。自分らの快楽を貪るのに忙しかったからだ。肢体が様々に絡まって、2度と抜け出られないのではないかと響子は考えた。
抜けられないなら、それでもいい。響子はそう思った瞬間、気を失った。
気がつくと、響子は終点の駅のベンチに横になっていた。日はまだ昇りきってないが、小さな駅なので人の気配は少ない。
「きゃっ! 何コレ!!」
服はかけられていたものの、彼女は裸だった。不思議そうに、そして少し好色そうに覗き込んでいた駅員に蹴りを食らわせると、それらを引っつかんで女子トイレに駆け込んだ。
アレは夢だったのだろうか? もちろんそんなわけは無い。彼女のカバンにはしっかり、サナエの絹の下着が残されていた。今では響子の勝負下着である。