ちか・夏の扉 −Another Version−





 闇より深き黄泉路より、更に暗き闇に閉ざされた千影の部屋。少しでも気を抜くと陰に潜む存在より魂を奪われる。千影のみが安らぎを感じるその部屋は、異常なまでの瘴気の濃さに魔人ですら吐き気と悪寒が止まらなくなると言う。そんな場所に訪れる者は稀である。よほど切羽詰った状態にならない限りは。

「千影ちゃぁ〜〜〜ん!」

 まるでジャイアンに虐められたのび太のように衛が部屋に飛び込んできた。弄られキャラの彼女が千影を頼りにすることは少なくない。その度に余計に酷い目に遭っているのだが、スポーツで鍛えられた彼女の脳はそんな些細なことなど覚えていない。

「千影………うわ」

 その当の千影は目下、うさぎのぬいぐるみの中に埋もれていた。小さいの大きいの、いつの間にそれだけ集めたのかと言う程の兎たちの中で、千影は親指をしゃぶり、恍惚の表情を浮かべていた。そして気だるげに衛の方を見やると鷹揚に声をかける。

「いやぁ………衛くん。どうしたんだい?」

「千影ちゃんこそどうしたのさ?」

 固まったままの表情で衛はやっとのことで声を出した。千影は自虐的な笑いを浮かべながら、蕩けた瞳で遠くを見やった。

「悲しいことがあってね………せめてもの慰めに幼いころを思い出していたのだよ。衛くんも機会があれば試してみるといいだろう。ふふふ、オムツの感触が心地好いよ。癖になってしまいそうだ」

 衛は一瞬ひるむが、一般常識ならばともかく、千影の奇行としては可愛い方である。気を取り直して一気にまくし立てた。

「あのね、ボク、微妙なオトコノコ扱いされるのはもういやなんだよ!
 咲耶ちゃんからはイヤらしいことされそうになるし、花穂ちゃんには………んっと、上手くいえないけど、ついてるならついてる、ついてないならついてないではっきりしたいんだ!
 ボクは妹をやめる! ボクは妹を超越する!」

 千影は不思議そうな表情を浮かべる。

「言っている意味がよく判らないのだが………そもそも君の性は」

「千影ちゃんまでそんな事言うの!?」

 衛の剣幕に少し押されたのか、千影は少し苦い顔をする。そして少し考えた後に少し真面目な声で彼女に問いかけた。

「衛くんにこの謎が解けたなら、手を貸してあげよう。 
 甘露を湛えた密やかな泉は………いまやおぞましくも忌わしい雑草に覆われている………
 この泉を生まれたままの姿に戻してあげたいのだが………どうすればいいだろう?」

「そんなの、抜いちゃえばいいじゃん」

 衛は即答した。その瞬間、千影の眸が急に熱っぽい光を帯びる。鈴凛のメカならレーザーを発する前触れのようだった。衛は思わず身を伏せたが、千影は浸りきっていた兎の海からがばりと立ち上がる。

「そっ、その手があったか………そうだよ、その通りだ! なんてシンプルな答えだ! いや、それどころじゃない。そんな戯れ(プレイ)があっただなんて!」

 見る見る鼻息の荒くなる千影であるが、衛はここは黙って耐え忍ぶ以外に無い。

「今でこそ『菅井家と家族石』ぐらいでしか言及されない清水アキラ………彼のネタにね、山本リンダの名曲『困っちゃうな』の替え歌があるのだよ………その中にも歌われている………

 ♪剃っちゃえ 剃っちゃえ みいんな剃っちゃえ

 まさに、その通りだ!」

「お笑い好きなんだね」

 話が見えなくなったので、衛は曖昧に答えた。千影は兎の群れに足を取られながら、外出の準備を始める。

「ああ、もう! 想像しただけで、ちか、何かが出ちゃう! こうしては居られない。善は急げだ! 衛くんありがとう。お礼にこの薬を上げよう。君の望みを叶えてくれることだろう」

 千影はあまり調べもせずに、手元の薬瓶を差し出した。この薬瓶がいずれ、あの不幸な事件を巻き起こすとは誰しも、あの世に恐ろしい戦いになるとは、誰しも思わなかったのだ。



「チェッキーン! 千影ちゃん! 大変デス! 宇宙の終焉が迫ってイマス!」

 四葉が扉を開いたときには、千影は一つの髭剃りを摘み上げ、目を細めていた。なんだかわからないシチュエーションで、さすがの四葉も声を掛けかねる。

「四葉くん………最近の髭剃りは進んでいてね………T字剃刀といえど、ほら、このボタンを押すと、電気の力により刃に振動が送られるのだよ。………この振動により毛根を直立させ、根元から剃りこむと言う触れ込みなのだが………こんな振動を直接敏感なところに与えてしまったらどうなってしまうだろうか? まずは自分で試してみようと思ったのだが………想像しただけで………
 ああ、ちか、骨をも溶かす消化液出ちゃうぅ!」

「ドコからナニを出すつもりデスカ? いや、それどころじゃアリマセン。衛ちゃんがワンピースを着てシャナリシャナリと歩いてイマス! 花穂ちゃんなんか、“こんなの衛ちゃんじゃない!”と狂気の発作に襲われて、部屋の隅でガタガタ震えてマス! 緊急会議の進行形なので、千影ちゃんの意見も聞かせてクダサイ!」

 千影は急に真剣な表情を浮かべ、四葉に向き直った。

「四葉くん………嘘は良くないよ………それは鞠絵くんがミカエルを絞め殺すぐらいにありえないことだ………テレビの見すぎじゃないのかい?」

「アニメじゃアリマセン! ホントのことデス!」

 四葉は千影にあらましを語り始める。ここで四葉の言葉をそのまま並べても良いのだが、類まれなる読解力が必要となるため、時間を遡って事の起こりを見てみたい。



「あのね、花穂、竜崎先輩のおっぱいからビューって緑の母乳が吹き出る夢見ちゃった」

「花穂ちゃん、チアの練習もいいですが、偶にはリラックスしたほうがいいですよ」

 久々に療養所から戻ってきた鞠絵は、鈴凛が素で突っ込みそうに成るのを抑えて、優しく花穂を諭していた。お茶の時間まで間があるが、食堂で彼女らは取りとめも無いお喋りに花を咲かせている。ちなみに今日のティータイムは本格英吉利風の予定。白雪は普段の創作意欲を引っ込めてダージリンをいかに上手く入れるか、スコーンをいかに上手く焼くか、基本の技を完璧に決めるために台所で精神統一を始めている。

 白雪曰く、「基本を積み重ねて積み重ねて、目を瞑っても出来るようになって初めて、応用が利いてくるですの」だそうだ。ちなみに彼女は目隠しをして牛をさばく、という芸当を披露したことが有る。対抗した春歌がさばいて骨だけになった鯛を泳がそうとしたが、亞里亞がドン引きして大変な事態が生じたことは彼女達の青春の一ページである。

「スコーンとダージリン♪ スコーンとダージリン♪ ミ・ル・ク・ティー デス!」

 そんな白雪の職人気質を知ってか知らずか、四葉は久々の英国風に、いまから期待に床をユダレで汚している。テンションがあがりすぎて椅子に座っていられない、子犬のように床をごろごろと転がって、喜びを全身で表現している。

「あ、みんなここに居たんだぁ」

 部屋に入ってきたのは見知らぬ少女。黒髪のショートヘアは髪留めで両側を止め、すらりと青いワンピース、華奢な肢体は陶器のように白い。少しおっとりした感じの佇まいであるが、顔色が冴えないのは体調が優れないからだろうか? メガネと三つ編み以外のキャラが被っていそうな鞠絵は、すこし眉を顰めてみる。

「チェキっ? 誰かのお友達さんデスカ? 四葉、四葉ってイイマス!」」

 新しいチェキ対象に、スコーンのこともしばし忘れて四葉が立ち上がる。口から滴る粘液が愛嬌の有る表情を少しばかり台無しにしていたが。だが、見知らぬ少女は怪訝そうに首を傾げる。

「ええっ? 四葉ちゃん? 私のこと忘れちゃったの?」

 確かにどこかで見た、と鈴凛は思った。だが、それを思い出すよりも、ガクガクと微動しだした花穂のほうが気になる。口はあんぐりと空け、目は見開いている。最近の最大のドジである「ええん、花穂、ドジっ娘だから鏡の世界に閉じ込められちゃったぁ(千影と鈴凛の共同開発によるライダーシステムにより救出)」の時のショックを上回って見える。

 鞠絵は鞠絵で、警戒の姿勢を崩さない。慇懃ながらも少し威圧的に問いかける。

「えっと、すいません。どちら様でしょうか?」

「え? 鞠絵ちゃんまでそんなことを言うの!? 私、衛だよ?」

 その言葉に時が止まった。

 花穂は大きく息を吸い込み、目を見開いた。鞠絵のめがねはずり落ちる寸前で落下が止まる。四葉の流す唾液さえ、スローモーションに成ったかのようだった。

「いやいやいや、アレは粘度が高いから………高いから………」

 鈴凛は別のことに意識を向けた。静寂を破ったのは花穂の悲鳴だった。

「嫌っ……イヤァあぁ………いやぁあぁあぁ………」

「花穂ちゃん? どうしたの、私のこと嫌い? 私せっかく男の子になったんだよ?」

 再び時が凍る。花穂は恐怖の表情を浮かべたまま静止し、四葉は余りのショックに、あごが外れんばかりである。鞠絵などは半分魂が抜け出しかけていた。

「逝くなぁ!」

「はっ、ビックリするほどユートピア!?」

「失礼シマス!」

「キャッ!?」

 四葉の動作は敏捷だった。鞠絵が作った一瞬の隙を突いて、衛と言い張るその少女のスカートをめくったのだ。

「まもチャマ、ごリッパァ!?」

 四葉は思わず尻餅をつき、立ち上がることすら忘れてずり下がる。そのリアクションだけで、3人はすべてを悟った。

「もうっ! 四葉ちゃんのえっちぃ!」

 昂揚した頬を膨らませる衛。普段の彼女なら絶対にやらないリアクションである。

「あああ………いやぁ………あああ? いあぁ、いあああ、ああはははは………」

「そんな! 私の事笑うなんて………花穂ちゃん酷い!」

 背を向けて駆け出す衛であるが、花穂は笑い続けていた。鈴凛と鞠絵が、花穂を部屋に連れて行ってもまだ笑い続けていた。ちなみに、ここまでの四葉の説明では、全般にわたって「チェキ」という言葉が68回も出現したことを特に報告しておこう。

「………興味深い話だね。しかし、起こり得ないことが起きたと言うことは、それなりの原因があるというものだよ。例えば、私が調合した薬物を口にしたと………」

「コチラ四葉、どうやら千影ちゃんのシワザらしいデス!」

 四葉の通報から一瞬後、最後まで喋る前に逃亡しようとした千影は妹達により押さえつけられた。



「属性転換薬?」

 席に着くのは9名。当事者の衛と自分の部屋に引きこもった花穂、お茶の準備をしている白雪は除かれる。もちろん、縄に縛られて床に転がっている千影を着席としてカウントするかどうかは微妙な話ではあるが。

「私としてましては、千影ちゃんがお持ちの電動剃刀に興味をそそられますわ…ぽぽぽ」

「電動(3文字削除)!?」

「とりあえず、脱線しないでください」

 控えめな春歌とストレートすぎて別の方向に突っ走っている咲耶。突っ込みに余念の無い鈴凛。妙な熱気の支配する卓ではあるが、白雪は慎ましくもティータイムの給仕に徹している。

「どんな深刻な悩みでも、美味しいお茶とクッキーなら、きぃっと解決してくれますの」

 白雪の言葉には説得力があった。実際にはクッキーではなくスコーンであったわけだが、四葉は貪るように実家の味を堪能している。何のための会議であるか既に忘れた風である。

「つまり、“スポーツボクっ娘”が“女装美少年”に変わっちゃったって事? もう、人権無視もいい加減にしてよね」

「ふふふ、あまり褒めると私は付け上がるぞ」

 なぜか胸を張る千影。突っ込んだ鈴凛はあきれる以外に無かった。ちなみに雛子がボソリと「あんな嘘、信じないでよ」と呟いたが、皆聴かなかったことにした。

「でも、戻すのは簡単でしょ? ほら(11文字削除)」

「残念ながら、そんなエロ同人誌のような設定は準備していないのだが………」

 咲耶が過激なことを言うが、千影は頭を振って否定する。だが、彼女は強情だ。軽くいなされた程度では納得しない。

「えー嘘! 絶対、(57文字削除)したら一発よ!」

「すまない、意味がわからない」

 言うに事欠いて、エロ同人誌でも余程でないと見受けられないマニアックなプレイを彼女は口走った。鈴凛は頭を抱えて苦い顔をする。

「あの、すいません。 雛子ちゃんも亞里亞ちゃんも居るんだけど」

「クシシ、ヒナね、前に咲耶ちゃんからやり方教えてもらったよ」

「亞里亞もじいやから教えてもらいました」

「お前ら、なんばしよっと!?」

「鈴凛ちゃん? 今の言葉はもしかして、咲耶ちゃんを非難しましたか?」

 ゆらり、と可憐が揺れていた。いつの間にか、鈴凛の耳元近くでそう囁いている。鈴凛の顔から表情が消えた。可憐の視線はいわば目に見えぬ凶器だ。彼女自身は気が付かずとも、普段は隠れている心の深淵の澱みがストレートに沸き浮かぶ。背中に突き刺さる悪意は絶対的な生命活動の停止を望んでいる………少なくとも鈴凛はいやな汗と共にそう感じ取った。

「咲耶ちゃん、もし可憐ちゃんがオトコノコになってしまったら、どうしますか?」

「可憐ちゃんにはそうねぇ………(単行本一冊分削除)」

 鞠絵がとっさに助け舟を出した。咲耶の語りが始まった瞬間、可憐は別の深淵から湧き出てきた本能に支配される。そしてそのまま昇天した魂が天国に突っ込んだかのように笑みを浮かべたまま通常の活動を停止した。鈴凛はとりあえず胸を撫で下ろす。

「と、長くなりそうな方々は置いておいて、千影ちゃん、まだ他に隠していませんか?」

「フフフ、鞠絵くんはすべてお見通しだね。………先ほど四葉くんが看破したとおり、衛くんが自分のことを「私」などと呼称することは宇宙の法則を真っ向から否定する言葉となる。………星辰の運行を阻害し、生き物の運命を狂わせ、宇宙を崩壊へと導く禁句。決して許される行為ではないね」

「他人の属性を勝手に変えるのは宇宙の法則に反さないの?」

「つまり、花穂ちゃんの最悪のドジに匹敵するということでしょうか」

 宇宙の法則云々のところから千影の側に向き直った春歌が尋ねる。鈴凛の突っ込みは見事にスルーされてしまうが、千影は神妙に頷いた。

「その通りだね………」

「うわ、マジなの!?」

 千影の言葉が仰々しいのはいつもの事だ。鈴凛は話半分、いや四分の一ほどで聞いていたのだが、花穂のドジ程度となると話が変わってくる。最悪の部類と成るとなお更だ。以前など冗談でなく日本を印度にしてしまうところだった。

「後学のために聞いておきたいのですが、例えば衛ちゃんがイチゴのパンティなどを穿いた場合はどういうことになるのでしょう?」

 鞠絵の質問に千影の顔色が変わる。

「危険だね………非常に危険だ………今の危険度がボヘミアン・ラプソディーだとしたら、ステアウェイ・トゥ・ヘブンすら上回る」

「スタンドで危険度を測らないでください」

「わかりやすくて良いよね」

「ほら、ヒナたんが肯定した! ヒナたんが肯定すると言う事は世界のすべてが是認したということだ! 還れ還れ! お前なんかヒナたんが祝福するこの宇宙の外に還れ!冥王星と共に太陽系から居なくなってしまえ!」

「………そこまで言うわけ? マニアぶって雑誌連載時の名前なんか出しても偉くなんか無いよ?」

 いつの間にか縄を抜けて着席しているだけでなく、目の色を変えて言いたい放題の千影にさすがの鈴凛も肝に据えかねたか、不機嫌そうに席を立とうとする。だが、鞠絵はすばやく話をそらす。

「つまり、今はもしかして、「私」と呼称している上に、イチゴのパンティを穿いている可能性もある、ということですよね」

「または、穿く可能性も………まずい! これ以上のことが起きてしまえば、永劫回帰の因果律さえ回復不能なほど破壊してしまう!」

「難しく言えばいいってもんじゃない」

 鈴凛は少し苛立たしげに言い放ったが、しぶしぶながらも席に着きなおした。

「何、難しい話じゃないさ。もう一度この薬を飲めば反転しなおして元に戻…」

「うぇーっ、カレー粉の味デス」

「飲みやがったぁーーーーーーーー!?」

 唐突にアクションを起こしたのは四葉だった。千影が懐から取り出した薬瓶をとっさに引っ手繰って一気に飲み干した。一同の視線が彼女に集まるが、四葉は大粒の涙を浮かべて弁明をする。

「だって! これを飲めば、四葉の貧乳属性が巨乳属性に成るかもしれないじゃないデスカ! よっ、四葉だって! 四葉だって過激にバストアップしたいデス! 雛子ちゃんや亞里亞ちゃんに抜かされたくアリマセン!」

 彼女はいつに無く悲痛であった。潤んだ瞳からは涙が行く筋も零れ落ちる。じきに堪えきれなくなって、しゃくり上げだした。千影も彼女の心がわかるのだろう。胸に手を当てて項垂れている。

「気にしてるんだ………ってか、性別変わるんですが。あと、千影ちゃんも瓶に手をやらない」

「フフフ………危うく無明の闇に押し流されるところだったよ………男性で胸があったら、それこそエロ同人誌の世界だ………
 おや? 四葉くんは?」

 泣きじゃくっていた四葉の姿は無かった。いや、姿だけでなく、気配すら感じない。千影はきょろきょろと辺りを見回したが、いつに無く陰い貌となる。

「いつもドジでおバカで騒がしい探偵もどき少女を反転すると、どうなるだろうか?」

 難しい顔は鈴凛に向いていた。千影に感知できないということは余程のことであろう。彼女も眉をひそめて返答する。

「冷徹で冷酷な快楽殺人者? とか?」

「正解らしい、ですわ!」

 がきぃん。鈍い響きが部屋の空気を変えた。その音が一つでないことに気がつけるのは音感の鋭い可憐と亞里亞ぐらいであったか。一瞬で七撃もの攻防が行われていた。

 両者とも、いつの間に獲物を取り出したのか、四葉はナイフを、春歌は小太刀を構えていた。普段の四葉ならカッコをつけて逆手に持つだろうが、今の四葉は半身で順手。ナイフは目の高さにあり、その目は冷静に春歌の動きを伺っている。

 春歌は水平に構えた小太刀をこれもまた目の高さに捧げ、左の指先で小太刀の峰を支えている。舞を舞うかのように腰を落としてはいるものの、彼女の眼光は舞踊のものではなく、武道の際の鋭さだ。

「銃刀法って知ってる?」

 鈴凛の突っ込みは空しくも無視された。暗い顔をしたままの四葉は身動きをしない。鋭い殺気を発しながら、そして如何なるパタンの攻撃にも移りえるオーラを纏っている。それが急に身を翻すと一番近くに居た咲耶へと襲い掛かった。彼女は可憐を題材にした即興のエロに余念無く、四葉への反応に一瞬遅れた。

 が、受けたのは春歌だ。目にも留まらぬ早業で回り込んでいた。

「ここは私にお任せを! 一滴残らず搾り取ってご覧に入れますわ!」

「何を!?」

 咲耶の台詞に洗脳されたらしい春歌であるが、腕前は狂っていない。空気すら冷たく切り刻まんとする狂刃の連撃を、ことごとく打ち払っている。だが、攻めようにも四葉の体は影のように虚ろで、稲光の如き一閃すらその身に取り込んでしまうかのようだった。

「ここは彼女に任せて、私たちは衛ちゃんを探しましょう。
 春歌ちゃん、四葉ちゃんを台所に誘導してください。そうすれば勝てます」

「判りましたわ、コンニャクを使うのですね!」

「何に!?」

 鞠絵に急かされるまま、鈴凛と千影は廊下に飛び出した。咲耶は何事も無かったように即興の官能叙事詩を可憐に捧げ、可憐はうっとりとした表情でそれを享受していた。雛子と亞里亞はお茶のツマミにそれに耳を傾けていたようだったが、四葉と春歌の攻防の中、外に引っ張りだす余裕は無かった。

「余談ですが、ラバーの女王様スタイルなんかは?」

「それは試してみないと判らないね」

 なるほど、と鞠絵は納得する。そして少し考えた後、意を決したか、顔を上げる。

「一番怪しいのは、今この場に居ない花穂ちゃんだと思います。彼女の部屋に行ってみましょう」

「私は薬を用意して来よう。………ふふふ、逃げたりしないさ。信用してくれ。ヒナたんが居る限り私は逃げも隠れもしない。むしろ、彼女に折檻してもらいたくてうずうずしている所だからね」

 鼻腔をヒクヒクしながら、千影は自分の部屋に戻っていった。なんとも言えない後味の悪さを鈴凛は感じる。それでも、花穂の部屋へと足を急がせる。

「うわわああああん! 花穂のせいだぁ! 花穂、ドジっ子だから衛ちゃんをオトコノコにしちゃったぁ!」

 彼女の部屋は、荒れに荒れていた。荒れるといっても、本や調度物が床に散らばっている、というレベルではない。棚は捩れ、窓は歪み、帰り道を失った名状しがたき生き物が壁を伝ってうごめいている。

「何この魔空空間」

「花穂ちゃんのことですから、またドジっちゃったのでしょう」

 事も無げに鞠絵はつぶやく。その言葉は「まだこの程度で済んでいる」という安堵の響きがあった。鈴凛は本当は「ドジで衛が男になるわけが無い」という突っ込みをしたかったのだが、目の前に突きつけられた世界に比べれば、確かに大したことが無いような気がする。

「切らなくちゃ、花穂、責任とって、衛ちゃんから邪魔なもの、切らなくちゃ」

「うわ、瞳孔の開き具合が可憐ちゃん並み! ってヤバイ!!」

 チョキチョキとハサミを弄ぶ花穂。その刃先は何かの気がまとわり付いたかのように背景がゆがむ。部屋の中に居た奇怪な生き物はそれに気が付くと、吸い込まれるように刃から垣間見える異空間へと吸い込まれる。

「わあん、花穂、ドジっ子だから、空間開いちゃった!」

 花穂の切り裂いた空間に、禍々しい爪らしき物体が生える。それは裂け目を更にこじ開けようと力を込めているかのように薄気味悪く蠕動する。だが、唐突に破裂する閃光に驚いたようにそれは元の世界に還っていく。

「こんな事もあろうかと、対千影ちゃん兵装を持ってて助かった」

「いつものことですけどね。仕方ありませんが………花穂ちゃん? ちょっとコチラを」

「ふへ?」

 鞠絵は体を前後に揺する。花穂の目は自然と、揺れる鞠絵の豊満な胸元に釘付けになった。

「はーい、花穂ちゃんは眠くなーる、眠くなーる」

 鞠絵はそう言いながら左右に体を動かす。振り子のように、そしてマシュマロのように、やわらかく揺れ動くそれと全く同じ動きを花穂の瞳は追いかける。単調な刺激に集中した彼女の意識は、たやすく暗示に引っかかる。いや、素直な彼女は鞠絵の言うがままにそのまま瞳を閉じて眠り込んでしまった。

「花穂ちゃんは暫くはこれで大丈夫でしょう………あら、鈴凛ちゃん?」

「鞠絵ちゃんがそんなことするなんて………」

 鈴凛はなんともいえない悲しげな表情を浮かべている。

「何を言っているのですか、種も仕掛けも魔術でもありませんよ。鈴凛ちゃんだって、やろうと思えば出来ますって」

「で………出来るかな。そうだよね、千影ちゃんじゃ無理かもしれないけど」

「呼んだかい?」

「うわ!」

 部屋から出てきたところを千影と鉢合わせた。鞠絵は自然に言葉を紡いで鈴凛のフォローを行う。

「衛ちゃんはここではありませんでしたが………ずいぶんごゆっくりでしたね」

「ついでだったからオムツも換えていたのさ………やはり奇麗なオムツだと気持ちもすっきりする………この喜びは他の何にも換えられやしないね………フフフ、なんだいその顔は………まるで下着が濡れそぼっているみたいじゃないか………君もオムツを試してみたらどうだい?」

 ありえないほど爽やかな笑顔の千影に、鈴凛は内心ドン引きしていた。そして何度も考えては感情的に否定する言葉が浮かぶ、自分も彼女と同じ血が流れているのだろうか。

「あら? 雛子ちゃんに亞里亞ちゃん」

「うぉぉぉおおんっ! ヒナたんだ! ヒナたんだ! ヒナたんが私に遭いに来てくれた!!」

 リビングから出てきた雛子はちょっと、幼女らしからぬ嫌悪の表情を浮かべるが「仕方ないよ」と、亞里亞が視線を送っていた。

「あのね、ヒナ、チョウキョウモノは好きじゃないから、こっちに出てきちゃった」

「亞里亞もー」

「ああ、この子達はまだまともだったか」

 鈴凛は胸を撫で下ろした。曲者ぞろいの姉妹の中で、年少者達だけでもまっとうな道を歩いて欲しいかった。まだ無垢なる素直な芽は摘まれては居なさそうだ。

「やっぱり、ギャクサツモノかザンギャクモノだよね!」

「亞里亞、血しぶき大好きです」

 膝をつき、床に両手をつけて、うな垂れる鈴凛。少女の口から「調教物」という言葉が出る時点でまともであろうはずがない。自分の甘さと取り返しの付かない状況に、彼女はただ悔し涙を湛えるだけであった。

「鈴凛ちゃん、絶望は愚か者の結論ですよ」

 鞠絵は優しく声をかける。そういいながらも、千影の裾を握り、雛子に不用意に近づかないように気を配っている。そんな中、亞里亞は少し落ち着かないようだ。

「ありり、亞里亞ちゃんどうしたの? おしっこ?」

「違うの………でも………むずむずするの………」

 涙を浮かべながら、亞里亞はつぶやいた。

「ああ、その台詞と表情ぅ! 良いよイイよぉほら! ヒナたんも言ってみようよぉ!」

「お前キモイってば」

「ぱきゅっ」

 振り向きざまの近距離からの射撃は見事に千影の頭を破裂させる。無論、千影以外なら洒落にならないが、そこら辺は皆、十二分にわきまえている。鈴凛も、ここでは銃刀法が云々などという無粋な言葉は吐かなかった。

「ああ………血………」

 亞里亞の口元が少し緩む。まぶしいほど赤い鮮血が、床一面に広がった。その見事さに不快感を忘れたのだろう。それでも、彼女のスカートは若干不自然に揺れている。

「待って、誰か居る!?」

 鈴凛が亞里亞のスカートに手を伸ばし、ぐっと引っ張り出すと、そこには何ということであろう。じいやさんが衛に魔の手を伸ばしているではないか。

「はぁはぁ、おねえさんが優しく教えてあげますから、はぁはぁ」

「ショタなんだ………ってなんで亞里亞ちゃんのスカートの中に」

「乙女の秘密なのー」

 あまり言いたくなさそうな口調ではあるが、亞里亞は答える。衛のほうはといえば、特に抵抗することもなく、まるで眠っているかのようである。だが、その吐息は荒い。

「ふふふ、亞里亞様の芳香を胸いっぱいに吸い込んでいるのですよ。蕩けてしまうに決まっています」

「ただの酸欠じゃないの?」

「いや、絶対にヒナたんの匂いのほうが上だね!」

 鈴凛の突込みを無視し、復活した千影がなぜか胸を張って断言する。そして、挑発的な態度を取った。

「ふふふ、物は試しだ。今からここで嗅ぎ比べで雌雄を決するのはどうだ?」

 そういいながら、雛子のほうへ擦り寄っていく。

「我慢しなくて良いんですよ」

 鞠絵は鼻に掛かった声で、鈴凛の耳朶ぎりぎりまで唇を寄せてささやいた。甘い吐息が頬に吹きかかる。その感触に、鈴凛は一時、理性が飛んだ。伸びきったゴムのように悲鳴を上げていた何かが彼女の中で切れる。その刹那、行為は既に終わっていた。

「血しぶき、なの」

 亞里亞は満足そうに微笑んでいた。今回の罰としてこの惨状を掃除することになったじやさんであるが、本職の彼女ですら清掃が完了するまでに3日を要した。そんな鮮血に彩られた世界に佇むのは鈴凛の写し身、メカ鈴凛。その両の手は戦闘用のドリル仕様だ。

 鈴凛の最新の発明、擬似スタンド能力的ガーディアンシステム。感情の高まりをトリガーにスタンバイしているメカ鈴凛を亜空間転送し、直ちに攻撃を開始する。今回のプログラムでは、「1立方ミリメートル以上の断片は許可しない」という厳しいものであった。

「必殺技を使うときには、一言声をかけるのが礼儀じゃないかな?」

 それでも千影自身は3秒を待たず再生を完了していたが。

「うーん…あれ? うわ! ボク、スカートはいてる!」

「衛ちゃん…気が付きましたか? って、どうやら戻っているようですけど、例によって時間切れでしょうか?」

「いいえ、違います。亞里亞様の香ばしい薫りに包まれたがために、肉体はもちろん、魂の奥底まで浄化されたのです」

「じいやさんの…じいやさんのおっぱいが迫っていただなんて………はぁはぁ」

 全く持って説得力のないじいやさんの台詞であるが、いつもの衛に戻っていることは確かのようだ。

「いいや! 癒しだったらヒナたんの勝ちだね、絶対! ヒナたんならコスモクリーナーも真っ青の浄化作用を持っているに決まっているね!」

 なぜかむきになる千影。そしてそのまま雛子に擦り寄っていく。彼女の辞書に「懲りる」という言葉は無い。「学習能力」という四字熟語さえ。

「キモイってば」

「ああん、ちか、ばっ、ぶべらっ」

 零距離からの特殊聖別弾であっても、雛子から受けた傷であるならば千影にとって何よりの愛の鞭なのである。喜ばせるだけであるが、それでもダメージが与えられるだけ大きい。

 鈴凛は隅の方で、自分の現時点での最高傑作が見事に通じなかったその悔しさに、涙を流すほか無かった。鞠絵はそんな彼女の肩に手をやる。

「さぁ、一件は落着しましたが、四葉ちゃんがまだ残ってますよ」



 台所では、春歌が呆然としていた。四葉はまな板の上で昏睡中。そして白雪は嬉しそうに肉切り包丁を研いでいる。

「って、ダメー!! 四葉ちゃん料理しちゃダメぇ!! 春歌ちゃんも黙ってみてないで白雪ちゃんを止めてぇ!」

 慌てる鈴凛、しかし、鞠絵は落ち着いている。

「思ったとおりです。やっぱり「ココデハッ! 石鹸で手を洗いなさいッ!」が出ましたね」

「マジで!?」

「あら、鈴凛ちゃんに鞠絵ちゃん。今夜はご馳走ですの♪ 変質者さんが家を徘徊して居ましたから、折角ですから人肉料理と洒落込みますの♪ 姫、初めての経験だからちょっと興奮気味ですの。ムフン♪」

 今までの食卓に“それ”は上ってないことを、鈴凛と鞠絵は神に感謝した。ふと、春歌は正気を取り戻したが、それでも喉から搾り出すように呻く。

「白雪ちゃんが………四葉ちゃんに………せ………接吻を………」

「何ッ?」

「姫の必殺技、『毒りんごのキッス』ですの! 技だからノーカウントですの! ちなみに、麻の実の濃縮エキスを流し込んであげたんですの♪」

 事も無げに言う白雪。鈴凛はドコから突っ込んで良いやら悩んだが、とりあえず気持ちを口に出してみる。

「………春歌ちゃんでも互角だったのに、白雪ちゃん………何気に凄いね………いろんな意味で」

「それはもう、姫、ここなら目を瞑ってでもお料理できますのよ。あら、変質者さん目を覚ましちゃいましたの!」

「四葉ちゃんだって!!」

 包丁の背で気絶させようと、思い切り振りかぶる白雪。肝心なところは耳に入ってないらしい。

「ううう、あれ? ココドコデスカ!? あっ、グランパお久しぶりデス! 衛ちゃんのはグランパのよりご立派デス! グランパゴリッパ! グランパゴリッパ! ボクラの合言葉"グランパゴリッパ"は怪盗クローバーを召喚する秘密のキーワード! 怪物盗賊のクローバーは細胞ごと他人に成りすますのデスガ、この前はミカエルがその毒牙に掛かってワトソン君が居なければ今頃四葉は即死デシタ。今度はそんな事がナイヨウニ………ああ! 四葉の体が次第にクローバーにィ!」

「コチラも時間切れのようですね」

「ってか変な夢見てるし」

「いや〜ん、本当に四葉ちゃんですの! 我が家の家訓「家族は食べない」を破ってしまうところでしたの!」

「それ以前だって」

 突っ込みは入れたものの、鈴凛は我が家の良心の最後の砦が崩されたような気がして、少し、泣いた。

「グランパ、ご立派………ぽぽぽぽぽっ」

 春歌はさっきほどからくねくねし続けていた。



「鞠絵ちゃん、本当に大丈夫? んー………私がもっとしっかりしていたら………」

 所変わって鞠絵の病室。少しはしゃぎ過ぎたのか、アレから体調を悪くした鞠絵はいつもの診療所に運び込まれていた。ちなみに魂が飛び出たままの可憐は別室である。

「いえ、良いんですよ。久々に元気な皆さんに溶け込めて、私も楽しかったんですから。でも、私としては他の方の変わった姿も見てみたかったですね。例えば、鈴凛ちゃんの性格が反転すれば、少しは素直になるでしょうか? なんて、ね」

「うわー、なんか今の私が悪者みたいじゃん」

 苦笑する鈴凛、しかし彼女は少し改まって鞠絵のほうを見やる。

「でも………その………鞠絵ちゃんは………その………そんなことしないでよ………その………」

 目線を外しながら、鈴凛は言葉をにごらせる。そんな彼女に、鞠絵は満面の笑みで応える。

「ふふふ、ちょっと遅かったようですね」

「まさか! まさか鞠絵ちゃん!!」

「試してみました………お陰で、こんなにすばらしい力を手に入れることが出来ました!」

 ばっと布団を捲り上げた後、ベッドの上に存在したのは顔だけは鞠絵のまま、筋骨隆々の男の肉体。もともと細かった彼女の肉体が二周り以上も巨大に、筋肉で膨れ上がっている。蒸せるような汗の臭いが鈴凛の鼻についた。正に、病弱少女が裏返った姿であった。

「マッチョ(ふんっ!)・マリーと(ふんっ!)呼んで(ふんふん!)下さいっ!(むち〜〜〜ん)」

「嫌っ……イヤァあぁ………いやぁあぁあぁ………」

「冗談ですよ、モンゴルマンもびっくりの肉襦袢です………あら? 鈴凛ちゃん?」

「あああ………いやぁ………あああ? いあぁ、いあああ、ああはははは………」

 鈴凛が正気に戻るまでの入院は3日と短いものであった。その間、鞠絵は甲斐甲斐しく彼女の看病に当たったという。そのことを彼女に尋ねたところ、

「いつもお世話になっていますからね。ふふふ、オムツも私が換えてあげました」

 と、いつも以上に爽やかな、そして満足げな笑顔で答えてくれた。

「フフフ………剃刀も役立てることが出来たよ………」

 と、なぜか千影も満足そうな笑みを浮かべていた。
 そして3日後、いろいろと心にダメージを受けて帰宅した鈴凛を待ち構えていたのは、彼女が回収し忘れていたがために血まみれのまま放置されたメカ鈴凛(ドリル仕様)であった。



「鈴凛ちゃん、戻ってきたばかりなのに元気デスネ」

 コチラは四葉。普段チェキする側なのに、チェキされる側になって少々ご機嫌斜めのようである。轟音を立てながら戦う一人と一体の姿を普段ならかぶり付きでチェキするところを、とばっちりに巻き込まれない程度の距離でチェキしている。

「四葉ちゃん、可憐も帰ってきましたよ」

 ぞくり、四葉の背筋が凍え切る。なぜか耳元で可憐が囁いた。

「千影ちゃんのお薬ね、四葉ちゃんが飲んじゃったからもう無いんだって」

「え!? そんなことありマセンヨ! ………確か………」

 自信なさげに四葉は言うが、可憐のテンションは下がらない。

「無いんだって、折角咲耶ちゃんがしてくれるって言った事、してもらおうと思ったのに、無いんだって、四葉ちゃんが飲んじゃったから、無いんだって、無いんだって、無いんだって!」

「無いなんて言うなぁ! ボッ………ボクだって、ボクだって気にしてるんだからぁ!」

 半泣きの衛が乱入する。呆気に取られる可憐。

「そっ、ソウデス! 四葉だって………四葉だってリッパなボインがあればあんなオクスリ要りまセンデシタ!」

「そうだそうだ! 四葉くんの言うとおりだ………よっ、寄越せ! 可憐くん、要らないならその胸を私に寄越すがいい! 薬は胸と引き換えだ!」

 そこでなぜか、唐突に沸いてきた千影が無理難題を言う。

「あれ? 千影ちゃん、前のオクスリ無くなったんじゃないデスカ?」

「いや………あんな危険な薬………おいそれと渡すことは出来まい?」

「嘘をついたんですか!? 酷い! 千影ちゃん酷い!!」

「いや、それに、可憐くんの性格が逆になったとしたら………」

「酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い」

「コピペって便利デスネ」

「四葉ちゃん何言ってんの? ってか、可憐ちゃんの性格って逆になるのかな?」

「可憐くん落ち着きたまえ………ふふふ、目下研究中の「おっぱい交換薬」が完成し、君が交換に応じてくれるならば………」

「わ! ソレ、四葉もホシイデス! 春歌チャンとトレードデス!」

「ちょっと待った! 春歌あねぇのおっぱいはボクんだよ!」

「………………………………………………
 すまない、可憐くん、そういうわけで今の話は無かったことにしてくれ給え。私はじいやさんか咲耶くんのが………」

「咲耶ちゃんのは可憐のです!」

 話はココから凄惨な、とらぬおっぱいの胸算用となる。それはメカ鈴凛が誤射したミサイルが命中するまで続けられるのだが、あまりに過酷な内容のため、ここに記すことは出来ない。ただ、彼女らの兄に意見を求めたところ、沈痛な面持ちで一言こう語ってくれた。

 「私はかつてあのような、悲惨な戦いを見たことが無い」と。

 どっとはらい。



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