MIKOTO NO TUTAE 愛憎編
阿根子市駅前。地元の戦国大名である村上阿根子三太郎の騎馬像が如月の寒空の下、市のシンボルとしてその勇猛な姿をあらわしている。とは言え、ほとんどの市民に取って待ち合わせ場所としてしか彼の存在価値はない。そんな駅前通りのファミレス、でコンと魅琴はだべっていた。二人で町を歩いている途中、コンがどうしてもフルーツパフェが食べたいとごねたのである。もちろん、魅琴の驕り。おおっぴらに彼女の力を使わせるわけには行かない。
コンは唇をクリームでベトつかせながら、無心にフルーツを口に運ぶ。魅琴はコーヒーをブラックで啜っていた。砂糖やミルクは邪道だと思っている。彼女のコーヒーに対するモットーは「悪魔のように黒く、地獄のように熱く、接吻のように甘く」。おかわり自由の薄いコーヒーなど許せないのだが、付き合いゆえ仕方が無い。一心地ついたところで、コンが満面の笑みを浮かべて話を切り出した。
「あう!魅琴、バレンタインおめでとうある!」
「祝うものなのか知らんけど、とりあえずありがとう。」
「日ごろの感謝を込めてコンからプレゼント贈呈するある。ありがたく頂戴するヨロシ!」
そういえば今日は2月14日。バレンタインデー。魅琴には複雑な思い出しかない。自分は一つもチョコを渡したことが無いのに、毎年山の様にチョコを貰う。もちろん、貰えるものは貰っておくし、相手が良ければ付き合ったりもする。しかし、一応彼女も女の子、たまには自分が上げる側に回りたい。
それがまた、選りに選って天下の邪仙コン=ロンすら自分にプレゼントしたいという。どーしても女にしかモテないのか、女を狂わすフェロモンでも出してるのではないか、少々真剣に検討する余地があると思い始めた気だるい午後の昼下がりである。
「で、ナニくれんの?」
「赤ちゃん!」
人間、死の直前にはそれまでの人生全てが走馬灯の様に甦るという。一瞬で全人生が圧縮されていることになる、凄まじいほどの圧縮率。人間の不慮の事態に、時は最後の慈悲としてその一刹那、流れを待ってくれるとも言えよう。今の魅琴は、五年分ほど回想してしまっていた。
「つくった覚えないぞ。」
「今から作るある。すぐにでもタネ仕込んでやるね!」
やっとのことで搾り出した言葉も、コンの無邪気な笑顔に打ち消される。やりかねん。しかも、私の胎か。恐らく産まれる子供も尋常ではないのだろう。
「で、産まれたら早速キンシンソウカンするある!コンと子供に魅琴は玩ばれるね!」
「ご丁寧にどうも。」
「魅琴はドロドロになりまでヤられ続け・・・」
うっとりと仕掛けたコンは、魅琴は唇に人差し指をやっているのを見て言葉をとめた。魅琴は親指で、隣の席を指差す。少し背の低い男と飛び切りの美人のカップルだ。魅琴は彼女を、男性雑誌のグラビアで見たことがあった、すらりと背が高く、健康的な水着姿が印象的だった。今は水色のコートを羽織っている。一方の男は、中年の、品の良い紳士、という外見ではあるが好色そうな気配や顔つきは魅琴やコンには隠すことが出来ない。にやにやと笑っている顔は明らかに好き者の表情であった。
コンの瞳は女から立ち上る桃色の靄を見逃さなかった。そして彼女の耳は微妙な振動音を聞き漏らさない。女の股間にはローターが仕込まれている。彼らはお楽しみの最中というわけだ。
それだけなら、別に構わない。他人のSMごっこに異議申し立てするほど野暮なことは無いだろう。問題は男から、どす黒い霧が発せられていることだ。女は鼻から息を抜いて目を閉じた。唇と喉を震わせて、甘い息を吐いている。男は彼女の、羞恥に満ちた切なげな眼差しに大いに満足しているようだ。彼らがお茶をしているのも、単にそのシチュエーションを盛り上げるだけに過ぎない。彼女のうらっつらは日常に持ち込まれた非日常に悶え喜んでいた。
しかし、魅琴は彼女の心に耳を傾けている。一週間ほど前か、仕事の帰りに彼に誘われた。良くある遊びだったが、彼を受け入れたところで、彼の言う事に逆らうことが出来なくなった。自我を越えて、彼の命令は絶対だった。縛られ、浣腸され、出たものを舐めさせられた。彼が死ねと言われれば死ねるだろう。そして心の奥底に封じられた言葉に魅琴は気がついた。ほんの四文字である。彼女はこう想っている、「タスケテ」と。
彼らが席を立った後、魅琴はにやりと笑って聞いた。彼女らのやり取りをじっくりと観察して、楽しそうになっているコン=ロンに、分かりきった答えを尋ねる。
「どうする?」
「もちろん、行くね! 子作りは後回しある! いつでもできるね。」
「私の許可無くやるなよ。」
「無問題ね。そのうち自分から欲しくなるある。」
苦笑いをしつつ、魅琴は席を立った。コンもひょっこりと後に続いた。魅琴とコンにとって、尾行など朝飯前である。まるで猫のように気配を消し、風のようにひゅうひゅうと後をつける。彼らは阿根子市でも屈指の高級住宅街の一角で姿を消した。結構大きな邸宅だ。何事もない様に、コンはその鍵を開けた。鍵開けは仙道の初歩である。
寝室から声が聞こえる。艶の入った女の声。魅琴もコンも、聞き飽きるという事は無いので別に構わない。
「日も落ちてないうちからHか、豪勢なもんだ。」
魅琴は呟きながら、鍵穴を覗いた。
「あう、コンも見たいー!」
「透視ぐらいできるでしょ?」
はう、忘れてたとコンは壁にくっ付いた。千里眼を持つ彼女に物理的な距離や遮蔽物など全く関係無い。本人はそのことを忘れがちではあるが。魅琴もポーズだけである、濡場魂に感覚を委ねれば実際に“視る”必要は無い。
まず目に入ってきたのは、ショートカットの少女だった。床に横たわった姿は白魚のようで、今まさに調理さている真っ最中であった。
「ああ、ご主人様ぁ。 ごしゅじんさまぁん・・・」
甘い声を歌うように、女は吐き出している。下卑ず、欲望に流されず、自らが主人と呼ぶ男の楽しみの為に女は睦いている。
若い声と肌。あまり経験の無い膣口に節だった男の指が遊んでいる。性感に目覚めて間もない初心な身体は更なる快楽に引き込まれつつも、自分から進んで刺激を求めようとはしなかった。許可無く行くことは許されてないのだろう。女は四人。男は大の字になって寝転んでいる。なかなか引き締まった、よく鍛えられた肉体である。両手にそれぞれ花弁をそして両の脚にも一人づつ、女達は己の体の全てを用いて、男を愛撫していた。左手には肉好きのいい、まさに豊満といった感じの女体が取り付き、主人の口を吸い、左足には先ほどの女が、男の足の指を大事な部分に収めている。
そして口には男の物を含んでいた。「ほら、もっと舌を使いなさい。」
「はい・・・ああっ、もうこんなに太く逞しくなって・・・ご主人様ぁ。」
喋っている間に、隣の少女が男のイチモツを咥えた。横取りされた女は文句も言わずに竿の下方へと舌を這わせ、ふぐりを弄る。
「ああん・・・ふぅぅ、ご主人様ぁ、気持ちぃ、良いですかぁ?」
四つの乳房が腿を優しくマッサージしている。やるだけしか能のない若者なら何度射精してもキリが無いだろう。男はその年齢と経験をもって、彼女らが生み出している快感に溺れることなく、気持ちよさを長引かせるすべを知っている。
「ああん・・・はぁあ、もうぅ、もう耐えられませんご主人さまぁ・・・」
左手に玩ばれていた女の言葉が溶けてしまった。がっくりと膝をついて、もうほんの少しで理性が崩壊するギリギリのところで耐えている。
「よろしい、挿入してあげましょう。」
男は体位を変える。一度身体を離し、女の脚を持ち上げた。何よりも純情で何よりも貪欲な器官が、“早く欲しい”と呟いている。男は一気に押し込んだりせず、敏感な突起を自分の尿道に押し当てる。挿入するものが挿入される、それはお互いに、快。
「ああんっ、あんあんっ ごしゅじんさまぁあ!」
男はずっと、腰を入れる。男の体位が決まった時点で残された女達も動きだした。先の、ショートカットの少女は躊躇せず男の尻に顔を埋めた。舌を使い、男の各所を刺激している。残りの二人も、自然と男に取り付いた。一人は男に秘所を吸わせる。もう一人は男の背中を愛しげに愛撫する。よほどの好き者で無ければ、思いもよらないし試そうともしない絡みあいが続く。
「あう、良いな。はーれむある! コン、色事はご無沙汰してるね。羨ましいある。」
「全く、男ってこーいうのに憧れるんだろうねぇ。」
自分の事は棚に上げる魅琴。なかなか良い見ものだ。一々“ご主人様”と言わせることで彼女らのマゾ性を刺激している。
それを繰り返すことで、条件反射的な結び付きが起きる。パブロフの犬は食事の時にベルの音を聞くことで、ベルの音を聞いただけで唾液が出るようになった。M女は“奉仕すること”の喜びと“SEX”の喜びが結びついている。“ご主人様”と発声することで愛液が分泌されるのだ。ただし、魅琴の目は誤魔化せない。彼女らはそこまで調教は進んでいない。そして、彼に使えているのは彼女らのM性でも、彼の男性的な魅力でもない。魅琴にはこの場所に、瘴気が澱んでいることをハッキリと感じていた。それは毒気、吐き気、ありとあらゆる嫌悪感を混ぜ合わせた気配である。彼女らが本心から望んで行っている行為ならば、鬱積した感情は溜まることは無い。彼が、何かしらの術で、女達に奉仕を強いているという事である。
女の声が一層高く上がった。
「はぁ・・・ご主人様・・・イカセテください、イカセテくださいぃ!」
女は切れ切れになって懇願する。体中がガクガクと振動する。全てが無になる瞬間が近づいている。
「よし、イケっ、俺も出すぞ!」
男は全身に力をこめる。はぁ、と大きな声を上げて抽出が始まる。女達は彼が放出する間も、その放出される性のエナジーを一滴も洩らすまいとするかのようにじっと彼に身を寄せる。打ち込まれた女はその勢いで絶頂に達し、ふわふわとした歓喜の波にさらわれていた。
「はぁ・・・幸せ・・・幸せですぅ・・・」
幸せ? 魅琴は鼻で笑う。彼女から立ち上がるのは多幸感ではなく、廃水の流れる町の川に漂う匂いに似た、顔を背けたくなる負の感情だ。風俗嬢が客に向かって隠しているのと同じ感情。しかし、術にかけられた彼女らはそれを後でぶちまけることすら出来ない。そろそろ出番だね。魅琴はドアのノブに手をかける。茶番はもう見飽きた。
ガチャリ、戸を開けるとまた一戦行おうとしていた彼らの動きがピタリと止まった。
「お楽しみのところ失礼しまーす。」
「なんだ、正義の味方でも気取るつもりか?」
男は嘲りの面持ちで魅琴を睨みつけた。別にそんなわけでもないんだけどね、と少し照れる魅琴。そのリアクションって、脛に傷を持ってるって事だね。ならば遠慮する必要は無い。
「女は男のオモチャじゃないのよ。」
「老若男女、コレ即全てコンのオモチャある!」
台詞を決めようとしたが、コンが茶々を入れた。魅琴はすこしムッとするが、瞳でコンを威嚇した。その仕草を見て、何だタダの小娘ではないかと男は思った。笑いがこみ上げる。
「ははははは、何を言うか! 全ての女は俺が支配してやるのだ!」
「意思の無い奴隷抱いて、何が楽しいの? 人形とでもやってたら?」
男は無言で立ち上がった。気に障ったらしい。女達はおろおろと、彼の後ろに隠れようとする。
淫棒の呪法か、魅琴は彼の紫色の男性自身を見て思った。勃起した男性器に外道の経文を儀式に則って刺青する。これを挿れられた女は、男を恋い慕うようになる。男がどんな理不尽な無理難題を押し付けても、それに従うようになるという。かつて大奥の娘達やくノ一を調教する為の用いられた幻術であると聞いていた。廃れた術であるのだが、男のモノを見る限りどうやら自分で彫った形跡がある。何かの拍子に、術を知ってしまったのだろう。そして試したってわけだ。それを自分の愛欲のため、一般人相手に使うとは成ってない。
魅琴は間合いを計る。濡場魂を発動させるだけの瘴気は十分にある。しかし、男のほうが早かった。
「コレならどうかな?」
男は、一番年若い娘を盾に取った。恐怖と懇願の目線を魅琴に送る。
「ちっ!」
魅琴としては女の一人や二人どうでもいいのだが、なんとなく正義の味方ぶってみる。娘の目線が色っぽかったのが一番の理由である。相手の勘違いを利用するのも一興かもしれない。
「くくく、いう事を聞かないと、この女がどうなっても知らないぞ。」
魅琴はわざと真剣な表情を作って、頷いた。奴のことだ、ヘタなことをすれば彼女に舌でもかませるつもりだろう。内心、床を笑いながら転げたくて仕方ない状況であるのだが、我慢して“正義の味方”を装った。
「では、まず、スカートを捲ってもらいますか。」
男はマジだ、このエロオヤジが! もう爆笑寸前である。引きつる頬を羞恥の表情に見えるように繕いながら、親指と人差し指で、スカートの端をつまんだ。そしてゆっくりと、上へと引き上げていく。魅琴の素直に真っ直ぐな脚が見える。滅多に見えない、彼女の靴下のワンポイント(黒の髑髏であるが)を通り越し、白い腿が見え隠れする。適度に鍛えられた魅琴の脚は、まるで陶磁器の様に滑らかで整っていた。
「待て、・・・そういえば名を聞いてなかったな。」
「阿根子市立第六カゴメ高校2年B組、八重垣魅琴。身長162cm、体重秘密。って、スリーサイズも知りたい?」
ひらひらと揺れるスカートが魅琴の秘丘を覆う布地を、寸でのところで隠している。見えそうで見えないチラリズム、男は前屈み気味だ。ちなみに、魅琴は下着は白と決めている。女子高生たるもの、清楚なるが好ましきかな。もちろん、それがポーズだけでも良いのだ。相手は勝手なストーリーを作って勝手に妄想してくれる。女の本心に向き合える男には、魅琴は巡りあって無い。
「あーっ、出る出る出るある〜☆」
素っ頓狂な声に男は思わず振り向いた。コンは先ほどアクメに達した女を、後ろから犯していた。女が声を上げなかったのは、あまりの快楽を身振りでも叫びでも表現する事が出来なかったからである。残りの女達は、行為を羨ましげに見つめていた。
「何をしている!」
「見て分からないか? 種まきあるね! コンの子供孕ませてるある!」
ぷしゅう、と溜息をついて、コンは女から離れた。彼女の下腹が不気味に蠢いている。
「アイ・コンタクトっす。」
スカートをまくったままの姿勢で、魅琴は静かに応えた。男が魅琴のパンティに釘つけになった隙に、コンは女を捕えていた。もちろん、コンの事なので助けるなんて発想は無い。彼女にあるのは“いかに楽しむか”である。女の乳房から、ぷっぴゅっと汁が飛んだ。乳ではない、乳ならば白いはずだ、それは緑色である。粘りのある液を垂らしつつ、見る見る、彼女の胸は大きくなっていく。
「あう、失敗したある。母体を乗っ取っちゃったみたい。」
コンの言う子供とは、交合によるエネルギを具現化させる事で生み出す、一種の子鬼である。練った気を子宮に送り込み、二人の気を混ぜて形にする。コンとしてはじゃれた程度ではあったが、普通の人間にはその影響は計り知れない。
「うひひひぃっ!」
女の股間から、巨大な突起が噴出した。ペニスと呼べる代物ならばまだ可愛いだろう。むしろイソギンチャクの触手に近い。亀頭のあるべき部分はぽっかりと口を開け、その回りは色とりどりの触手で覆われている。それは乳房と同じ緑色の体液を垂らしながら、誘うように、また蛇が鎌首を持ち上げるかのようにふらふらと宙を彷徨った。
女達はそれを熱っぽい瞳で見つめていたが、やおら立ち上がると、異形のものへと転じた彼女の足元にひざまづく。
「おっ・・・おい、お前達、どうした!? そっ、そいつから離れろ!」
自分が捕まえていた娘も、男を押しのけて彼女のほうへと向かう。命令だぞ!男は叫んだ。しかし、体全身を朱に染めている女達には彼の声は聞こえない。毒をもって毒を制すというべきか。コンの毒は何よりも優先される。女の、いや人間の雌の本能を目覚めさせる、不条理なフェロモンを彼女は発していた。
じゅっ、じゅうっっ、じゅじゅっ。
女達は無心に、突起や乳首から流れ落ちる汁を啜り始めた。顔に、首筋に、胸に、ありとあらゆる場所に、その汁をなすりつける。女達の肌が緑の光沢に包まれる。女達の瞳に、怪しい光が灯る。
「うひひひひっ!」
奇声を上げると、最後に近づいた、ショートカットの娘を裏返しに転がした。そして、異形の器官で彼女の最奥へと侵入する。
ボスッ。ボスッ、ボスッ、ボスッ!
ダイナミックなピストン運動だ。娘は声を上げることすら出来ない。胸が大きくはじけ、段々その形を変えていく。彼女の乳首が乳房ごと少しずつ伸びていき、幾つもに枝分かれし、緑色に輝く不気味な触手へと発達していった。そして、出遅れた二人を絡み取る。身体全身をまさぐりながら、入るべき穴を探す。
「うぎゃぁぁあああははぁはあ!」
盛った雌猫でもこんな声は上げないだろう。異世の器官が起こす爆発的な歓喜が彼女らの胎を抉る。男は思わず後ずさった。洋物のAVのあまりのハードさ無遠慮に、却って気分の萎える事もある。彼の今の感情はそれに近かった。先ほどまでいきり立っていた男自身はすっかり小さく縮こまっている。
「怖気づいてるの?」
後ずさる男の退路を、魅琴は後ろに立って絶つ。
「ヤリたいんでしょ? ヤリまくりたいんじゃなかったの?」
性に対して絶望を抱いた男ほど、無残なものは無い。男には計り知れない快感に悶えている雌達を目の前に、男が今まで培ってきた男としての人格、そして彼の性器が得た力への絶対の自信が、無残にも打ち壊されていた。
「支配しなさい。貴方自身の実力でね。」
魅琴は男の背中に蹴りを入れた。男はよろめいて機械人形の様にゆり動きつづける、一つのオブジェと化した四人にぶつかった。
「オトコォォォッ!」
先ほどまで“ご主人様”呼びだったのが、今は一介の、“オトコ”でしかない。乳首に犯されている女二人が、凄い勢いで男の股間へと飛びついた。喰らう、という表現が一番あっているかもしれない。
「・・・ヒーッ! ヒィヒィヒィヒィッ・・・」
緑色の粘液が男の体に付着すると、それはジュウと音を立てて煙を上げた。火傷したように皮膚が爛れる。しかし、感覚は痛覚ではなく、快感に生じた。勢い余って女の胸を掴むと、手の指先が射精したようにぶるぶると震えた。精気が放出する。命の灯火が吸い出される。限界を持つ男にとって、それはタダの拷問でしかない。
「あう、魅琴! 台所にお菓子見つけた! お茶するある!」
「さっきパフェ食ったじゃん。・・・コーヒー、インスタントしかないの? ならお茶で良いよ。」
いつのまにか台所を漁っていたコンが、あまり出番が無く不機嫌な魅琴を呼んだ。助けてくれ。男は扉の向こうに消える魅琴にそう言おうとした。だが、肉が溶けかかった女性器によってその口はふさがれた。そして指も脚も彼の凸なる部分は全て、粘膜のぬめりに覆われていった。男は、蛇に飲み込まれるかえるの気持ちを理解した気がした。それが最後の意識だった。
三十分ほどして魅琴たちが戻ってきたときには、男は既に息耐えていた。窒息死、いや溺死かもしれない。部屋の床はまるで巨大なナメクジでもはったが如く粘液で一杯になっていた。白濁液は最後には鮮血となって彼の股間から流れ出ている。肉棒はあまりの酷使に耐えられず、グジャグジャになって原形を留めていない。記されていたはずの呪文も今となっては確認できなかった。
女達は彼を捨て置いて、生きているもの同士ただただ快楽を貪りつづけていた。女には終わりが無い。コンの毒気に当てられている以上、恐らく命の火が消えるまで交わい続けるだろう。
「まったく、女は怖いねぇ。」
「魅琴も人のこと言えないね。」
「ってかさぁ、私をコンナノにする気だったの?」
「あう、コレは手加減したある。 魅琴には本気でして上げるね。」
「・・・ま、頑張れば毒は抜けるかな。 男は腹上死って事で。」
事後処理をしなきゃ成らない。ボリボリとクッキーを貪りつづけるコンをそのままに、魅琴は少し考えた。自分の我侭を聞いてくれる男じゃないと、チョコレートなんぞ渡したくない。まだ暫く先だな、そう思ったものの魅琴は少しも寂しくなかった。今は男よりも、楽しい存在が居てくれる。食い意地のはりっぷりが璧に瑕ではあるのだが。