MIKOTO NO TUTAE 聖夜編

 阿根子市の深夜、さすがに一地方都市だけあって、クリスマスのディスプレイも夜中には照明が落とされる。中途半端に森が残されているので自然保護団体などがうるさいのである。夜は良い子は寝る時間であるし、恋人達も普通は電気を消して一戦に望むのでやはり、外は真っ暗になるのである。

 そんな中、一人の影がふわりと、ある家の二階へと降り立った。輝く金色の髪にはちょこんと赤白のサンタ帽、身にまとうのも赤と白のサンタ姿。ただし、極ミニである。彼女は下着なんて無粋なものはつけない。すこしほこほこしているが、彼女の官能的な体の線ははっきりと見て取れる。

 彼女は窓に手をかけた。カチャリ。鍵など彼女に関係ない。開けようと思った瞬間、鍵のほうから外れてくれる。彼女こそ、人の世に長らく破滅と絶望を振りまいてきた“微笑する災厄”幻妖仙娘のコン=ロンである。

「♪ちんこのべーる ちんこのべーる くりとーりすー☆」

 むちゃくちゃベタな歌を口ずさみながら、コンがもぐりこんだのは魅琴の部屋。彼女の性格通りさっぱりと几帳面に片付けられたその部屋は幾何学的な美しささえ漂っていた。そして、キチンと整ったベットには行儀良く横たわった彼女の姿があった。コンは無遠慮に、彼女に近づいていく。

「コンのかわいいまいはにぃー☆ 一緒にいい夢見るあるね♪」

 コンから桃色の靄が漂いはじめた。自らの淫の気を最大限に高めることでどんな堅物だろうが純情娘だろうが、彼女は容易に淫乱な性のオモチャにすることができる。さすがの魅琴も、コレではひとたまりもあるまい。コンはゆっくりと布団を剥いで行く・・・

「はう! しまったある! 変わり身したね!?」

 そこには“残念でした”と一言札が書かれた木の人形が横たわっていた。魅琴の変わり身の術である。もちろん、彼女の気配も漂っている。油断したコンの負けであった。

「ここかな・・・」

 その頃、魅琴は寒気のなか、黒のスーツに身を固め黒のスカートを翻しながら、家々の屋根を風の如く駆け抜けていた。

 クリスマスというのは元はといえば冬至の祭りである。要するに夜が一番長いわけで、夜といえばやることは一つ。聖夜が性夜であることには意味が無いわけではない。

 元々、忘れられた古き神々が闊歩する日であり、その影響がさまざまな所に現れる。人間はそれを祭りによって鎮めていたわけであるが、現在は余剰の性エネルギーが彼らを喜ばしている。ただ、そのエネルギーが悪意という方向性を持つ場合、この世にとって成らぬ存在が舞い込むこともある。

「ただねぇ・・・取り違えた奴が多いのよねぇ。」

 魅琴はある一軒の、見た目にはさほど他の物とは変わらない建売住宅の上で止まった。魅琴も術者だ。自らの力を自分のために使うことには異を唱えない。しかし、自分の手に負えないモノを呼び出す奴は嫌いだった。魅琴は別に、正義の味方を気取っているわけではない。単に“悪”と認定されている相手なら、どんなにボコってもお咎めが無いだけである。自らの能力、濡場魂の滋養と、自らの憂さ晴らし。それを行うのがクリスマスと言う普通の連中が浮かれている夜だからこそ、彼女の性にピタリとあう。彼女は天邪鬼なのだ。

「あああ・・・はぁぁぁ・・・」

 ヨガリ声が聞こえる。畳張りの部屋の中には二人の女と一人の男。男は二十歳前後だろう、少し幼げに見えるがガッシリとした肉体だ。女たちはそれより少し上だろうか。脂が乗って肉感的な肢体が印象的である。暗い部屋の中、三つの裸体が白く浮かび上がっている。

「うぅぅ・・・ぅう・・・」

 声は男の物であった。二人の女は男に奉仕している。部屋の真中にはクリスマスツリー、床には散乱したお菓子の袋、ワインの壜が転がっている。ごちゃごちゃした床の上に直接寝そべった男の上には、一人が男の口を吸い、もう一人が男のいきり立った逸物を咥えている。彼女らの乳房は小刻みに男の肌を滑り、淫媚にひしゃげては男に快楽を与えている。

「うぅぅっ!!」

 男の体が小刻みに震えると、雄の臭いが一段と濃くなった。放たれた白い体液は女はゆっくりと喉に流していく。ごくりと鳴る喉の音が余計にイヤラしい。精を吸い取っているようにさえ見える。しかし、男が果てた後も彼の物をついばもうとする。男性器は小さくなる隙も与えられずに再び硬直化していく。若いから?いや、そうではない。この部屋に漂う濃い匂い。性の臭いが彼らを刺激して止まないのだ。

「楽しそうね。混ぜてくれない?」

 突然現れた魅琴に、一人の女が振り向いた。魅琴は靴のままで両手を組んで、窓を背ににやりと微笑んでみる。窓の鍵ぐらい、彼女の能力を使えばすぐに開いてくれる。振り向いた女はゆっくりと立ち上がった。大きな胸と広いヒップ。魅琴とは頭一つ違う背丈が彼女を圧倒する。

 残った女は、待っていたかのように自分の秘所を押し広げて、男に跨った。ずぼっ、一気に腰を押し下げると汁が中からこぼれだす。女は男という舞台の上で髪を振り乱して激しいダンスを踊り始める。

「恋人達の、二人っきりの夜だよ? 3Pは怪しいよ。」

 ピッと、腕全体で相手を指差す魅琴。挑発的な行為に関わらず、女は大人の色気で無言のプレッシャーを与えている。

「良いわ。歓迎するわよ・・・」

 魅琴は常しえの闇より生まれしいと黒き植物、濡場魂を放つ。蔓の様に伸びるそれは、女の四肢に絡みついた。それは邪気を吸い、生気へと変化させる。何よりもその強靭な縛めは神をも繋ぎとめる。

 筈であった。女が軽くその身を震わせると、濡場魂は黒い塵となって無残にも崩れ落ちた。

「えっ? 弱いっ??」

 魅琴は思わず後ずさる。魅琴は昔、今の様に濡場魂を操れなかった頃のことを思い出していた。精神を集中しなければこの世のものではない濡場魂はすぐに崩壊してしまう。この世界では脆い存在なのだ。だからこそこの世のものではない存在に対しては絶大な力を発揮するのであるが。

「クリスマスツリー? ・・・モミの木・・・結界!?」

 後ずさりながら、魅琴は部屋の中心に置かれたツリーに気がついた。その幾何学的な文様が、余りに不自然に感じられたからだ。

「『生命の樹』のアレンジだけど、貴女にとっては天敵のようね。」

「うぐっ!」

 女が片手を上げる。急に重力が何倍にも成ったかのように、魅琴の身体は地に伏した。身動きが取れない。強力な磁石に吸い付いた釘の様に、魅琴の手足は動きを封じられていた。

「良いでしょう。モールと呪的紋章の織り成す立体魔方陣。これが私に無限の力を与えてくれるのよ。」

 濡場魂を通せば相手の思念が読めるのだが、それも今はなす事が出来ない。非常に強力な存在にかち合ってしまったようだ。舌打ちすらままならなかった。

「あっ、あっ、あっ、あっ!!」

 向こうの男女は相変わらず交合を続けている。そのエネルギーがツリーに引き寄せられている。エネルギーは何倍にも増幅し、この女に、いや女の姿をしたモノに力を与えているようだ。

 女は魅琴のスカートをまくり、純白のパンティを引き下した。こんもりと、男なら思わず顔をうずめたくなるような綺麗な小丘があらわになる。草原をつうと指で推す。深く湿った洞窟に女は指を滑らせた。ルビーのような小さな玉のベールを下してその輝きをあらわにする。

「やっ・・・そこ・・・弱いんだからぁ!」

 ヌルリ。女が何かを掴んで、引っ張っていく。魅琴は淫核が抜け出ていくような錯覚に襲われた。伸びていく、そして外気に晒されて興奮している。

「ひっ? いっ? いいい???」

 魅琴の体からまるで魂が抜け出ていくかように全身から感覚失われていった。しかし、ただ一つ“快”の感覚だけは残っている。女が指を動かす度にビクンビクンと気持ちよさが走った。

「貴女の“核”。貰ったわ。」

 女が摘んでいるのは桃色の球体。梅干ほどの大きさであるが霧が固まっているようで実体とはいえなかった。魅琴はそれが、自分の性感であることを感じ取った。全身の性感が彼女の指の中で弄ばれ様としている。胸も腕も、尻も全て、彼女の手中に収められている。

「やっぱり若い子は良いわね。いい色艶、コリコリしてる。」

「ふあぁああああっ!?」

 普通に息をしたいのに、どうしても喘いでしまう。身体に服の感覚がなくなっていた。乳首が立っていることが分かるのだが、ブラの感触が無いのだ。全身の神経に電線が直結されているような感じだ。身体に熱がこもって爆発しそう。迫り来るアクメを目指して少しづつ充電されていく。

「どう? 直接芯に触られている感想は。」

「・・・だっ、だめっ!」

 グリグリと全身に同じだけ、同じ圧力のエクスタシーが生じる。魅琴は身体を捩る。善がらされているその無力感、絶望感。そして、快感。

 魅琴は顔を顰めた。彼女は絶頂を迎える時には声を上げない。ただぎゅっと手を握り、目をきつく瞑って、ビクッ、ビクッと身を捩る。

「可愛いわね。もう貴女は、私のト・リ・コ。」

 女は、桃色の珠を掌の中心に持ってきて、ぐっと握り締めた。魅琴の頭に向かって、桃色の霧が押し出されていく。

「ちょっと・・・またっ! また来るぅっ!!」

 男ならば射精というピリオドがある。しかし女にはそれが無い。天上すらないのかもしれない。魅琴はまるでマヨネーズかケチャップのチューブを踏みつけた様に意識と愛液が外へと噴射していた。ぶちゅっ、ぶっちゅっ。あられもない音を立てて、魅琴は潮を吹いてしまった。無上の開放感が魅琴の意識を支配する。彼女の頭はもう空っぽだった。

「ああ・・・うう・・・」

「アナタ、結構な術者ね? どう?私のペットにならない?」

「あう、タメある! 魅琴をヨガらせて良いのはコンだけね!」

 女は驚いて、後ろを振り向いた。部屋のドアをあけてそこに立っているのは金色の髪と金色の瞳、そしてサンタクロースのミニのワンピースと帽子!訳がわからない。恐らく玄関から入り込んできたのだろう。

「・・・アナタも私のオモチャになりたいの?」

「そんなのコンにはキかないね!」

 サンタはVサインをする。女は魅琴と同じように力の圧力をかけてやったというのに、新たな相手には全くの無力。コン・・・そう、今彼女はコンと名乗った。

「・・・コン・・・コン=ロンなのっ!?」

 女は唐突に訪れた絶望と恐怖に蒼白になった。コンを知っているという事はそれなりの存在であるのだろう。いや、“だった”と過去形で言うべきか。コンはニコニコしながら、攻撃の体勢に移りはじめた。

「金龍的淫媚術奥義!『玩具的少年』っ!!!」

 コンは金色の気を放った。女は渾身の力を振り絞って避ける。しかし、コンが狙っていたのは奥のほうでぐったりとしていたカップルだった。コンの気を浴びて、二人は飛び上がる。

「なっ? あっ!?」

 ほんの一瞬だった。女は二人から両手を捕まれていた。そう思ったときには見事に床へと叩きつけられる。

「もっ・・・モガ・・・」

 女の下の口で彼女の口はふさがれた。さらに、男は女の脚を開く。そしてコンの気に感化して腕ほども巨大化したペニスを激しく突きつけられる。

「♪とーいぼぃ とぃぼぃ なんたら〜かんたら〜とぃぼい、とぃぼーい☆」

 怪しげな歌を振り付けで歌いながら、コンはすっかりご満悦のようだ。どうやら人体操作の術であるらしい。魅琴はパンティを直しながら立ち上がった。少しぐったりしているものの、致命的なダメージは食らってはいない。

「クリスマスなんだからさぁ・・・もっとそれらしい技使ったら?」

「魅琴、我侭ね。んーそうあるな。『沈黙的夜』なんかどうある?『白銀積雪聖誕祭』もあるね!」

「・・・まあいいわ。」

 魅琴はクリスマスツリーを蹴り倒すと、おもむろに濡場魂を召還した。これから先は魅琴の独壇場である。

「散々甚振ってくれたからね。お返ししないと。」

 普段は皮のような蔓の濡場魂の先が、綿毛の様にふわふわとなった。それが女の身体にまとわりついた。

「なっ? ひっ? ひっ??」

「・・・名も無き淫魔? なるほど、よろしくやっていたカップルの所にもぐりこんで、それで上手く二人を物にして・・・って感じだったのね。ご苦労さん。」

「うっうっうっうっ ひーっ! ひーっ!!ひーーーーっ!!」

 綿毛は容赦なく、そして先ほどの恨みを込めて脇腹やわきの下、膝の裏はもちろん足の裏にこちょこちょこと小刻みに動きくすぐっていた。彼女の顔に乗っていた女は、自分の女陰を彼女の鼻に押し付けて、顔中にその愛液を散らしている。男は相変わらず、ピストン運動を続けていた。三重苦、といえる状態に女は苦しげな笑い声を上げる。

「笑い死になさい。最大限の後悔と共に。」

「ひいいいいいいいいいーーーーーー!!」

 女が絶叫を上げると、その身体はふわりと消えた。濡場魂がその生気を吸い取ったのである。

「ところで魅琴、どうして本気出さなかったか?」

「バレてた?」

 カップル二人から邪気を祓ってやって、魅琴とコンは夜の道を歩いていた。ツリーが呪的なエネルギーを発していることぐらい部屋に入る前から分かっていた。魅琴はあえて、夏の虫を演じて見せたのだ。それが彼女の捻くれたところであるのだが。

「・・・実はアナタのお手並み拝見したかっただけ。」

 魅琴はぺろりとコンに向かって舌を出した。コンが助けに来るだろうと高を括っていたのだ。もちろん、リスクの大きな賭けであるが、ギャンブルは代償が高いほうがスリルがあるものである。

「あうー、魅琴。魅琴が弱っちいとコン、詰まんないね。」

「良いよ。その時はね。 私がアナタを退屈させるようになったオシマイだけど・・・」

 魅琴は空を向いて、溜息をついた。

「退屈なんて、言わせない。」

「ぶーぶー、カッコつけすぎね。」

 魅琴は親指を下にして、ブーイングをしてみせる。

「まー、クリスマスだしね。たまには私がが気持ちよくなっても、バチは当たらんでしょう。」

「あーう! そんな手の混んだコトしなくても、コンが究極絶対絶命的絶頂感教えてやるのに!」

「それは最後のお楽しみよっ!」

 抱きつこうとしたコンをヒョイとかわして魅琴はコンを指差した。

「私だって、もっといろんな“快”を知りたいんだから。」

 魅琴の清しいばかりの表情にコンもつられて笑みがこぼれた。暫くは退屈しまい。コンは魅琴に逢えたことを、ほんの少しだけだがラッキーだと感じていた。


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