MIKOTO NO TUTAE 粘流編
タン、タン、タンタタン!
ボールが軽快に弾み、それを追う少女たちの息もまた弾んでいる。
阿根子市立第六カゴメ高校体育館、水曜日の午後六時は女子バスケ部の練習時間だ。パッとしないカゴメ高校の運動部の中でも、それほどパッとする方でもなかったのだが、つい先日キャプテンの座を譲った高岡香奈がガシガシと部員を引っ張ってきたお蔭で、今年の大会では県大会のベストエイトまで手が届くほどに成長していた。
残念だったのは、瀬戸際になって選手不足による無念の不戦敗を喫したところだろうか。だが、今は総勢12名、多いとは言えないまでも、十分に雪辱を果たせる人数であるし、勢いも十分に、ある。
ユニホームは第六カゴメ高校のイメージカラーの淡いオレンジ色。紅白戦のゼッケンを背負った選手たちが茶色いボールを追って一丸となる。今は3on3で実戦の勘を鍛えているところだ。
するりと、右往左往する選手たちを、風の様に優雅に駆け抜け、一人の乙女が先んじた。呆気に取られる少女達を余所に、香奈の軽快なドリブルはあっという間にディフェンスを掻い潜って、ゴールへと翔けていく。
華奢な体がフワリと浮かぶ。背の高さが重要な要素となるバスケットでは、背の低さはジャンプ力で補うほか無い。高岡香奈のジャンプは背丈を補って余るほどの飛力を持つ。。自分よりも高いディフェンスよりもさらに高く舞い上がり、彼女はゆっくりとダンクシュートを決める。見事すぎて、映画の様に、スローモーションに部員達には映った。
「反応遅いよ! ほらっ、すぐにポジションに着く!」
香奈の激が飛んで、敵も味方も我に返ってポジションへと急ぐ。控えの選手だけがハァ―と、うっとりとした溜息を吐きつづけていた。
「センパイ、凄すぎですよー」
香奈の幼なじみの、菊池沙夜が明るい声を投げかける。彼女は香奈が居るものだから、美容運動のつもりで入部したのが、いつしかバスケの醍醐味に目覚め、香奈のサポート役に回っていた。
「さいきん調子良くってね!」
背の高い沙夜を見あげるように、香奈は明るく微笑むと、すぐに真剣な表情に戻って駆け出した。バスケットはテンポが速い。すぐに気持ちを入れ替えて、今度はディフェンスに徹する。相手のドリブルが無防備になる一瞬、香奈はボールを手にしてパスを繋ぐ。
「楽しそうね」
夏の雨後の様に爽やかなバスケットコートの雰囲気にはそぐわない、ネットリと湿った声が、 二階の、屋内テラスから体育館に響いた。黒岩サキエ、3年生。中途半端なロングの髪と、ちょっと寄り目がちでキツイ表情は、カゴメ高校の近寄りがたいランキングで、かなり上位に食い込んでいる。
「えーっと、何か御用ですか?」
練習中なので、控えの矢沢文子が声をかけた。まだ初々しさの残る新入生で、無論、相手の無礼な態度に内心少しむっとしているのだが、それはそれ。にこやかに接してみる。
「………処女は少なそうね」
「は?」
内心、どきりとした文子が聞き返す間もなく、サキエは値踏みをするように、駆け回るバスケ部員たちを爬虫類の眸で舐り回す。変質者が、少女のボディラインを視線で犯しているかのようだ。生理的な嫌悪感が生じて行く。
「まぁ、質より量よね。コレだけいれば、あの方も満足して頂けるでしょう」
物凄い表情をするサキエ。人の顔がこれほど歪むのを、文子は見るのは初めてだった。他の部員達も、得体の知れぬ気配に押されて、練習の手を休めて怪訝そうに、場違いな闖入者を見あげていた。
どどどどどどどどどどどど………
何の前触れもなく、センターサークルから水柱が出現した。
人間の理性は、異常な事態においても納得の行く理由を勝手に作成する。二階に気を撮られて足元がお留守になっていたバスケ部の全員は同時に、水道管が破裂したものだと推論した。ダムが決壊したかのように、床が見る見る水に覆われて、膝から下が濡れていく。それにしても、濃い緑色で、見つめていると気分が重く、悪くなる代物だった。
「っ?! 足がっ!」
冷静だった者は、足が動かない事に気がついた。単に水流が重いだけではない。がっちりと、コンクリで固められたかのように、足を取られていた。溢れる水が驚くほど素早く体育館を満たしたときには、それが普通の水でないことをバスケ部部員達は感じていたが、どう表現していいのか判らない。
「いやぁあああああああああああぁああ!」
絶叫、絶叫、また絶叫。阿鼻叫喚とはこのことだろう。
三人の少女が、この時点で正気を失っていたのだが、更なる狂気の声が上がる。水が身体を這い上がってきたのだ。
「魔界の欲望の沼から吸い上げた淫の沼。この水で溺れた者は、次に意識を取り戻したとき…セックスしか頭に無い、淫乱狂になれるのよ」
魔界だの魔力だのといわれても、普段ならば狂人の戯言だと聞き流したであろう。既に異常の状態に突き落とされている彼女達には、本能的に貞操の危機だけが察知された。そして実際、それだけ判れば十分であった。そして実際、判ったところでどうすることも出来ない事態に追い込まれているのであるが。
「あはははああっ! あっ…ふっぅ あぅ………」
「えへっ… えへっ…… 染み込んじゃうよぉ……」
不快だったのは一瞬だけ、意外なほど心地よい香りと、温もりに覆われて、メンバーは抗う事を少し忘れてしまった。
少女の内部に、女が浸透する。疼き、切なさ、眠っていた“性”が目覚め、発現しようとする。
ユニホームは程なくグチャグチャに溶けてしまい、残るは全裸の少女たち。こう言う場所でなかったら清水に遊ぶ妖精にも喩えられる、微笑ましくも美しい光景だっただろう。だが今から始まるのは、淫欲の魔宴。夜に魔女達が山羊顔の魔王と外界の情を交わすが如き淫猥極まりなき肉のカーニバル。
「あなた達の本性を剥き出しにしてあげる。あなた達が知らん顔で養っている獣を、解放してあげるわ。そして、あなた達の居たところに、私と同じ、あの方の眷属が換わってあげるのよ。感謝しなさい」
サキエの顔が、狂気の色に染まる。それは般若の相。人ならぬものへと変貌した相だ。
「文子ちゃん! シッカリしてっ!」
「だってぇ、きもちぃンですぅ…ぉ………」
つい先日、文子は彼氏に処女を捧げていた。その時に知った女の悦びは何物にも換えがたい。それは、一度火がついてしまうと、身が焦げるまで欲望の炎は燃え盛る。彼女は彼女自身の性(さが)を知ったばかりだった。悩ましく身体をくねらせながら、外世の歓びを少しずつ堪能し始めて行く。
トロンと緩んだ瞳、昂揚した頬、明らかに彼女は性感を感じている。他の部員達も同様だ、程度の違いはあれど、普段の状態からバスやトイレやベッドで居る時の状態へと身体は早々に移行し、喜びにその身を溺れさせる。
「せっ、センセェーっ!? 富永センセェ!?」
沙夜は感極まった自分を誤魔化すべく、顧問の富永先生に助けの悲鳴を上げた。32歳、空手を齧っている大柄の男性教師。普段は教官室に引っ込んでいるもの、彼女達の危機なら飛んできてくれる。いつしかも、覗きに来ていた変質者をぐうの音も出ぬほど叩きのめしてくれたばかりだ。
「ああ、もう、あの人は人じゃなくなった。私と同じに、なっちゃった」
ふふふ、とサキエが嘲笑った。教官室で、彼は己の生み出した精液の海に沈み、希にぷかりと、背中が顔を出した。
少女達の殆どは、自慰を経験済みだったし、他人の愛撫を受け入れた者も少くなかった。だが、粘体から蹂躙されるのは、誰もが初めてである。
全身をくまなく、舐めまわすように粘液が這う。五指が渦に飲み込まれ、指の股の部分を、心地よくこそぶられる。
「あっ……… あっ……… あっ…………」
渦によって広げられ、固定されたクリトリスが、渦の吸引力によってより大きく吸い出され、勃起させられる。
「あーーーーーっ……… あーーーーーーーーっ……… あーーーーーーーーっ…………」
膣が大きく広げられる。粘液がドリルの様に膣壁を押し広げながら、少女の胎内を、抉る。襞で一杯でサーモンピンクの艶やかで瑞々しい少女達の秘所が、大胆に、それでいて繊細に蹂躙が行われる。
「あっ……… はっ………… はっ………… あっ…………」
遮蔽物があれば、押し除けようとして、摩擦が生じ、摩擦は、震動を生じる。それらは須らく、心地よいものとして感じられる. 性感を掘り起こす、微妙なバイブレーションが体育館のアチコチで生まれ、互いに共鳴しつつ少女の一人一人に戻っていく。。膣壁の襞の一枚一枚、いや膣細胞の一つ一つに生まれ変わった刺激が流れ、少女の全身へと響き渡る。
「あっ………あっ………あっ………あっ…………」
ただ、突き上げられるのとは違う、ただ、抜き差しされるのとは違う。男との性行為を済ませた者は、知っていると思っていた女の快感が、只の幻想に過ぎなかった事を教えた。経験が無い者には、想像していた快感が、全くもって見当ハズレであったことを身に染みさせていた。全員を隈なく弄ぶ傍らで、少女の一人一人に合わせた、的確な愛撫が繰り返される。
「あっ! やっ………そんな……… あっ………」
膣の最奥を穿られながら、子宮頸部をノックする。胎児のみが安楽を得るべき子宮腔にも妖水は涌き入って行く。卵子が眠っている、卵巣へも卵管を満たして到達する。ここまで来ると神経細胞は少なく、内壁を抉ってもそれほどの刺激は与えられないが、女性器の中心全体が異常の震えを生じる事により、男に、様々な体位で突かれているかのような甘美な痺れがその身を支配する。
森岡千恵美はまだ膣の快楽を知っていなかったが、執拗にクリトリスと、膣口の入り口を責められて、段々と火照っていく自分の身体を押えられなくていた。自分の中で今までの自分とは違う何かが首をもたげ、今までの自分と取って代わろうとする。
幼い乳房にちょこんと乗った乳首が胎内と連動している。捏ねられ、吸われ、揉み出される。
「あっ、はっ、あっ、あうっ、ああっ、あっ、あっ、ああっ?」
彼女の尻がツンと突き出されると、待ってましたと言わんばかりに、粘流がアナルへも差し入れられる。
「ああっ、ははっ、ああうう、ああああ、ああ、あーあーあーあーあーーーー」
直腸粘膜が翻弄される。そこは子宮と紙一重の位置にあり、的確な刺激を刷り込めば、膣とは異質ながらも絶頂に達し得る快感が沸き起こる。直腸から大腸へ、そして小腸へと淫水は逆流する。小腸の繊毛を優しく撫でながら毛細血管を透って血流に乗り、心臓へと到達する。後は自動的に全身へと、快のパルスを広げてやればよい。
千恵子の顔は、まるでクシャミを堪えている時の、くしゃくしゃの表情だ。首より上が真っ赤に腫れあがり、一見醜くすら思える表情であるが、女が気持ちよくて気持ちよくて、魂さえ吹き飛んでしまう一歩手前、いや、絶頂を繰り返して訳がわからなくなっているとき、本当に愛している男にしか安心して見せられない全ての仮面を取り外したときの貌。それを彼女は、友人であり仲間である同性に恥かしげもなく曝している。
「あっふぅぅ……… うぅうん…… ああぁぅ…………」
「そんな声、出さないでぇっ!!」
香奈の絶叫も虚しく、千恵美の身体は淫らな声を上げながら粘液の泉に沈んでいった。彼女は終いまで、艶のある声を絶やす事は無かった。彼女が沈んでからも、他の部員達の上げる声はより大きく激しくなり、肉の林に木霊が響く
「ちえちゃんばっかり……… ずるいぃ………」
一人の少女がうめく。小柄で、まだ未発達の部分が残るが、アンドロギュノス的な妖しい美しさがあった。
「あたしももっと、きもちよくなるんだもん! おしりもあそこも、おっぱいも、きもちよくぅぅううっ!!!!!!」
唄うように、確かめるように、比良良美は自分から体を動かして、快感を貪り喰らう。小ぶりな乳房を両手で揉みしだきつつ、人差し指で懸命に、赤い突起を突付いている。肉付きのよかった千恵子への嫉妬心なのか、彼女は少しでも多く快感に目覚めたかった。己が意思で歓びを高めた分、早々に沼の魔力に引き込まれていった。彼女の様に焦点の合ってない目は、そこかしこに有った。
「きーもーちーぃー おぉ…おまんおぉ………おまんこぉ、ぐちょぐちょぉ〜 きぃもぉちぃぃい〜〜〜っ」
現実感を失った清原芹歌は、淫猥な言葉を吐き散らかした。お嬢様風の彼女は大人しすぎる自分を変えたくてバスケ部にはいったのだ。だが、今は変わりすぎていた。清楚だった以前の彼女では考えられない言葉を存分に喚いている。その所業は、他の部員達の心持をおかしくするに十分なほど、白痴美とも言い得る、不思議な魅力を発散していた。
「そんなんじゃ……… そんなんじゃないじゃん! みんな、そんなんのために頑張ったんじゃ、ないじゃん!!」
菊地沙夜が慟哭していた。辛かった。同じ青春に燃えていた同志達が、こんなところで、こんなことで失われていくのだ。無論、彼女自身も、身が火照って仕方が無い。彼女の豊満な胸なんて、触っただけで爆発しそうだった。
だが、それに耐えた。いや、耐えざる得ない。耐えられねば、自分自身が失われてしまうのだ。別のものに、取って代わられるのだ。どうしても、自分は、人間で居たい。本能よりも大きな叫びが、彼女の中で渦巻いていた。
以前からただならぬ仲だと噂されていた一ツ沢理佳と皆川夢乃は、一つに成っていた。二人は抱き合い、互いを支えあう事で沼の深みに対抗していた。
理性が、少しずつ、的確に削られていく。それでも二人は、互いを、自ずから愛し合う事で、妖快の進行から逃れようとしていた。
「き…………きす……… おいしい………」
「りかちゃんもぉ……… おいしいょぉ………」
虚ろな瞳で、ぎこちない技巧ではあるが、年下の夢乃が奥手な理佳をリードして、二人の世界へと入り込んでいた。鍛えられ締まった若い肢体が絡み合う。淫らながらも美しい二人の競艶は数々の女体の柱の中で一層際立って光り輝いていた。
だが、支え合う二人のバランスは、コマが勢いを失うかのように螺旋を描き始め、いつしか、性の魔力へ引き込まれるかのように、水面下へと消えていった。
「みんな……負けちゃダメ……」
とりどりに舞う女像のなかで、香奈が喉を振り絞った。彼女の意を受けて、沙夜が腹の底から声をあげた。
「ファイトーーーォッ!」
「「「「「「オウッ!!!!!!」」」」」」
身体への刺激も一瞬薄れた。が、香奈を含めて六人の声しか返らなかった。残りは口を閉ざしているか、だらしなく開いた口元からユダレを垂らし、どろりとした粘液が彼女の咥内さえも侵し尽くそうとしていた。既に溺れたものも居る。何故かぱっくりと開いたサーモンピンクの股間が、新たな彼女の唇なのだろう。
「頑張るじゃない。なかなか、良い精神を持っているわ。これなら、かなり上位の方が入り込めそうね」
先ほどから様子を見ていたサキエが口を開く。彼女の台詞など誰の耳にも届いていないのだが、独り嬉しそうに、感想を洩らす。少女達は儀式の寄り代、燭台の役割も果たす。彼女はその配置を、最終的にいかに形作るかに余念が無いのだ。
「もう一味つけてあげる。こんどはどこまで頑張れるかしら」
「いやぁああああっ! あはぁあっつあつあつあああぁはあああ!!!」
残っていた少女たちに、一斉に、どうしてもっと早く陥落しなかったのか、後悔が走った。体にこびり付いた粘液が熱く燃え立って、肉体へと本格的に浸透してきたからだ。肉人形達は束の間の生気を取り戻す。
―オンナにされる―
直感的に、そして現実として少女たちは変化を察知した。それは破瓜の意味でない。彼女等の体つきが、物理的に、少女のものではなく大人の女性のものへと変貌していったのだ。それに伴い、性感帯は強制的に発達させられる。今まで感じなかった膣口入り口のちょっと奥、Gスポットと呼ばれる器官が、皆、発達し、具わった。
躯がすらりと伸びていき、程よく丸みを帯び、腰がくびれ、尻タブのラインが、しっかりとしたハート型になる。変化は特に、乳房に強く起こった。未発達だった乳腺が発達し、甘い母乳が苺のような乳首から染み出す。
「んあああああぁぁぁ………」
香奈がとうとう、顔を顰めた。強い電流としか言い様の無い、痺れるような、気を抜くとフワリと飛んでいってしまいそうな、甘美な眠気。そう、よく晴れた春の木漏れ日を感じながら、温かな布団に包まれて、安らかに眠りたい、強烈な快感とは裏腹に、非常に穏やかで、しかも拒否しづらい誘惑として感じられていた。
「で………で……… でちゃうよぉ………」
「おっぱい……… ぴゅーぅぴゅー、しちゃう!!!」
「ふふふ、たくさん感じる熟したボディにしてあげたわ。私の刺激も格段に良くなったでしょ?」
確かに、サキエの言うとおりだった。くすぐったさが雑じっていたさっきまでの感覚は、性感以外の感覚では捕えられなくなった。全身の神経が快以外の刺激をシャットダウンしたようだ。少女として美しい女性は憧れであり、その憧れの肉体を手に入れた喜びは大きい。だが対価として要求されるのは、自分自身だ。その選択は有り得ないのが普通だろう、それが普通の状態ならば。
毬のような乳房が弾んでいる。快楽に焼き尽くされるが如く、女の林が業火に包まれたかのごとく揺れ動き、蠢いている。全てを吐き出し、理性さえも搾り取られたものは速やかに水中に没し、新たな寄り代へなるために、束の間の休息を得る。無論、二度とは元へは戻れまい。
少女達の肌は、薄っすらと、緑色に輝き始めた。彼女達を貪る、沼の色だった。体液が妖液へと取って代わり、細胞の一つ一つが真水ではなく別世界の分子を吸収する。乙女達の躯そのものが、この世のものでは無くなって行く。嫌悪感を感じる余裕は無い、あらゆる変化には性感が付きまとい、その度合いは著しく増幅されていった。
「………マサキ………ゴメンネ……… ……アナタに……アゲタカッタ………」
屈辱と随喜の両方の涙を流しながら、島村弥生子が陥落した。胸を揉みしだきながら、彼氏の名を呟きながら、情欲の炎に取り込まれていった。彼女が沈んだ跡には、乳白色の濁りだけが残って、ゆらゆらと漂っていた。
「センパイ………私、センパイにずっと憧れてて………センパイみたいに成れたらイイなって………」
沙夜の乳首から、とめどなく、びゅうびゅうと母乳が溢れ出した。壊れた蛇口の様に、唾も垂れ流し、そして愛液はダラダラと、沼の色を薄めるほどの量が流れ出していた。
沙夜の身体は、円熟した女性のものに変化を遂げていた。元々、グラビア体型だった彼女である。それが益々成熟して、ハリウッドでも通用しそうな激マブボディに変容していた。今の彼女なら、ブラビだろうがキアヌだろうが、簡単に陥としかねない色香を放出する。まんまるく、Fは越えていながらもまったく張りと弾力を兼ね備えた乳房と見事なS字を描いた背中の曲線、臍のあたりの腹部の見事な造形、逆ハート型でまろみを帯びたヒップ、力に満ち溢れた四肢は機能美に溢れた流線型だった。
そしてとめどなく、涙が溢れていた。苦しみと、切なさと、狂気と喜びが入り混じった、なんとも着かぬ表情で、ただ香奈だけを見ていた。彫りの深くなった眼窩から光が、古くなった豆電球の様に、吹き消される直前の灯火の様に、儚く揺れている。望んだ艶気ではないのだ。己が蝕まれ、侵食されているのだ。
「しっかりしてッ!」
「でも、もう、ダメです………私………センパイみたいに成れません………」
完璧なセクシャルアピールを持つ肉体が、狂喜に打ち震えながら、言葉を絞り出していた。胸の谷魔や密林と化した叢が揺れる。フェロモンを含んだ匂いが視覚できるほど大気に流れている。同性だとしても、妖気とも言える魅力に屈服し、その体に埋もれたくなるだろうに。それでも香奈は耐えた、彼女自身も涙を流しながら、沙夜の次の言葉を待った。二度と言葉を聞くことは出来ぬかもしれないと感じたからだ。
「私は………エッチに………」
にぃぃ、笑みで歪んだ沙夜の貌には、一片の理性も認められなかった。一瞬正気に戻った瞳も、ぐるりと白目を剥いて、自分自身の欲望に飲み込まれて行く。香奈の涙は、濃い緑色に変わっていた。身体は変わってしまっても、まだ心は変わらない。そして、涙も止まらない。
どぼん、引っくり返った彼女の股間がイソギンチャクの様に淫靡に、ぷかりぷかりと浮いている。まるで香奈を誘っているかのようで、彼女は慌てて目を逸らしたが、彼女の周りには、かつて彼女と同輩だった少女達の陰部が、最後の仲間を求めるが如く、香奈へと迫りくる。残るは彼女、独りだけ。
「や………来ないで………」
沙夜の陰部もあった。弥生子の性器もある。文子のも、千恵美のも、芹歌のも。ついさっきまで共に練習に励んでいた仲間達が、淫欲に飲み込まれ、すっかり上下半身が逆転してしまっている。そしておねだりするかのごとく、ぱくりぱくりとその淫口を開閉させている。舌の唇の動きは、香奈にはこう読めた。
カ・ナ・チャ・ン・モ・オ・イ・デ
「いやぁ………」
香奈は恐怖に怯える。強大な快の渦に呑み込まれ、違うものになってしまう恐怖。そして自らの中に息づく、“換わってしまっても良い”と、変化を助長する部分への恐怖。それは快楽のためには自らを含む全てを破壊できる、人間の業そのものでもあった。一人の女子高生が、己の心の中とは言え予告もなしに対面するには、余りに大きく、暴力的ですらあった。
「おかしいわね。普通だったら、ソロソロ飛んじゃうもんだって思ってたけど」
確かに、香奈の意識は絶え絶えだった。強烈な絶望と、強烈な快感に、アチラの世界に逝ってしまいたくなる。だが、香奈自身驚いているのであるが、まだ、冷静な自分がいた。まだ、本当に壊れることは無い。少しずつ溶けかかってはいるものの、まだ己の、意識を保つ事が出来た。与えられているのが、人外の快楽だというのに。
だが、もうそれも限界だ。少しずつ、彼女も壊れ始めていた。発達した乳腺を透過する母乳の刺激が逐一、背中をゾクゾクさせる。爆発しそうなアソコとお尻、触れればペニスの様に射精してしまうかもしれないほど、高まったクリトリスをどうすればいいのだろう。
ぴゅーっと、全てを放出してしまいたい。自分を壊してしまいたい。
………もう………だめ………みんな………ごめん………
香奈は自分の短い一生を懐古した。初めてのランドセル、初めての恋、初めてのデート、初めてのキス、初めて彼のものを受け入れた時の痛みと喜び。そして、初めての別れ。二度目の恋………。
それら全てを投げ打って、今刹那の快楽に身を任せたい。チーム達と同じように、自分も永遠の忘我に漂っていたい。その先には何も無いのだろうけど、今の苦しみから解放されるなら、悪魔に魂を売っても高いとは思わなかった。ギリギリの、人間からの脱落。
薄ろぎかかった視界に、妙なものが映された。薄れかかった意識が、ぼんやりと呼び戻される。
バシャバシャバシャ…と水しぶきが上がっている。初めてプールに入った幼児がやりそうな、派手なバタ足だ。阿寝子高校の制服にピンクの浮き輪、という奇妙な格好で泳いでいる。ちらちらと見えるすらりとした足、黄金色の長髪を持つ女子生徒はこの高校に一人しか居ない。
我に返った香奈はその主を思いだした。たしか、1のBの中国からの留学生で、名前はコン=ロンとか言ったはず。マジマジと見詰られてコン=ロンの方も視線に気がついてか、ぴょこんと頭を下げる。
「あう? オヨビでなかたか? これまたシツレイしたネ♪」
「ネタがイージィだよ」
ビクッ! 二階のサキエは、声の方へと振り向いた。彼女の隣にはさも当然の顔をして、八重垣魅琴が手すりにもたれかかるように、浮き輪をうち捨てたコンの優雅な背泳ぎを眺めていた。ちなみにコン=ロンは浮き輪なんて無い方がうまく泳げるのだが、それはそれ、気分である。
「全く、学校の危機管理ってばどーなってんだろね。確かに私も気がつかなかったけどさぁ、こーいう学校なんだから、生徒の自主管理をアテにするのもどうかと思うんだけど」
香奈はぼーっと、魅琴の声を聞いていた。彼女の声は、確かに聞いた事がある。だが、今まさに快楽に埋もれようとしているというのに、魅琴とコンの声を聞いていると、何故か生気が満ちてきた。心に張りが戻ってきた。助けてくれるとは思わなかった。もう少し、踏ん張れるかもしれない、何故かそう、確信できた。
ちなみに、一人世界水泳モードのコン=ロンは、B'zの「ultra soul」を口ずさみながら、体育館の端から端までバタフライで往復しはじめた。息継ぎが必要ない彼女だからこそ可能な芸当だ。
「自分だけ高みに立って、講釈垂れるのはフェアじゃない」
魅琴はキツイ視線を叩きつける。サキエは気押されて、思わず後ずさる。
「タネを蒔く必要もねーや」
魅琴は呟き終わる前に、逃げることを忘れていたサキエの胸倉を掴むと、ヒョイと、情欲の沼地となった一階へ叩き込む。飛込競技では点が取れないぐらい、大きな音と水飛沫が立つ。
「っぷっ!! タスケテっ!!」
サキエ自身が呼び出した淫なる水に流されて、サキエ自身が、助けを口走る。
一瞬の事であるが、魅琴はキレた。ほんの一刹那であるが、魅琴は本気でブチキレた。召還した存在をコントロールできない。逆を言えば、コントロールできない存在を召還したわけだ。その軽率さ、傲慢さ、無神経さが許せない。
恐らくは、このサキエという少女にも異界の者が入り込んでいるのであろう。元の人格は破壊され、抜け殻となった肉体に、所謂霊と呼ばれるモノ、もしくは次元を異とする存在が、この世界での寄り代として人形の様に使用しているのだ。普通ならば、若干の意識が取り戻せたとしても己の思うままに成らぬ肉体により、残虐無比なる外道の業を行わされる事で、何時しか、完全に壊れる。だが、それを良しとする者も居る。壊される事で腐っていくのか、元から腐っていくのか。どちらとも、魅琴はキライだ。あたかも、自分の腐った部分を見せ付けられた気分になるから。
だが、魅琴は己が、己をコントロールしている自負がある。腐ってなどは居ない、そう言い聞かす。まるで自分を罰す気分になっていた気分から普段の自分を取り戻し、手を下すのを止める事にする。そうだ、どうせやるなら、もっとドギツい方が良い。黒い部分が彼女自身にそう囁く。
「じゃ、コンさん、お好きなよーにヤッちゃってクダサイー」
「了解ある〜」
ずっ、ずずず。胸まであった水位が徐々に下がっていった。サキエを中心に水が引いて行く。否、サキエの身体に、水が吸い込まれて行く。今の彼女の身体は、水風船とさし変わりない。
「あっ、ひゃはやはあっ!! ははやだはやあやっ!!はよほぉほうぉぉあおは!!!」
なんとも言いがたい声をあげるサキエ。彼女の服は早くも消化され、貧素な裸体が暴れている。魅琴は、顔を背けない。もし可愛い姿が醜く変化する様ならば、もう少し熱心に見ても良かったが、元々醜悪なものである。それでも魅琴は顔を背けない。見届けるのは、自分以外のものに対して自らが決めた行為に対する、最低限の責任だと自負しているからだ。
魔界だろうが異界だろうが、コン=ロンにしてみれば、たかが人間に呼び出せるものである。操る事など造作ない。サキエの身体は、体育館中に浸水していた魔水の全てを飲み込んで膨れ上がり、土座衛門というに相応しい姿になった。
はしたなく拡がりきったサキエの陰部は、拳ぐらいなら平気で飲み込みそうだ。彼女に染み込んだ欲求が、彼女の肢体をより一層貪欲なものに変えてしまった。魅琴はそれを見て、ガマガエルを想起する。
「こんなのでどうかな? 求めても求めても、多少のせーえきでは鎮火できない轟欲に身を焦がされつづけるある!」
「焦熱地獄ってわけね。OKじゃないかな」
と、喋っている間にもサキエの身体は変貌を続けた。足は小さく退化し、腕は膣とアナルの両方へと潜り込む。頭が臍の方へと曲って、巨大になったクリトリスをぱくりと咥えると、団子虫の様に丸まった。巨大だった身体も凝縮を始める。
「あ、自家発電しだしたね!」
バスケットボールほどの大きさになった“それ”を、コンは掌に載せた。ぷーん、と、低い音を立てながら、サキエだった物体はバイブの様に震えていた。己で自分を慰める。彼女に閉じ込められた淫の力は、鎮められるまで永久に、彼女自身のためだけに動きつづけるのだろう。めんどくさいので、魅琴はあとで、適当に処理することにする。
「ま、それはそれとして、この娘たちどうしようかぁ…」
改めて、魅琴は辺りを見渡した。邪気は消えたといえ、体育館には異界の喜びに浸ってしまった少女たちが総勢12名、全裸で、時々痙攣じみた愉悦を上げながら横たわっている。無論、体育館の結界はそのままにしているので、誰か入ってくる事はないだろうが、男だったら間違いなく、速攻でズボンを下ろして、一番近い娘の上に圧し掛からんとするだろう。実際、魅琴もかなりムズムズしている。煩悩に任せて、犯って姦ってヤりまくりたいところだが、コンがいるので自粛する。
「あう、コンの提案! チョウキョウした後、ヒヒオヤジに売りつけるね!」
「………服をどうしようかと思ったんだけど………」
いつものコンの台詞であるが、思わず肯定しそうになって慌てて話題を逸らす魅琴。
「それこそコンの独壇場ね。魔法少女的コン=ロンのまじかる☆めいくあっぷで、グラマー三割増のエロエロぼでぃと欲情必須のスケスケコスチュームに早変わりある!!」
「淫乱三割増だろ? いらんいらん。タダでさえ人間じゃなくなりかけてるッてーのに、完全に人間じゃなくなっちゃう………っと?」
待ってましたとばかりに盛り上がるコン。ちゃんと見張ってないとこっそり何か仕込みかねない勢いだ。慌てて一階に飛び降りた魅琴は、ふと、高岡香奈と目が合った。
「高岡…香奈……… あ〜〜〜〜………しまったなぁ………」
「…八重垣さんと、コン=ロンさん? ………」
香奈は、改めて二人の名を呼んでみた。二人を、よくよく見つめてみた。
「や〜今の聞いてた? というか、聞こえてる?」
「人間じゃ無くなってるって! 本当なの!? 大丈夫なの!」
「あー、まー、この子達はねぇ〜……… なーんとか。 いやもう、何とかせざるをえんわ」
香奈の視線から逃げるように片目を瞑って、ぼりぼりと、頭を掻く魅琴。彼女がかなり困惑している時の仕草だ。倒れている少女達に関しては、丁寧に邪気を堕胎してやって記憶を少し弄れば、まぁ何とか成るだろう。が、それにしても手間はかかる。だが、香奈から懇願された以上やらなければなるまい。だが、当の香奈は………
「あーもー、しまったなぁ。コンさんが居るんでヘタに動くのやめてたのに、なーんで私じゃなくてバスケ部なんか狙ってんだって変だとは思ってたけど。アナタが絡んでくるわけかぁ、そっかぁ」
「わっ………私?! 絡むって何を?」
「アナタ、もう、当の昔に“ヒト”じゃないんだわ………」
香奈の顔が、凍りついた。その時彼女は、緋叉子により自分が破壊され、コンにより甦った事を、思い出した。