くのいち淫法帳〜妖根魔胎の巻〜
昼なお暗き根来の魔窟。入る時には人であっても、人であり続ける事は出来ない魔道の穴。 しかし冥府の入り口もここ暫くは鳴りを潜めている。神の受肉、玄牝であるカスミの身体を借りた 邪神の降臨の秘術が行われるのである。邪神といえども神は神、厳粛に準備を行わなければならない。 違世の存在を顕在させ、そして送還させるためには古来より伝わる邪なる英知を結集させても なお細心の心配りが必要となる。幾人もの術師が招聘され、結界や道具の作成に取り掛かった。 逆に、無関係な者達は場所に移された。場を汚すからである。 アザミが操っていた妖ミミズ等、化生の物達も他所の調教場所へ赴任する事になった。 そして、儀式に参加するものは強制的に五日の禁欲が義務づけられた。 性はもちろん、衣食や就寝にまでその範は及んだ。
当然、神の嫁となるカスミに対しては最も厳しく規律が課せられる。 食事はまだ良いとしよう。しかし、合わせ鏡の秘術を施され、 己の肉体に溺れたカスミに、“禁欲”とは拷問以外の何者でもない。 何もせずとも、犯し犯される感覚が絶え間無く彼女を襲っている。 それこそ寝食を忘れて喘ぎ続けているカスミに人並みの事を期待する事は出来ない。 だからこそ禁欲は“強制的”になる。
肌の感覚を遮断するため、鹿の皮をなめした服を着せられた。 いや、巻き付かされたと言うべきか。 身体に密着する冷たい皮膚感が、カスミの全身を覆い尽くし、固い獣皮がカスミの自由を奪い去る。 更に両手両足につっかえ棒が当てられ、鎖で巻かれる。 とりあえず自慰を行うことは出来ない。さらに、断続的に彼女に襲い掛かる性の感覚に 溺れさせないため、ひっきりなしに鞭を打たれる。
目隠しをされ、猿轡をはめられ、 日に三度、食事代わりの丸薬を飲み込ませた。 斎浴の替わりに、真水を打ち浴びせられる。叫び声さえ上げる余地がないカスミであるが、 それでも機械的に作業は進められた。そう、彼女は既に人ではない。 邪神の胤を育むための道具にすぎぬ。そして、儀式の日がやってきた。
丑の刻の闇の中で東の方角に真っ赤な妖星が輝く夜。 だだっ広い草原に、風がざざざ、ざざざ、と吹き抜ける。するとどうだろう。 驚くほど静かに、するすると草原が割れた。八角形の部屋の天上が失われたと思って良いだろう。 切支丹の教会とやらに似た部屋の壁にはさまざまな色で彩られていた。
部屋の真ん中に大きく円とそれに接するように五芒の文様、そして人外の文字が描かれている。 五名の女達が星の頂点に独りずつ正座している。じっと目を閉じた彼女らの肌は生気無く、人形の様に白い。 巫女の衣装を纏っているが、袴と帯の色が左回りにそれぞれ白、黄、青、赤、紫。 年の頃は十六から三十路前後と思われる。共に、美形。
彼女らの成す陣形の中央には一抱えもありそうな黒の玉が鎮座している。 石の様な鉱物の様な不気味な塊には怪しげな呪紋が刻み込まれていた。 そしてカスミは、最も手が込んだ意匠の壁に磔にされていた。
拘束衣の替わりなのだろう、肩まである長い手袋と太股まで至る長い靴。どちらも茶色の皮製。 そして白の、かつて忍装束として身につけていた様な薄い紗をまとっている。 幾日にも及ぶ不眠不休の責苦によって息も絶え絶えではありながら、 カスミの瞳は爛々と輝き、服の上からでも乳首と女陰の疼きが見て取れる。
「この配置でよろしいのでしょうか・・・?」
カスミは魔法陣の中央に配置されるべきではないだろうか。 自らが知り得た魔道の常識とは少々異なっている。アザミは少々不安を覚えた。
「案ずるな。この儀はこれでよいのじゃ。」
声はすれども姿は見えず、くぐもった言葉は何処かの物陰から聞こえてくる。 根来の、首領であり祭司のお言葉である。
「くくく、己を忘れると、お主も取り込まれる事になるぞ。」
アザミはこくりと肯いた。調教役をやってはいるが、根来忍群のヒエラルキーの中で 彼女の地位は高いとは言えない。それなのにこんな重要な場所に居合わせて良いものだろうか。 もしかしたら、カスミの“養分”にされるのかもしれない。他に理由があるのかもしれない。 しかし、そうだとしてもアザミには拒むことは出来ない。なぜなら彼女もまた、クノイチだからである。
物陰から、始めはか細く、蟲が囁くような声が次第に紡がれていき鐘のような合唱となる。 根来の術者が念を唱え始めたのだ。今まで人形のように不動だった彼女らであるが、 呪詛のリズムにあわせて吐く息吸う息が大きくなっていった、肌に血の色が戻っていく。 冷たかった表情も段々と弛緩していった。
「「「「「ああ・・・」」」」」
五人の女がほぼ同時に、吐息と共に足を崩した。 彼女らの肌ははち切れんばかりに艶やかに生気を取り戻し、紅に染まる。 白衣の小柄な女がまず、押さえつけるように己の胸に手をやった。 まるで何かが溢れ出すのを止めるが如く、しかしその手も恥じらいながらも 少しずつ動いていく。
幼な顔の黄衣の娘が、床に両手を付いた。息が上がっている。 顔をくしゃくしゃにして、何かに耐えようとしている、が、次第にほだされていく。 青の服のすらりとした女が、始めに己の秘部に手を当てた。 赤の女がそのおおきな胸を二つの掌で揉み下す。 紫が最初に大きな声を上げた。
「はぁうっ!」
身体が次第に揺れていく。呪詛とともに体の中の炎が燃えあがっていく。 彼女らにはそれを鎮めることが出ない。つかの間の絶頂は余計に淫欲に油を注ぐ。
「ひいやぁっんっ! もっとぉっ!」
「あううっ あうっ! あうっ!!」
「ああ、、、果てるっ 果てるぅっ!!」
最初の貞淑さは微塵も見られない。貪欲、色魔、淫婦。さまざまな呼び方が出来る。 黄色の娘は未発達なその胸を床に押し付け、まるでの蛆ように蠢いている。 赤衣の女はその大柄な身体を横に震わせながら獣じみたうめきを上げ続ける。 彼女らが着ている服と同じ色の霧がうっすらとその身を覆い始めていた。 淫の気が形となって現れているのだ。
なかなか良い眺めじゃない。アザミは他人事のように五名の狂態を観察している。 が、これだけで終わるとは思えない。カスミの方はといえば、彼女らの気を受けて 眉をひそめて身を捩じらせている。しかし、もどかしい。懇願の表情を示す。
段々喘ぎが激しくなる。いつのまにか止んだ呪文の詠唱の替わりに、 女たちの叫びが室内を反響していた。どうやら果てれば果てる程、彼女らはその分飢餓感を募らせているようだ。 霧は次第に濃く、大きくなっていく。青の女の股に、つつと愛液が流れている。尋常ではない分泌量だ。 他の女たちも、最奥から湧き出てくる液体を止めることが出来ない。
「来るっ 来るぅぅっ!! あああっっ!!」
「まだっまだぁっ!! ああっ!!まだぁぁ!!」
羽化登仙の境に追い込まれれながらもなお妖艶なる輝きを瞳に秘めた彼女らは 何度も何度も絶頂を感じつつ、蟻が甘いものを求めるように、一時に魔法陣の中心へと寄っていった。 彼女らの衣服は帯が乱れ、しどけなく脱ぎ捨てられている。まるで脱皮した蝶のように 新たな存在と成りつつある、そんな生命力を彼女らは感じさせた。ただ、異様に凶々しい。
最初の異変が起こった。ナメクジのように粘液を垂らしつつ、 這進みながら埒を開け続ける五人の女たち。彼女らはほぼ同時に黒い石に到達した。 女達の求め合う筈の手はむなしくお互いの腕をすり抜けた。それが束ねられていく。
『まさか!混ざっていく!?』
さしものアザミも血の気が失せる。女達は求め合いつつも石を核にして奇妙な形に捩じれて融合してゆく。 まるで一つの柱のような形態を見せる。女達の躯が邪神の肉体となったのだ。
尤も美しかった少女の半身が西洋船の舳先の如く隆々と、 歓喜極まった表情で凍り付いていた。晴れ晴れしく開ききった瞳孔が光を乱反射させている。 彼女の腕や下半身は“神”の中に吸収されてしまったらしい。
八本の腕がゆらゆらと揺れる。女らしい肉付きはそのままに身体には妙に歪んだ乳房と、 まだ快感に歪み、喜びを露にしている顔が張り付いている。そしてカスミに向かってあの 黒い丸い石が瞳のように女体の真ん中に位置している。それは女達の割れ目が集まった巨大な洞に埋まり込んでいた。 ぎょろぎょろと目線が一致しないが、八本の腕は何かを掴むかのように天を抱こうとしている。
アザミは吐き気を覚えた。何が行われるのか分かったからだ。 そして神の所業が人知を凌駕していることを知る。しかし、カスミはその異形のものに対し 並々ならぬ期待を寄せている事が苦悩の影が消え輝きはじめた彼女の面が現していた。
のたのたと、足首より上が内没している十本の脚で魔法陣から出て行こうとする魔神。 一瞬障壁にでも当たったが如く、身を揺らせたがそれは女達の口から歓喜の声として上がった。 痛みではない。にじり寄ってくる巨大な影をカスミは受け入れようとしている。 早く、早く。急かすように腕や脚の鎖を鳴らす。ややあって、八本の腕がカスミを捕らえた。
「ああ・・・うう・・・」
妖しの掌はカスミの衣服、腕袋などを突き抜けて彼女に愉悦を与えている。 あるものは首筋を、ある物は胸を、ある物は腹を、ゆっくりと撫ぜまわしている。 指を使い、指の腹を使い、さまざまに織り成される愛撫の全てはあっという間にカスミに欲望の火をつける。 後はそれを、ゆっくりと大きくしていくだけ。
カスミの自由を阻んでいた鎖が、するりと落ちた。自由になる彼女であるが、 幾多の腕に捕まれている。それでもカスミは幸せなのだろう。禁欲が漸く破られる。 不自由でも己の快に繋がるものならば、それは願ってもない幸せである。 女の柱の乳房が移動し、ぶるぶると震えてカスミの身体に密着する。 カスミの乳房や太股に密着すると彼女は詰められた歓喜で爆発する。
唾液を垂らす女の顔が、カスミの唇を奪い、乳首を摘み、秘所を嬲る。 四人の女に、不可能なはずの体位で責められている。菊座に指を入れられながら、 背中を一斉に吸われる。乳を揉まれ、脚を持ち上げられ、そして服をずらし込むことで カスミの切れ間が露になる。邪神は唯独り愛撫に参加しなかった女根の角度を決める。 そしてカスミのふくよかな果実の中に顔がずぶりと押し込まれた。
奇怪、入るはずの無い物がずるりずるりとカスミの身体に割り込んでいく。 鼻が、目が、頬が通過する感覚をカスミの膣穴は確実に捕らえている。それでも張り裂けることも無く 少しばかりの痛みも感じることはなく、ただ粘膜が与える愉悦のみ、カスミは受け取っていた。 歪み尽くした胴に、カスミは声を上げるのも忘れてしがみついた。 女陰に嵌まり込んだ黒い石がカスミの様子を楽しんでいる。
ずぶりずぶり、ずぶうり。
二本の腕がカスミを支え、他の腕はせわしく彼女を慈しむ。髪を撫でながらも、 指をしゃぶり、尻を叩く。そうしながらも女の柱がカスミの胎内に飲み込まれてゆく。 まるで滝のように、どぼどぼと接合部から女の汁が流れている。 カスミは丘に上げられた魚のようにぱくぱくと口を開き、目を白黒させる。
ずぶうり、ずぶうり、ずぶぶうりぃ。
ゆっくりと、腰と呼べるほどの形と大きさではないが、大きく大きくゆっくりと、 角度を変えながら振っている。カスミはその度ごとに、うう、うううと唸りを上げる。 電撃のような快楽、まさに人外の愉悦が彼女を包み込んでいる。そして激しく破裂しているのだ。
ずぶうり、ずぶうり、ずぶうり、ずぶりぃ。
カスミではなく、四つの顔が呟いている。彼女らにも快楽が分け与えられているのだろうか。 それとも邪神自身の呟きなのか。それはわからない。ただ、その表情は魔性を秘めて妖しい。 ぎらぎらと光る瞳に射すくめられれば、気の弱いものなら直ぐに射精してしまいそうだ。
ずぶり、ずぶり、ずぶりぃ、ずぶりぃぃ、ずぶりぃぃ。
段々、腰の速度が速くなり、女達の息も激しさを増す。まるで小さな渦巻きのように 忙しくカスミを弄くっている。カスミは激流に飲まれる船。彼女自身にも恐怖が渦巻いている。 今までのとは段違いの高みに持ち上げられる、実感が彼女にはあった。 未知の世界が開けることへの恐怖が無いわけではない。が、それもむなしく打ち破られる。
『『『『ああああああああんんんんん!!!!!』』』』
四っつの口から絶頂を示す叫が上がる。もう一つの口は、カスミの胎内で悪魔の胤を吐き出している。
「うううああああ!!!!」
まるで妊婦の様にぼこりと腹が膨らんだ。そして、元のようにぼこりと凹んだ。
「はっ・・・入っていく・・・沁み込むぅっ!!!」
『『『『はあああああああんんんんん!!!!!』』』』
ぼこり、ぼこり。膣からは一滴の液体も零れ落ちてはいない。 カスミの胎内に注入された魔界の精はいずことも無くカスミが吸収してしまっているようだ。 “玄牝”故の所業か? 異界のモノとの交わりに常人が耐えられない事をアザミは知った。
「うっ!! ああっ!!! うつ!! ああああつ!!」
邪精を吸い込む度にカスミの脳裏に“異界”が写る。 五人の女であり、邪神のかりそめの肉体だった物が一段と蠕動し、そして縮む。震えては縮み、震えては縮む。 その脈動はカスミの腹が膨れるのと期を一致して居る。その度に彼女らの口が声を震わす。
カスミは今まで黙っていたのが嘘のように叫びをあげた。 悲痛なまでに喉を震わせ、ありったけの息を悲鳴に替えている。それでも彼女は飲み込まれてしまっているのだ。 大いなる波動に全身を、心を、世界を破壊するほどの絶頂感に。
巨大だった身体が段々と萎み、カスミの股から垂れ下がれるほどの大きさになる。 彼女に取り付いたそれは俵の大きさから革袋に、次第に小さくなっていった。 支えが無くなり、カスミは倒れ込む。それはぐるぐるといびつに歪みながら、最後にはカスミの腹の中に消えた。 あの、巨大だった石の玉も同時に消滅した。
息も絶え絶えのカスミに、根来の首領の影が歩み寄った。陵辱を見慣れているはずのアザミにも 先の交わりは異常極まりないものだった。それも落ち着いてみると、それも幻だったかのように今は静かだ。 しかし、突然、影が倒れた。カスミが恐るべき速さで立ち上がっている。
「なるほど、これは恐るべき力よのぉ。」
カスミが低い低い、押し殺した声で喋りはじめた。 異変に気が付き、影から何体もの“影”が飛び掛かる。 が、それも一瞬のうちに弾き飛ばされた。壁に肉塊と血がこびり付く。 その数で今のが6人と言うことが分かった。
「抜かったの。気づかなんだうぬらの負けじゃ。 これぞ飛騨忍法奥義『宿り木』。身体は“精”を受ける袋に過ぎぬ!」
まさか作り話だろうと思っていたが、聞いた事があった。 女人の胎に禁呪を注ぎ、妖しを孕ませる。妖胎は定められた条件で覚醒し、行動を起こす。 外見からでは見破る事が出来ぬ事もさる事ながら、 第一の利点は女本人がいかに破壊されようが、それこそ首を挿げ替えられた所で術が発動する事である。
『まさに、くのいち・・・』
女を崩して“くノ一”、それが“苦の一”に通じるのは只の偶然だろうか。 カスミは端から、邪神の精を奪うために送り込まれていたのだ。 任務に失敗し捕獲され、調教される事も、“玄牝”として選ばれる事も計算のうちだったのだ。 もちろん、本人には真の目的は知らされずに。そしてまさか、己の身に妖魔が巣くっている事すら知らなかっただろう。
壁の血の色が段々濃くなっていった。 目にも止まらぬ速度での戦いで、根来の忍者が次々と屠られているのだ。 いつのまにか、首領の影も消えてしまっていた。カスミ、いやカスミだった女が ふわりと外へ飛び出した。アザミだけが、その場に残される。
「ふふふ、あの娘は誰にも渡さないわ。」
このままおめおめと戻る事も出来ない。彼女を連れ帰ること、それが自分の使命になる事をアザミは悟った。