ひとりあそび




 ひっそりと、木々の茂る森の一角にその廟は存在した。 もう何十年も前からそこに位置している、が、それを知る者は居ない。 もっとも、知ってしまえば生きてかえる事は出来まい。

 廟には地下へと続く階段があった。薄暗くヒンヤリとした空気が篭っている。 そこから自然の作った洞窟へと繋がっていた。 人が居ないはずのそこで、交わいの声が響いていた。

 女が二人、立ったまま、お互いの秘所をすりあわせている。

 1人は一見三十代、少し形は崩れつつあるが、豊かな乳房とふっくらとした腰つき、 夫からの手ほどきで、性のいろはは知り尽くしているはずだ。それが今、今までの人生の全てを忘れている。 何かに憑りつかれたが如く、艶めかしく、それでいて激しく、タコが獲物に吸い付くようにもう1人に絡み付いていた。

 もう1人は、妖しいまでに美しかった。すらりとしていながら女としての肉付きは完璧だ。 それでいて無駄な肉は一切無い。あくまで優美な曲線を描いている。 透き通る様な肌は傷一つ、染み一つ無い。 労働を知る人間のものでは無い、いや人間としては不自然すぎるそのつややかさは、大理石の女神の様であった。 しかしその神は淫蕩の神であろう。その立ち込める色香と凄惨な迄の美貌。 愛らしくも淫蕩さを湛えるその唇には、誰しも心を奪われるだろう。

 腰まである、少しウェーブのかかった金髪がふわふわとなびく。 しかし、自分は動かない。ただ彼女の両の腕を掴んで、倒れないように支えているだけである。 淫欲に翻弄される相手を満足げに、陰惨に、金色の瞳で見つめている。

 相手の女は足を掲げて、じっと見詰める彼女の身体に少しでも密着しようとする。 もどかしそうに、内腿から足の先、足の裏までものすごい速さで撫ぜ付けていく。 同じように、己の腹や胸も、人間業とは思えないほど素早く擦り付けていた。

「うん、うん、うん、うん。うん、うん、うん、うん。」

 快感に酔って首を激しく上下させる。ぶんぶん、と今にも首がすっぽ抜けそうな勢いだ。 現に幾つか、そうやって飛んでいった首が転がっていた。 余りに激しくて、声も出せない。それでもこぼれる鼻息だけが辺りに響いた。

「うがぁぁあぁあ!ああああああああぁぁぁぁぁぁ・・・・・・」

 女は絶頂とともにのけぞった、力強く。そして叫んだ。 長い長い絶叫、快楽の全て、命の全てを吐き出すかのごとき咆哮、 それが続く限り、彼女の身体が弓なりに曲がる、曲がり続ける。

 ぼき、不快な音とともに女の背が折れた。快楽の余波が肉体の限界を超えたのだ。 不自然に曲った胴体は今までの激しい動作が嘘のように ただダラリとぶら下がったまま、揺れ動くに任せている。

「あう、もろいなぁ。もう壊れちゃったね。」

 金髪の彼女が手を放すと、重力に従ってどさりと落ちた。 もう、ピクリともしない。彼女にとっては、それはまさに壊れたおもちゃ。 これで今日で三人目、最初の二人は男だった。

 彼女の名はコン=ロン、金龍と書く。女の邪仙である。 仙人ならば天地の理に従って不老不死を得たものであるが、 彼女は五行の相克・相反を極めた者、つまりは自然の理に反する外道である。 そして、外道の常として、彼女は己の欲望に、非常に忠実であった。

 彼女は今日は、ちょっとエッチな気分だった。 だから、1人ずつ犯して、いや壊していた。
 普段なら、数十名、一度に壊す。 近場の村から、適当にさらって来て遊ぶ。 それが男のときもあるし、女のときもある。美男美女でなければ燃えないときもあるし、 老人の方が良いときもある。さらうのがめんどくさいと、村そのものを破壊する。 それこそ、老若男女、家畜すら入り乱れた狂宴になるだろう。

 “胎児から死体まで”が彼女のポリシーだ。 実際の所、異界の者だろうが霊だろうが、動植物、鉱物すら問わない。 節操や倫理という意味の言葉は、彼女には無い。その時の気分が重要なのだ。 森羅万象、手に入れられるもの全ては彼女には玩具だから。 それを用意する手間がどれだけかかるかの違いである。 尤も、気が向きさえすれば彼女の行為は素早かった。

 無慈悲な瞳は、別のイケニエに向かった。 金縛りの術を施され、三人の命が断たれるのを目の当たりにした少女。 今日は四人確保しておいた。彼女が一番“美味しそう”なので最後に残しておいたのだ。

 もう少し発達しそうな肉体、先の女よりもずっとほっそりとした太股、 少年を思わせる腰のくびれ、きゅっと締まった臀部、熟れる前の青いりんごを思わせる乳房。 そして何より、大きな目とふんわりした頬、短くまとまった黒髪がコンの今日の気分に良く合っていたのだ。

 コンが術を解く。恐怖に固まった少女は声を上げる事も出来ず、腰が抜けて動けない。 それでも必死に逃げようと、ままならぬ手足で抵抗する。 コンはそんな少女に満足げに微笑む。彼女を慈しんでではない。 想像通りの行動パタンであり、自分の欲求に一致した彼女を選んだ自分が嬉しかったのである。

 コンは逃げようとする彼女の肩を捕まえた。子供が甲虫を捕まえるのと同じ表情だ。

「ううぅうっ!!!」

 触れられた部分に異常な快感が起きた。 まるでアイロンを押し付けられて、じゅう、と肌が灼けるぐらいに。 火傷と紛うほど、手の形に真っ赤に火照った。 涙がこぼれる程の痛さ、いや気持ち良さだった。頭が真っ白になる。

「ぎゃぁぁあ!!!」

 反射的に逃げようとして、次は腰に触れられる。 触れられた所から、内部に向かって振動がうち放たれたようだった。 体中を駆け巡る甘美なる刺激。火照りが全身に広がる。痙攣が意志の命令を拒む。

「あう、面白いある!」

 少女の過敏な反応にコンは御満悦のようだ。 当の娘といえば、彼女から抱きしめられたらどうなるのだろう。 密着する肌全てが同じように反応するのだろうか。 その時自分は正気を保っていられるだろうか、そんな事を考えていた。

 多分、否である。

 性の営みを知らぬ彼女には、コンの淫蕩さに、それに埋没して全てを忘れる事への期待は起き得なかった。 ただ恐怖が、自分は人知れず、これから死んでいく事、壊されていく事への恐怖が強かった。 目の前の金髪の魔人が自分を人として殺してくれない事は分かっていたから。

 コンは気を操る。それはつまり、異常な快感を生じさせる事になる。 いわゆる『房中術』であるが、コンのは只の人体操作に他ならない。 性エネルギーの波動は通常の触覚の数十倍の刺激を与える。 神経細胞が伝達するよりも多く、全ての細胞が体中に愉悦を伝え合うのだ。 普通の人間には耐える事が出来ない。

 無作法に、コンは少女の乳房に手をやった。むぎゅ、と弾力のあるつぶれかたをする。 その瞬間、胸は勝手に、ぶるぶると振動した。

「あががががががががががががががががががが!!!!!!!!!!!!」

 彼女の声も共に震えた。 乳房はその時淫具と化し、コンの送るエネルギーを何倍にも増幅させたのだ。 増幅されたエネルギーは劣化することなく全身に叩き込まれる。 破裂するほどの快感が、絶頂を通り越して爆発した。 彼女は風船が膨らんで、限界を超えた時の気持ちが分かった気がした。

「こんなに気持ち良くなったの、初めてか?」

 顔をくしゃくしゃにして、たてに首を振った。 先程までの惨劇も頭に入ってない。その暇が無い。 風船ならば一度破裂して終わりであるが、コンが乳房を楽しんでいる以上、 快感は一瞬足りとも休まずに継続して送られている。そしてその度に爆発している。 嫌がおうにも、連鎖する爆竹のように彼女の性感は達し続ける。

「なら、コンは良いコトしてるある。感謝するよろし。」

 無邪気にコンは微笑む。本当にそう思っているから、恐い。

「ここにも入れたいな。」

「あひゅ!あっ、あっあっあっ!!!」

 左の胸の上を、コンは人差し指でなぞった。丸く円を描くように何度も。 女のそこはつややかで柔らかくなり、膨れ上がった。 変成する部分の感覚が過敏になって女は身悶えした。コンは親指も添え、形を整える。 そして、第二の女陰を捏ね上げた。

 仙道を外道なりにも極めているコン=ロンは、他人のからだを作り直す事ぐらいは基本だった。 出来立ての花びらを、丹念にコンは舐めている。それは本物のように蜜を垂らし、コンの喉を潤す。 コンの唾液と愛液が混ざる。それは耐えられぬほど感覚を鋭敏にする。

今日二人目の男には、体中にペニスをつけ、一度に射精させた。 体中から白い液を飛ばしつつ、男は果てた。その生命力の全てと共に。

「あう、良く締まるね♪指が気持ち良いある♪」

 コンはがくがくと震え続ける娘にお構いなく、その女陰に指を刺し込む。 そしてひくひくと脈動するさわり心地を存分に楽しんだ。 コンはあくまで楽しそうである。

「はわははははっは!!ああうああう!!!!」

 少女に、今まで以上の悦楽が進入してきた。 コンの指が溶け出した。いや、女陰を弄っているその手そのものが彼女の身体に染み込んでいくのだった。 肌の外から響いていた快感が、内部へ直接送られる。相手の肉体に入る事など造作も無かった。 コンはその気になれば、そのまま少女を吸収してしまえるだろう。絶大なる快感を生じさせながら。

「柔らかいな☆若い娘はだから好きある♪」

 コンは少女の心臓を愛撫していた。生身なら絶対に触れない所。 普通に生きている以上、触られる事はありえない所。そこをコンの掌が包んでいる。 心臓が、直接イク。心臓が破れそうになる程のスピードで鼓動する。 その一度一度が絶頂に達している。少女はこの時点で、思考というものを失った。

「下のはいらないかな?どうしようか?」

「ががががががが!!!がががが!!がががああああ!!!!あああああああ!!!!」

 コンは直接、彼女の股間に触れた。丘の間に息づく彼女の本物の女自身は大きく口を開けながらも 彼女の指によって蕩けて行くようだった。いや、彼女の力を持ってすれば本当に溶かしてしまい、 その口を二度と開けないようにするぐらい当然の事だった。 そうしている間にも、少女はイキ続ける。

「返事が無いから、気持ち良くするある☆」

 返答と言う事が不可能になっている事、そんなことはコンは考えない。 シュルリ、そんな音を立ててクリトリスは細く長く、まるで鞭のように伸びると、少女の股間に潜り込んでいった。 その刹那、狂気ともいえる程の快感が湧きあがった。 膣から下半身の全部、そして上半身に向かって電流が体内でこだまする。身体の自由が効かない。 体が勝手に反応してしまい意識からの信号など受け付けなくなっている。

 そして、螺旋を描くように、彼女の胎内でその細い鞭は高速で回転し始めた。 膣壁の全ての襞が性エネルギーを注入されながら弾かれていく。

「はぐぅうぅぅぅ!!!!!ぐぅるうぅるぅぅるぅうぅぅる!!!!」

 螺旋を描くそこは、彼女の悦楽が染みとおり、コンにも同様の感覚をもたらしていた。 コンの方も“気持ち良く”は成っている、が、しかし、彼女の快感は コンに忘我の域いたらせるほどではない。 この程度の刺激、接触はコンにとっては子供だましも良い所である。 それこそ、異界の魔物と交わりこの世ならざる快楽に身を任せてすら、 事の後に「あー、まあまあだったね♪」と、ぬけぬけと言い放つだろう。

「ほらほら、いいあるか?良いなら良いと言うね。」

 “いい”どころではない。彼女は全身が、勝手にのた打ち回っていた。 さっきの女が、どうして自らの身体を自らへし折れたか、 今の彼女なら理解出来るだろう。完璧に理性を失って体中が無秩序に暴れているのだ。 喜びに咽び、悶えているのだ。身体がバラバラになる。成っても不思議はない。

「あう〜いわないとわかんないあるぅ〜」

 そう言いながら、コンは、手を足を、まるで触手のようにほつれさせて、 彼女の全身に這わせていく。触れるだけで快感を生じさせる、自らの肉体をもって彼女の上でくまなく這わる。 軟体生物が全身にまとわりついて、正気でいられるだろうか。 もっとも彼女は既に狂っている。

「・・・・・・・うへへっへへ・・・」

 急な彼女の反応に、コンは一気に興ざめした。元の姿に戻る。 だらんと脱力した少女は薄ら笑いを始めたのだ。 彼女の肉体は、“性エネルギー”には反応しない只の“細胞の集合”へと成り果てていた。 コンが手加減を忘れたため、細胞同士の結合自体が失われてしまったのだ。 こうなってしまうと細胞一つ一つならまだしも、女体として、人体全体の反応を見る事はもう無理である。

「あう、壊れちゃったね。ま、楽しめたからいいある♪」

 今日の気分では、こんな女、抱いても楽しくない。 そのまま打ち捨てた。先の女のように、ピクリともしない。 コンにとっては死体も同様であった。気が向かないときは、死体は死体。 興味を全くそそらない。

 犠牲者達の山も溜まり過ぎてきた。コンはそろそろ、掃除することにした。


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