毒虫




 気だるく目覚めたある朝、オレは毒虫になっていた。

 頭がぼおっとして、その事実を認識するのには少々時間が掛かったが、 頭を掻こうともっていった腕の感覚や、やっとのことで辿り着いた頭部は つるつると毛の一本も生えてやいなかった。

 メットのような、プラスチックの手触りの外皮が (いや手だって幾重にも手袋をしたように触覚がかなりやられていたのだが) 体全体を覆い、辛うじて柔らかい腹部でさえ幾重にも板のようなものがガードしてくれる。 さらに節くれだった六本の足(胸部から出ているから、腕じゃないのか?)は バイプの様に黒光りして、鉄パイプの様に硬そうだった。 手は昔見た『FLY』とか言う映画のキャラみたいに鉤爪になっててカッコよかった。

 頭部と胸部と腹部があって、足が六本あれば虫だと言うことは覚えていた。 体の硬さから言って、甲虫って奴だろう。カブトムシやカナブンの親戚だ。 ただ、奴らの仲間で毒があったかどうかは知らない。が、とりあえず虫だと言うことを知っていれば 人間が自分が人間だと思っているのと余り変わらない。 少なくともオレはそれで済ませていた。いや、オスだと言うことはさらに重要だ。 虫にまでなってオカマを掘られたくは無い。

 腋にはまるで金玉のような妙な器官がある。ちょっと意識を集中すると、毒液が噴出した。 でかいにきびが潰れたような感覚だった。少しずつ、袋の中に毒液が補充されるのが実感としてわかった。

『参ったな。』

 口(であると思われる器官)がもごもごと蠢いたが、声は出なかった。 虫の生活に思いをはせるのは小学校の理科の時間以来かもしれない。 だが、虫の生活なんか飯を食って餓鬼を作るぐらいしか思いつかない。

『とりあえず女だな。』

 腹は減ってなかったので食欲よりも性欲をとった。暇を潰すにはSEXが一番だと経験が知っていた。 虫の体位なんか知らないが、挿入して腰さえ振ることが出来れば何でもOKだろう。

 携帯でメールを打って、知ってる女を呼び出す。 知っていると言っても、顔とメルアドぐらいだ。 何度か遊びで抱いてやってるから、直に来るだろう。

 不器用な俺は普段もメールを打つのはそんなに速くない。 この際レスに多少の遅れがあっても女は怪しまなかった。 そんなバカだから、俺みたいなのでも何度も抱けるんだと思った。

 暫くすると玄関のチャイムが鳴り始めた。オレはそっと ドアに近づいて、獲物を狙う蜘蛛の様に落ち着いた気分で鍵を開ける。

「どうしたのよ、急に呼び出して。」

 ぎゃーぁっ! ぎゃああーーっ!!!

 普通に入ってきた女が振り向きざま俺の姿を一瞥すると、 まるでゴジラか何か昔の怪獣映画のように吼えはじめた。 隣の住人が騒ぐと面倒なので、爪で引っ掛けてベットのほうへ投げ捨てる。 力の具合がわからないので軽くやったつもりだが、 女はひゅーんと壁にぶつかって今までオレが寝そべっていたベットの上に落ちた。

 女が抵抗する暇を与えず、衣服を剥ぎ取る。 オレの輝くボディに比べれば、人間の肌なんか脆弱極まりない。 女ともなればなお更だ。

 愛撫なんてまどろっこしい事をしていると、人間の肌なんか擦り切れてしまいそうだ。 早速挿れさせてもらう。興奮しているからか、勝手にマンコへオレのモノ(まるでホースみたいな奴)が 伸びていってくれた。さすが虫、全自動だ。腰を動かしてみる。

『おっ、すげぇすげぇ!』

 腹部と胸部が独立しているだけあって、バカみたいに早く、 早送りしたAV男優のよりも速くへこへこと動く。 下手なバイブより速いかもしれない。光速の俺のピストン、喰らいやがれ! と、普段なら叫んでいただろう。

 がーがーがーがー!!

 まだ叫んでやがる。どうもコイツ、感じ始めたらしい。オレのモノが湿ってくるのが判る。 だが、身体をくねらせてくるのだが、どうもイマイチ生気って奴を感じない。 理性のタガってやつがはじけ飛んだのかもしれない。 オレとしてはどちらでもいいわけだが。

『うっ!?』

 突然体に痺れがはしった。射精したようだ。射つと言うのは余り適切ではない。 ちゅーっと腹から小便のように汁が流れていった。注入と言った感じか。 意外とサラサラした液を膣の中に全部注ぎ込んでやると女の様子が変わった。 突然目の色が変わって、大声で嗚らびはじめた。

「んー! んんんー!! んんんんーーー!!」

 オレの白い液が垂れおちるマンコをパクパクさせて、 目を白黒してのた打ち回り始めた。 腰を諤々と震わせるから、胸がバンバン揺れている。 どうやらオレのスペルマには、女を狂わせる成分が入っているらしい。 自分自身の快感はそうでもなかったが、女の反応が面白かった。

『コイツは面白いや。』

 オレは外に出た。 女の大声はアパートの階段を下りてもまだ聞こえてくる。 うろうろと周りを物色すると、通りがかりのオバサン達が 悲鳴をあげることすら忘れて目を見開いて立ち尽くしていた。

 まるで雑草が生えているような光景だが、オレは年増は嫌いなので手もつけずに這いさってやる。 物知り顔の親爺達はオレのほうを雑草の様に無視して通り過ぎていった。 奴らの目は見たくないものは見えないらしい。

 カップルが通りかかった。若いだけあって反応がまともだ。 オレの姿を見て逃げようとするが、なんせ今のオレは六本足だ。あっという間に追いついて とりあえず男の頭を塀にぶちあててやる。男の頭蓋骨が陥没した感触が なれない鉤爪の触覚でも伝わってきた。

 女がへたり座るのをいいことに押し倒してパンティを剥ぎ取って、 オレのスペシャルビートをお見舞いしてやる。すげえ美人顔で胸もかなりデカい。 他人の女だから余計俺も燃える。

 今度はちょっとペースを遅らせて、ゆっくり楽しんでやる。 オレのメタリックな体が女にはすこぶるいい感触らしい。 オレもペースを早くしたり遅くしたりして、もう絶望の表情を浮かべている 女にさらに怖がらせてやる。

 オレの鉤爪で頬に触れるとちょっと引っかかる感じがして赤い筋が残っていく。 嫌がる素振りも見せないので服の前も剥ぎ取ってオッパイを思いっきり叩いてやる。 鞭で撃ったみたいに派手な音がして、さすがに女も歯を食いしばった。

 両手両足をオレの四本の足が押さえつけているから、二本余っている。 コイツで引掻いたり押し込んだり、突付いたりしているとオレのほうも 腰のあたりに熱いものを感じ始めた。オレはこの女も正気でなくなることに残虐な笑みを洩らす。 虫になったオレがちゃんと笑えたかはこの女にしかわからない。

 どくどくと流れるオレが悪魔のエキスを送り込んでやるとコイツも目の色が変わりやがった。 まるで能面の様に凍りついた表情の癖に鼻息が荒い。 ギンギンにキマった瞳で急に立ち上がるとさっき死んだ男の足を掴んで、 自分のマンコに擦りつけ始めた。オレがやってたのよりも激しく女は喘ぎ始める。

『こりゃすげぇ!』

 オレはワクワクして、次の獲物を探そうと思った。 が、今の騒ぎでどこかのバカが警察に通報したらしい。 パトカーのサイレンがウンウン唸りはじめたかと思うと、 あっという間にオレは包囲された。

 五六人の警官がオレに銃を向けている。虫だと思って無駄な抵抗がうんぬんの講釈は垂れてくれない。 だから最近の警察は週刊誌に叩かれるんだよ、サービス悪いよ、君達。 なんて思っていたら、銃口が火を噴いた。真っ赤な炎が眼に焼きついた。

 ぱん!ぱん!!

 意外と乾いた音がしたかと思うと、体に重い衝撃が走った。 野郎! マジで撃ちやがった!! だが、そんなに酷いダメージではない。 タバコの灰を腕に落とした熱さとか、デッドボールかまされた時の痛みが頭をよぎった。 さすがは甲虫、外骨格様々だ。お返しに毒液をお見舞いしてやる。

 びゅー!

 じゅわわわあ・・・

 命中した警察官があっという間に溶け始めた。 ようやく悲鳴が聞こえた。同僚が湯気を立てるスープに変わったのを 真っ青な顔でお互いを見つめる警官達。 隙ありとばかりに、オレはどぴゅどぴゅと奴らに毒を浴びせ掛ける。

 野次馬が蜘蛛の仔を散らすように(オレはその光景を見たことが無いが)逃げ始めた。 パトカーも後ろを向いて逃げ出した。その中にいい女が何人か混じっていたので、一番近くにいた奴をひっ捕まえてやる。 が、勢いあまって腹を裂いてしまった。血や臓物がどろりと飛び出したので 奴らの逃げ足はキチガイじみたほどに加速した。

 足を絡ませてこけてしまい、もう腰の抜けている半狂乱になった女に圧し掛かった。 アイドル系でちょっとロリ入ってる、美少女って奴だ。 人間やってた頃にはレイプでもしないと絶対喰えないタイプだった。 今やってるのもレイプに違いないが。

 三人目になると、俺の心も今の体に馴染んできたらしく 締め付けるマンコの感覚やオレの鉤爪や腹部が感知する触覚も 敏感になってきた。やっぱり女は良い。それも、人間の女に限る。 オレは虫になったが、やっぱり虫とやるのは嫌だ。 そうだ、オレは女を犯す毒虫だ!

 しぃいいっつしぃいっ!!

 オレのスペルマを吸収すると、妙な声を上げてバコバコ腰を突き上げ始めた。 オレはもう離れているが、女は誰かとヤリ続けているかのように しいぃいっ、しいぃっつと歯から息をこぼしつづける。

 可愛い顔して勿体無いと思ったが、こうして女を使い捨てに出来るのが愉快でたまらない。 女が居る場所と言えば、女子高か女子大。風俗街を荒らすのもオツかもしれない。 オレは犯して犯して犯しまくろうと思った。日本中、いや世界中の女を淫乱にしてやろうと思った。

 オレはぞわぞわと自慢の六本足で移動を続ける。 先ほど気が付いたが、どうやらオレは飛べないらしい。羽が開いてくれないのだ。 だが、楽観的なオレはナナハンにも劣らない今の自分の馬力とスピードに満足していた。

 悲観的になり始めたのは、それからもう少ししてからだ。 女どころか、人の気配がしないのだ。一発ヤッてる間に、人間は(特に女は) 避難してしまったらしい。

『しまったな、派手に暴れすぎたな。』

 ふと、日本にも自衛隊って奴がいるのを思い出した。 有事のときの自衛隊、有事っていうのはまさに今、オレのことだ。 弾丸をものともしないオレのミラクルボディでも火炎放射器とか ロケットランチャーとか防いでくれないだろう。

 マズイ! とりあえず逃げることにした。しかし、どこへ? 奴らが撒ければそれで良いのだ。今はまだヘリの音はしない。 下水道の入り口でも見つけて、そこに住み着いてしまおう。 そして暇になったら女を襲うのだ。

 そういえば家の近くに川があった。下水も流れ込んでいる。 オレは一路、引き返すことにした。

 しいぃぃっつぃぃいしいっ!!

 三人目の女が、飽きもせずいつのまにかすっぽんぽんになって空を抱いていた。 どうも他の連中からは見捨てられたようだ。 オレは哀れになって、もう一発やってやることにした。

 今度は後ろから奴のマンコにぶち込んでやった。 オレのモノに絡みつく感じが良かった。奥に奥に突き当たる感じが良かった。 が、どうも様子がおかしい。目の前が暗くなってくる。

『くそっ?』

 SEXに夢中になりすぎて、腹が減っていたのに気が付かなかったのだ。 今の今まで飯を食わなかったのがマズかったらしい。体が急に重くなってきた。 電池の切れたロボットの感覚がわかったような気がする。

『ここで出したら死ぬかな?』

 この女食えないかな?と思ったが、 勢い良くケツをぶつけてくる女の刺激がオレのモノを勝手に興奮させていく。 食欲よりも性欲を燃え立たせてくれるため、喰うことに頭が回らない。 虫の射精は人間のときみたいに、理性では本能を抑えられないらしい。 反射が勝手に近づいてきた。

『ちっ!!』

 体が勝手に反応して、エネルギーを使い果たして、オレは果てた。 オレが最初に考えた、虫は食って子供を作ることしか無いを、とうとう、思い出せずにいた。 最後の意識の中で、止まった俺にかまわず動きつづける肉人形をはっきりと知覚した。


???