夜吼える雌神




「あああっ! はぁんっ!!」

 ・・・どうしてこんなことに成ってるんだろう。空ろな意識で佐野久美子は考えた。考えたといっても、ブラもパンティも全て脱がされた姿にされ、椅子に腰掛けされ、同級生の二人に片方ずつの胸をもまれながら、恥ずかしくも広げられた股元は賀古崎先輩が顔を埋めている。そして先輩の後ろには後二十人ほど、おしゃべりしながら順番待ちをしているのだ。先輩の様に知っている人間も居る、全く見知らぬ人間も居る。相手が女であることしか、共通点は見当たらない。

 後ろ手に縛られているので、腕を振って防御することも、胸を覆うことも出来ない。足は椅子に縛り付けられて、これまた動かすことは不可能だ。きつく縛られた麻縄だから、じっくりと後がついていることだろう。

 自分は・・・佐野久美子、弥栄高校の一年生で、テニス部の部員。賀古崎先輩は二年生で自分の先輩。とても面倒見がよく、おおらかで爽やかで、性的な素振りは一度も見たことが無かった。それが今、指を自分のヘソや膝小僧へと這わせつつ、微妙な緩急で愛撫しつづけている。もちろん食事や会話以外の機能の思い至らなかった唇も叢の一本一本の草を噛み締めて、最もやわらかで繊細な襞を弄び、意外なほど長い舌が女の洞穴の奥深くへ潜り込んでいる。

 ちろちろと胎内のざらざらした部分が舐められる。賀古崎先輩は慣れた感じで鼻を陰核へと押し付けて、ブルブル震えさせる。舌と唇、歯と頬と、別々の生き物がピッタリと張り付いて好色なクラゲのように久美子の犯しつづけていた。

 ―あ、またキちゃう―

 久美子の少しずつ後退しつつある観察眼であるが自分の体がどうなっているのかを冷静に分析していた。

 久美子の股間か彼女の体液が噴射すると、頭の中が虚になった。尿ではないのだが、久美子自身はそれを失禁だと思っていた。覚えているだけで、十回目の絶頂。多くても週に一度しかオナニーをしてこなかった彼女にとって、度重なるオーガズムは疲労と罪悪感でしかなかった。それでも“イッて”しまう自分が嫌だった。快楽は心を取り残して訪れた。

「貴女の愛、頂きました」

 賀古崎先輩は仰々しくも、愛液で汚れたままの顔で久美子に口付ける。先も、その前も、みんな同じ台詞を吐き、同じように自分の唇を奪っていった。もう避けようとする気力すらない。自分が分泌した体液を擦り付けられる。最初は汚いと思ったが、もう間隔が麻痺してしまっていた。

 ふと自分のことを思う。今日の昼間では全く普通の学生生活を送っていたはずだ。それが、確か五時間目だったろうか。ふわりと貧血を起こして倒れてしまったことまでは覚えているが、気だるい刺激に目を覚ましたときにはこうなっていた。

「ヤめてッ! ………もうヤメテぇ…ッ!!」

 幾ら彼女が泣き叫んだところで、誰一人として手加減はしなかった。機械的に、久美子が知っていれば、バイブの様にという表現が出来ただろう。ただ久美子を絶頂に達させることのみに彼女らは集中していた。彼女の知らなかった部分(久美子はクリトリス周辺しか性感でないと思っていた)にも彼女らの舌と指は這い、えもいえぬ刺激をかもし出していた。もしそれが恋人からの愛撫であれば久美子も心置きなく女の喜びを享受しただろうが、同性に、一番恥ずかしい部分を覗き込まれて弄ばれるのだ。おぞましさに背中が凍る思いだった。だが、それでも自らの身体に走りつづける火照りを否定することは出来ない。

 彼女のどこかに、同性だから安心している部分があった。そうでなければ“イケ”ないはずだからだ。万一彼女の周りに居るのが血走った目をした男達ならば、幾ら縛られていようが半狂乱になって抵抗しただろう。もしくは、途中で気が狂っていたかもしれない。もちろん彼女自身、心に隙のあることなど認めないだろうし、気がつきもしないだろうが。

「何故・・・何故なの・・・」

 久美子の右となりは、長谷川裕香、左となりは殿間奈由。一番の親友だったはずなのに、彼女らもまた一糸も纏わぬ姿で、まるで従者の様に自分につきっきりで、先ほどからずっと自分を撫でたり弄んだりしている。

「考えちゃダメよ」

 耳たぶを舐めながら、奈由が囁いた。普段はおっとりしている彼女には想像できないほど、しっとりと艶っぽい声で、じっくりと艶めかしく耳たぶを食んだりキスをしたりする。

「私が・・・何をしたって言うのぉ・・・助けてぇ・・・」

「何を言ってるの、最高の栄誉じゃない」

 裕香はじっと久美子を見つめた。それは羨望の眼差しだった。教室ではイマイチパッとしない彼女であるが、生気が体中から放たれているかのようである。いつぞやカラオケに行った時よりもよほど生き生きとしている。明らかに裕香は、久美子の立場になることを望んでいる。いやむしろ、久美子がどうして嫌がっているのか計り知れぬ様子である。

「だって・・・」

「気が動転しているようね」

 子供に対して慰めるように、裕香は久美子の頭を抱いた。そのぬくもりに一片の嘘も感じられなかった。彼女達は好意でこうして付き添っていてくれているのだ。彼女達の気持ちは嬉しかった。そう、久美子の中で何かの歯車が狂いはじめていた。

「出が悪くなったわね」

「補強しましょう」

 久美子の左側に付き添っていた奈由は、彼女の後ろに回りこんだ。久美子は不安になるが、これ以上のことは想像ができなかった。だが、お尻に、ブーンと低い音が近づいてきて不安は最高潮に達する。それは彼女に接触した。

「ひやぁあああんっ! おっ、おしりがっ!」

 低周波の振動が排出の器官にピタリと吸い付いた。異様な刺激に目から火花が飛び出しそうだ。先からしどろ垂れ流されている彼女の愛液は後ろの方もびしょびしょに濡らしている。裕香が押し付けたのは小さなローターである。振動よりも遅いペースであるが蠕動するそこへと押し付けるが、なかなか入らない。その度に、久美子の背骨が軋む。

 奈由は少し考えた後、一度ローターを外すと愛液を指で塗りたくった。そして、門の周りをつついてみる。

「あっ、だめっ! だめっ、キタナイ!」

「大丈夫、痛くないよ」

 久美子はおぞましい予想に声をあげた。奈由は汚れることも久美子の言葉も全く気にせずに、固く強張った場所をゆるやかに揉み解していく。少しでも力が入りすぎれば、小さくても異物を入れることは困難である。元々出すべきところであるからだ。愛液を足しながら、根気強く広げていった。きゅっとすぼまる菊座であるが、次第に弛緩する幅が大きくなる。入り口さえ越えられれば、中は広い事を知っていた。

「もういいわね」

「やぁーっ―――――! あァー―――!」

 つるりと滑ると丸い機具は久美子の中へと消えていった。

「お尻がお尻がお尻がァッ!!」

 久美子は絶叫した。嫌悪の叫びではなく、アクメへの歓喜であった。それと同時に、今度は本当に放尿してしまった。

 今しがた変ったばかりの端整な風貌の少女は、久美子の放った金色の滴りを可愛らしい前髪から垂らしながら、例によって「あなたの愛を頂きました」と呟いて、口づける。幸いな事に、久美子は何をされたのか判断できなかった。

「何も気にする事は無いのよ」

 奈由が囁いたが、久美子は最初の一言は聞き漏らした。

「ア――――――――――ンッ!」

 見知らぬ少女に過敏になった尿口を触られて、無条件でイかされてしまった。少女は冷静にいつもの言葉を吐いて口付けて退出する。そしてまた入れ替わる。いつ尽きるか知れぬ儀式のように、繰り返される。久美子を動かす動力は、常識という惰性から欲求というに

「もうすぐ貴女も雌神になるの」

 奈由は、今度はゆっくりと久美子に語りかけた。

「めぇ・・・がァ・・・みぃッ?!」

 飛沫が迸る。しかし今度はしっかりと耳に入った。“めがみ”が“雌神”と言う文字である事は久美子は気がつかなかったが、奈油の言葉の響きから、それが神聖なモノであることを感じた。

「そう、貴女が雌神として適切な間はずっと」

 適切と言うのがいつまでなのか、そして適切でなくなった時にはどうなるのか、疑問は浮かばなかった。浮かんだ疑問はたった一つ。

「気持ちイイの? ずっと・・・ずっと気持ちいィの?」

 太ももを少女の頬へと擦り付ける。そこに居るのはテニス部の友人の早瀬であったが、久美子はもう誰がいるか考える余裕も無い。崩れ落ちていく理性は魂すら蝕む勢いの快楽を拒む事が出来なくなっていた。

「最後の最後までね」

「め・・・が・・・み・・・」

 久美子の瞳に光が宿った。瞳孔は全く解放されて、ほんの少しの光でも吸い込んだ。そして光は瞳の中で乱反射し、ダイヤモンドの様に爛々と輝いた。まるで神性を宿したかのごとく、久美子の持つ雰囲気は急に厳かなものになり、威圧感と貴さを兼ね備えていた。

「門が開いたわ」

 奈由が宣言すると、お喋りをしていた全ての女生徒達が久美子の方を向き、膝をついて畏まった。

 その神秘的とも言える光景に、久美子の気持ちは固まった。今まで在ったわだかまりは全て氷解した。私は雌神なのだ。今日この日に、こうして召されるのが私の宿命だったのだ。

 清々しい表情で真っ直ぐ前を向く。それが今の自分に相応しいと思った。他人が見てもそのとおりであった。瞳は憑かれたかの様に輝きながら真っ直ぐ向いているのに、恍惚の表情を浮かべた彼女の顔は異様といえば異様であったが、まるでギリシャの女神像のような神々しさを湛えていた。

 愛液を分泌しつづけ、乙女達の舌を潤していく。そのことにどんな意味があるのか彼女には見当もつかなかったが、それが自分の役割だと信じ、喘ぎ声を上げなくなった。嬌声など、神には相応しくないと思ったのだろう。じっと足を踏ん張り、されるがままになる。だが、久美子の中に荒れ狂う快感の渦は、拒むものを失い、更に膨れ上がって行った。

 乙女たちの入れ替わるペースが速くなった。技巧はますます緻密になっていく。ぷつりぷつりと意識が途切れながら絶頂に追いやられ続ける久美子であるが、もう何をされても、何が起きるのかも気にする事は無かった。

 最初に自分を犯した少女が再び、最初と同じく久美子の股間にかしずいていた。漸く一週目が終わったところなのだ。


???