姉様リスペクト




「暮井珠緒さん、でしたか」

「ふぇっ?」

 放課後の道すがら、いつもの賑やかな八坂ファミリーを見送った後の帰路は寂しい。学校では歩くスピーカーと呼ばれていても、一人の時までしゃべっくり倒したりしない。黙々と、住宅街の無機質な路地を歩いていた珠緒。誰も居ないはずだった。通り過ぎたはずだった。しかしその鈴のような声は彼女のすぐ後ろから聞こえた。

 慌てて振り向いて、息を呑む。

 美人だ……。珠緒は嫉妬することも出来ず、素直に頬を赤らめた。黒を基調とした高そうな着物に、腰まである漆黒の艶やかな髪。小袖から見える手首から先はあくまで細く、陶器のように艷やかである。その姿も八頭身。本当に磁器の人形のような、現実離れした美しさであった。

 そして、その双眸は赤。

 その瞳は、珠緒を吸い込むように見つめている。彼女が自分の方を向くのを待って、すっと一歩、近づいた。

「はじめまして、ニャル子の友人の銀アト子と申します」

 心地よい声で自己紹介をし、深々と頭を下げるアト子。その一挙手一投足が様になっている。絵になっている。近づいた分、普通ならば粗も見えるものであるが、アト子にはシミひとつ、シワひとつ存在しなかった。

「あっ、えっ、ふぇっ? あああ、ニャル子ちゃんの……」

 突然のことで面食らったが、自分以外で、そして人外の美しさを持つ女性がニャル子の友人というのだから、恐らく、素性も彼女と似たようなものなのだろうとアタリをつける。

「と言うことはえーっと、シロガネさんも」

「アト子、とお呼びください」

「じゃ、アト子さん? 貴女も宇宙人、ってこと?」

「あら、お分かりになられましたか。では、改めて自己紹介を。アトラク=ナクア星人のアト子、と申します」

 再度、お辞儀をし直すアト子。珠緒はひょんなことから八坂一家の居候達が宇宙人ということを知っている。ただし、それが「邪神」という有害無比なる類の存在であり、特にニャルラトホテプは最悪の最凶。年頃の健全な青少年である八坂真尋が、一つ屋根の下で人智を超えた美貌を誇るニャル子に未だ手を出しえないで理由が単に「ニャルラトホテプ」だから、と言う所までは理解しては居ない。

「えーっと、じゃ、なんで私に?」

「少し、失礼させて頂きます」

 アト子は目を細めながら、間合いを詰める。驚いた珠緒は後ずさろうとするが、

 ……あれ?

 体が動かない。すぐにアト子から、抱きしめられてしまった。ふんわりと得も言われぬ香りに包まれる。着物からアト子の柔らかさが伝わってくる。

 ……ひゃぁ!

 すう。と一息。アト子は赤面する珠緒の首筋に鼻腔を近づけ吸い込んだ。珠緒の亜麻色のポニーテールが驚きに震える。アト子は暫し後、満足気なため息を漏らす。

「思った通り……いい匂い……」

 いい匂い、と言われて悪い気はしない。しかし状況が状況だ。指先一つ動かせない以上、彼女を押しどけることも出来ない。同性とはいえ、冗談では済まない領域に踏み込もうとしている。

「やはり……我慢できませんわ」

 アト子は正面から珠緒を見据える。獲物を丸呑みにする前の、蛇のような表情。普段は活動的で小動物のような珠緒は、身をすくませることしか出来ない。

「ごめんなさいね……どうしても……珠緒さんをニエにしたくなりまして」

 友人でも、恋人でもなく「ニエ」と言う不吉な言葉に珠緒は戸惑った。が、程なく首筋に、針で突かれたような痛みを感じる。と、思うまもなく目が回って、意識を失った。


「あれ……ここは……」

 珠緒は、ゆっくりとあたりを見回す。そこは下校中のアスファルトの道路ではなく、自宅のベットの上でもなかった。保健室でもない。

 跳び箱、平均台。マット。校庭に白線を引く石灰。体育の時間しか目にしない品々の並ぶ、薄暗い、体育倉庫。底冷えする淀んだ空気がまとわりつく。古い道具達の土っぽい臭いが漂っている。

「お目覚めになりましたか?」

 暗い部屋の中で、黒い召し物だというのに、アト子の存在は異様に際立っていた。

「えーっと、アト子さん……その、ニエって」

「今に分かりますわ」

 しゅるり。

 アト子の帯が綺麗な音を立てて、解けた。

 ぱさり。

 彼女の着物が、床へと落ちる。珠緒の目は釘付けになる。

 白い長襦袢は、前がはだけている。

 着物の上からでは窺い知ることの出来なかった大きな乳房が、深い谷間を作っている。まるで漫画のような大きさだと、珠緒の脳は認識した。着物で隠すことは物理的に不可能なサイズであるが、もう少し下には、女として有り得ないモノが存在した。

 股間の茂みには、隆々たる陽物が、臍のあたりまで反り返り、その存在を誇示している。

 いや、それは人のモノではない。耳年増なだけで隆起した実物を見たことのない珠緒でさえ、そこが黒と黄色の警告色をしていないことを知っている。

 アト子は歪な凹凸に覆われたソレを、自らの指で、なぞる。

「これでも、宇宙人ですから」

 宇宙人じゃしょうがないかー。と、珠緒の霧のかかった理性は納得した。しかし、本能は自らの置かれた状況を把握していた。危険である。貞操の危機であると。

 アト子が近づく。珠緒は無論、逃げようとする。しかし背中を向けた所で再び体が動かなくなる。自然、背中から抱きかかえられる形になる。

「あら、意外と大きいのですね」

 服の上から、アト子の指が乳房に触れる。女の子同士で、ふざけてじゃれつくのとは違う。制服の、そしてブラの上からであるが、乳房の縁を、丸みを、そして先端を撫でられる。

 それは今まで、登下校中や街中で感じた不埒な視線でしか知らなかったもの。それが、直接接触で行われている。自らが性の対象として扱われていることに、珠緒は戸惑いを隠せない。

 汗が、滲む。

 先ほど気を失ったのは、アト子の毒のせいであり、身体が動かせないのは、アト子の不可視の糸のせい。抵抗らしい抵抗が出来ないのは、その両方とアト子の神性のせいである。アトラク=ナクアとは蜘蛛の神性である。能力だけではない。その行動パタンもやはり蜘蛛に近い。獲物を幾重にも罠にかけ、逃げられなくしてから、食らう。

 アト子の指が、珠緒の太ももをつたう。しかし、肝心の部分には触らない。リンパ節を、撫でるように、押し出すように触れる。骨盤の周りを、くすぐったくならないギリギリの線で撫でていく。

 珠緒は背中に、アト子の柔らかな胸の感触と、腰に、アト子の硬い彼女自身を感じていた。振りほどこうと思えば、振りほどけたかもしれない。しかし、彼女は既にそれどころではない。

「……っ? あ……ああっ??」

 珠緒は喘いでいた。しかし、それは快楽ではなく、それでいて不快でもなかった。

 感覚の喪失。

 珠緒の未開発な身体は、まだ全ての性感を性感として認識することが出来ない。彼女が自慰でも触れることのない、ストレートに感じる部分ではない、眠っている感覚を掘り起こされているのだ。性感としてまだ目覚め得ぬ場所を攻めたてられ、肉体は反応しているが、それを感覚として処理することが出来ない。

 何より、彼女の意識は様々な想いに乱されていた。

「八坂……君……」

 愛しい人の名が口をついた。ボロボロと、泪が零れる。

「真尋さんが、恋しいのですね」

 先日はじめて、自分の気持を正直に伝えた。その相手が脳裏に浮かぶ。それなのに、今、はじめて会った同性に、弄ばれている。

「もっと想って下さいな。その想いが強ければ強いほど……落とし甲斐がありますから」

 アト子にとって「ニエ」とは、略奪愛の犠牲者を指す。彼女は宇宙的な變態性慾者だ。誰かを愛している者でなければ肉欲を満たすことが出来ない。自らの欲望のために、他人の清らかな愛を汚す。そして、奪う。ただ己の欲を充たすが為に他人の運命を破壊する。

 珠緒の身体が、火照っている。しかし、感じてはいない。心がリミッターになって、性欲の暴走を食い止めているのだ。ひたすら、真尋の名を繰り返す。だが、次第に、その呟きに力が抜けていく。身体が、次第に快感を認識しようとしているのだ。

「八坂……くぅん!」

 対抗しようとひときわ大きく叫んだその刹那、アト子は開くに任せていた花弁を、すっと撫でた。

「ヒッ!」

 ほんの少し生まれた火花だが、アト子は此処ぞとばかりに敏感な部分を刺激する。腕が瞬時に、何本にも生えたかのようだった。珠緒の全身に行き渡った毒に、引火させ、誘爆させる。

「…………ッッッンンン!?」

 真尋への思いが、快感の大波にさらわれる。頭が、体が、心が、何もかもが真っ白に染まる。そして、絶頂の後残されるのは、後悔と絶望と自己嫌悪の、漆黒の闇。

「心を開けば……」

 アト子は、放心し、息も絶え絶えな珠緒のパンティを脱がせに掛かった。忘我の縁に漂っている珠緒からは、さしたる抵抗もない。

「必ずしも、服を脱ぐ必要は無くなる……」

 脚を触りながら、ゆっくりと。珠緒の大事な部分を守っていた白い布は、花弁から漏れた蜜で溢れんばかりに濡れて、糸を引いている。

「私に全てをさらけ出すのはお恥ずかしいでしょうね。ですから、私が脱がせるのは、これ一枚にしておきます」

 アト子の言葉にまだ気持ちの整理がつかない珠緒は安心してしまった。しかして、発情した女芯以上に、女にとって「全て」など有り得るだろうか?

 とろり、とろり、と、蜜は溢れ続けている。珠緒の肌は朱に染まり、秘すべき花弁もまた、充血し、受け入れる準備が整っている。

 アト子が自分に覆いかぶさってくるだろうという、珠緒の予想は外れた。アト子は脱ぎ捨てた長襦袢を、床に敷いて横たわる。完全なる女体がそこにあった。

 贅肉と言う概念自体存在しない、正しく神の領域。横になっても、重力に逆らい、全く形を崩さない双の乳が羨ましく、色っぽい。男が女を抱きたがる理由が、珠緒も少し理解できた。

 いつの間にか、珠緒はアト子の身体を跨いでいた。彼女の秘所の真下には、起立した異形のペニスが結合の時を待っている。垂れ落ちた珠緒の秘蜜で、既に濡れて輝いて居る。

「珠緒さん、ご自分で腰を下ろして頂けませんか?」

「ええええ!?」

 そんなことが出来るはずもない。なにせ、初めてなのだ。しかし、今の珠緒は操り人形。自らの意思に関わらず、身体が、じわり、じわりと、アト子の元へと沈んでいく。

「ああああ…… 熱い……」

 アト子の分身が、珠緒の秘部に触れた。きゅう、と無意識に、口付けるように入り口はすぼまった。実際には反射的に抗がったのであろう。アト子はその感覚を感じているのだろうか、妖艶に微笑んで、悪魔のごとき提案をする。

「折角ですから御覧なさいな。珠緒さんが、女になっていく姿を」

 自然に目が行ってしまう。アト子の分身が今まさに侵入しようとしている。そして続きを観察するためには、珠緒は自らスカートをたくし上げなければならない。

「ああっ!?」

 ぞくっ。未だ自分さえ触れたことのない部分が抉られる。黄色と黒という、危機感を煽る器官が、少しずつ、自分の胎へと突き進んでいく。

「ごめんなさい! ごめんなさいぃ!」

 ゴリッ、ゴリッ、と軋むような感覚が響く。薄っすらと血が、滲んでいる。珠緒の秘肉は侵入者に抵抗をしながら、結果として強く抱き締めていく。珠緒は目が離せなかった。スカートを両手で、吊り下げるというはしたない姿であっても、目を背けることは出来なかった。

 女の深淵を、自分が愛する相手ではない、先ほど初めて出会った同性に侵されていく。その狂気が、ゆっくりと、珠緒の心身を冒していく。

「はぁ……はぁ…… ふぅ……」

 どれだけ時間が経っただろうか。珠緒の胎は、アト子のすべてを呑み込んだ。脈動するソレは、珠緒の子宮口に達し、彼女の胎内を圧迫していた。彼女の全身から汗がふきだしている。珠緒は先ほどと同じ、感覚の喪失を感じていた。体の奥から滲み出てくる、未知の感覚に、再び、脳が置いてけぼりになっている。

「あら……珠緒さん? 動いては、くれないのですか?」

「!?」

 アト子の言葉に、暗示にかかったように、珠緒は身を捩ろうとする。

 しかし、動けない。ふざけて高いビルの窓から顔を出した時のように、身が竦む。

 何より、動き方がわからない。

 そして、自分から快楽を掘り起こせるほどの経験値はまだ、彼女にはない。

「ふふふ、意地悪をしてしまいましたね」

 体を起こし、優しく、それでいてサディスティックな笑みを浮かべながら、熱に浮かされている珠緒をつながったまま、そっと抱きしめるアト子。

 乳房と乳房が、ゆっくりとふれ、そして潰れあう。アト子は器用に身を翻しながら、己の乳首で、珠緒の先端を愛撫する。

「あっ……あっ…… ……ああっ……」

 頂点同士が掠れると、珠緒は思わず、甘い声を上げた。今まで想像もしたことのないことをされた。そう、これは性愛なのだ。夢うつつの中に浮かんでいた彼女の意識が、無意識のうちに否定していた行為を理解する。すとんと腑に落ちた。

 導火線に、火が点いた。それが始まりだった。

「……ふぅ…… ふあ!? ああ!? ふあああ?」

 遅れてきた快感が、珠緒の身体を支配した。行き場を知らず澱んでいたエネルギーに、方向性が定まった。一気に、収斂し、噴出する。

 忘我。ただ、忘我。

 珠緒だって年頃の女の子だ。自分を慰めたことはある。しかし、本物を知らなかった。期待と不安と、恐怖の壁を作っていた。アト子はそれらを、やや強引に引き剥がし、自分の色に紡いでいく。

 アト子は珠緒の口を吸う。珠緒は嫌がらなかった。舌を潜り込ませ、腔内を嬲る。珠緒の舌を起立させ、絡ませる。震える身体を抱きしめて、唇を離す。

「アト子……さん……」

 目を細めて、荒い息で珠緒がつぶやく。強すぎる刺激に、朦朧としている。アト子はその出来上がりぶりを確かめ、次のステップに進む。

「今度は私が動いて差し上げますわ」

 アト子は珠緒の上体を跳び箱に預けた。そして脚を広げさせる。スカートの奥の、珠緒の肉弁が、ヒクヒクと、アト子を誘う。

「ひぃっ!?」

 パン! 大きな音が倉庫に響く。勢い良く、一撃でアト子は珠緒を貫いた。強力な振動が、珠緒の胎内に木霊する。目を見開く。ソレは痛みではなかった。女としての、十分な刺激。

 何度も、何度も繰り返される。

 初めてなのに、感じるわけがない。珠緒も知識としては知っていた。しかし、人外の、神ともいうべき存在に犯されながら、女の喜びを味わえないわけがない。人ならざる歓楽に、焼き尽くされないわけがない。

 体中が熱い。汗で服が、土砂降りの雨に濡れたようにぐしゃぐしゃになる。しかし不快感はなかった。跳び箱に、胸を押し付け、ひっきりなしに襲い来る快感の連打に、身を震わせて耐える。まだ、楽しむ余裕は無い。

 子宮を貫く振動に、脳を焼かれる。

「あああ……やだよぉ……八坂君…… 八坂……君……」

 身を捩りながら、愛しい人の名を呟く。

 しかし、アト子の表情は嫉妬に狂う鬼女のものではなく、愉悦を噛み締める含み笑いだ。

 女の最奥が、何度も、何度も突き上げられる。体育倉庫は、珠緒とアト子の雌の匂いに染まっていた。じっとりと湿り、空気を変えている。

「ああ、変ッ! 変だよぉ! 私……変わっちゃう!」

「いいのよ。変わってしまいなさいな。精をやって、しまいなさいな」

 絶頂までのラストスパートだ。経験がなければ、胎への刺激でイク事はできない。しかしながらアト子は神性を帯びる存在。質量ともに圧縮することぐらい、訳はない。

「ああああ!!!」

 ガクガクと意思とは関係なく心身が、弾ける。処女が感じてはならぬ、最初で、最高の絶頂を感じてしまった。

 珠緒は漂っていた。己の奥底に埋もれていた、女体の神秘を感じていた。

 女の部分が、アト子を締め付けているのを感じる。離さないでいるのが分かる。

 呼吸を整えながら、ようやく身を起こす。アト子は、珠緒の乱れた服を直してやりながら、珠緒の様子を伺っている。珠緒は戸惑っていた。自分の中に湧き上がる気持ちを、整理できずにいた。

 物足りない。

 女の、メスの本能が、本来であれば受け取っただろう精液の注入を欲していた。あれだけの快楽を貪ったと言うのに、子宮が物欲しげに、蠢いている。

「私の精が……欲しいのですか?」

 一瞬、キョトンとした珠緒であるが、恥ずかしそうに頷いた。

「ふふふ、残念ですが、私が放つのは精液ではなくて毒なのですが、よろしくて?」

 毒、と聞いて珠緒の表情は曇る。だが、瞳の奥にちらついている情欲を、アト子は見逃さない。

「……人間で居られなくなるかもしれませんが。本当によろしくて?」

「……うん……」

 潤んだ瞳を伏せながら、珠緒は再度、頷いた。もう少し。アト子の内心は邪悪な愉悦に打ち震えている。もう少しで、堕とせる。しかし、決して表には出さない。

「それでは、珠緒さんが、私を気持ちよくして頂かないと」

 アト子は再び横たわる。先ほどと同じ体位だ。先ほど処女を散らしたのと、同じ体位だ。珠緒は気だるそうに、アト子に跨る。

「ンンンッツ!」

 珠緒は、躊躇なく、腰を落とした。一気に奥まで貫かれ、物欲しげだった胎内が安心と期待に満ちる。

 アト子は珠緒の腰に手を添えて、動き方を教えてやる。始めはゆっくり、擦るように。アト子自身が抜け出ないように。男を扱うコツを、じっくりと、丹念に。

 そして、手を離す。

「ン…… ああ…… 気持ちいい……」

 少し蕩けた表情で、珠緒は自らの意志で、自らのリズムで上下する。アト子が蹂躙した、疼きが残っている箇所に、重点的に擦り付ける。

 疼きは甘い痺れになって、珠緒を包み込む。緩みきった顔を見せるのは、アト子が初めてなのだろう。もちろん、今の自分がどんな顔をしているのか、珠緒は知る由もない。

「本当に珠緒さんはかわいいですわね」

 アト子の手が、珠緒の頬に触れる。女と女。通常であれば交わりえぬもの。今こうしてつながっていることが、一つの奇跡だと素直すぎる珠緒は思った。

「ですから、やはり、苛めたくなりますわ」

「アト子……さん? ……ンンンッ!」

 アト子は下から突き上げた。一瞬浮かぶ腹筋が、艶めかしい。

「ンッ…… ンッ…… ンッ…… ンッ……」

 珠緒もリズムに合わせて、臀部がパチリパチリと音を立てる。秘所がヌチャヌチャと、はしたない音を奏でる。先ほどの、一方的に享受するだけではない。彼女は自分の意志で、登り詰めようとしていた。

 喉の奥から、掠れた声が漏れる。既に嬌声ではない。

 感極まった珠緒が、声なき声を叫ぶ。

「受け取りなさい。私の精を」

 いっそう深く打ち込まれたアト子の化身から、熱の塊が噴きだした。

「ふひぃ!!」

 一旦落ち着こうとしたし珠緒の肉体が、さらなる高みに押し上げられる。

 吹き出したのは白濁した体液ではなかった。もっと濃密でありながら、瓦斯のように実体を持たない、気とかオーラなどと呼ばれるモノ。瘴気と言っても過言ではない。

 毒だ。珠緒は猛烈な噴射を受け止めながら直感した。女にとっての猛毒。オンナをメスにする劇薬。

 彼女の子宮の中で弾け、血流に乗って拡散し、細胞の一つ一つへと染みこんでいく。

 変わる……

 珠緒は目を閉じて、変容の愉悦を味わっていた。邪神の精を受けて、人間のままでなど居られないのだ。

 身体に力が満ちる。意識が広がり、時が止まる。研ぎ澄まされた五感はもはや人の身では受け取れぬ領域まで拾い取り、人の身には備わっていない感覚をも感じ取れるようになっていた。快感は倍加しながらなお、狂気に陥ることはなく、過去未来に渡る因果の糸すら認識できた。

 ゆっくりと、目を開く。

 羽化したばかりの蝶の気分であった。実のところ、脱皮した蜘蛛と言うのが正しいのだけれども。

 珠緒の瞳は、朱に染まっていた。幼さを残していた肢体が、妙に女らしく丸みを帯びていた。先程までの二人は大人と少女ほどの違いが在ったのに、今では、姉妹のように似て見える。

 アト子はこの上なく、満足そうな表情を浮かべていた。珠緒をじっと見つめていると、彼女の方から口を近づけ、舌を入れてきた。妖艶な微笑みを交わす。既に彼女は同族。人間だった頃の思い出など、真尋への思いと共に打ち捨てた。

 互いの口を吸いあう。互いの体液を交換しあう。背徳の味はくどいほどに甘く、とても辞められそうにない。

 二人の夜は、まだ、終わらない。


おまけ:

Q:なんで全部脱がさないのですか?

A:姉様リスペクト、ですから。

Q:珠緒の危機はイス香が守るのではないでしょうか?

A:え? あのイス香ですョ?


???